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第45話 ジルトルト少年編 2


トレール・ジルトルト11歳。ジルトルト家の3男として生まれ、いつか父の様な2つ名を持つ騎士になる事を夢見て鍛錬に励む、胸の内に熱い心を持つ少年。自身が男である事に使命感を持っているため、女性は守る者だと言う認識が本人の中で根強く浸透している。その見た目と紳士的な態度から寄ってくる異性はたくさんいたが、トレールは誰とも距離を縮めようとはしなかった。なぜならトレールは既に心に決めた人がいるからだ。

それがこの国の王女、エリーゼ・ヴィ・ヴァルドだ。

きっかけはトレールが8歳の頃、父の付き添いで王宮に行きエリーゼと共に卓を囲む事になった時。特に話が盛り上がった訳でも、手が触れ合った訳でもない。トレールはただエリーゼのその子供ながらに凛と佇む姿に一目ぼれしてしまったのだ。

それ以来トレールは何度もエリーゼにアプローチをかけ続け、たまにお茶を飲める関係にまで発展した。王女の方はトレールを友人としてしか認識していないようだが、それでもいつかは気持ちを自分に向けてやるとトレールは奮闘していたのだ。

しかし最近、エリーゼの様子がおかしくなってしまったのだ。いつものように王宮にある庭でエリーゼと共にお茶を飲んでいる時。


『ああ、リディ。あなたは今何をしているんだ』

そこにはいつもの様な凛とした姿はなく、まるで恋心を持つ乙女なエリーゼがいた。そんな王女を見て、熱血男のトレールは思わず叫んでしまう。


『エリーゼ様!! そのリディとは誰なのですか?』


立ち上がったトレールにエリーゼは表情を変えずに

『ふふ、そうだなぁ。私に色々と教えてくれた人だ』

と言う。


『色々と!? どんな事ですか!? どんな事を教えて貰ったのですか!?』

『……それはリディと私の秘密だ』


嬉しそうに頬を赤らめるエリーゼを見て、トレールは完全にリディ=エリーゼを誑かした男と言う認識となってしまったのだ。そこからは早かった。ジルトルト領に帰ったトレールは使用人達に『リディを知っているか!?』と聞きまわり、ブランシュの領公に同名の者がいると聞くや否や詳細を聞かずにそのまま護衛を引き連れると馬車に乗りこんでブランシュに向かったのであった。




*****




「という訳で頭に血が上りここまできたんだが、しかしまさか女性だったとは」


無事な方の玄関扉を放心状態で開け閉めするユーリをアリアンヌとメイドに任せ、ジュリアムとトレール、そしてその従者のリーシャを連れ客間に向かったリディ。サラが入れてくれた紅茶を飲みながらトレールの話を聞いたリディは呆れてものも言えない状態だった。もはや丁寧語も必要ない。冷静になればリディが女であることなどいくらでも聞けただろうに……そこでリディは先ほどのジュリアムの例えを思い出し、前にいるトレールに聞く。


「ねぇ、ファンゴスタって知ってる?」

「え? ああ知っているぞ。1方向にしか進めない猪突猛進な魔物だ」


(なるほど、ジュリの言ったとおりだ)


つまり目の前の少年もその魔物と同じ猪の様な奴と言う事だ。思い込みでこんな所まで来て、その熱意が迷惑なんだか凄いんだか。


「あなたは止めなかったのですか?」

リディがトレールの後ろに立つリーシャに問う。


「坊ちゃんは思うがままに進む時が一番輝いているのです。止めるなんて出来ません!! そう、私はそんな坊ちゃんを見ていたい!!」


何故かいきなり興奮し始めたリーシャに引き、主従揃っておかしいと決めつけるリディ。リディも大概だと思うが。


「その槍に頭の栄養分取られてるんじゃないの?」


「俺の従者を馬鹿にするな! リーシャは凄いんだ! 仕事も早いし紅茶も入れられる。頭だって良いし、そして何より女性なのに強いんだ。槍の腕ならジルトルトで1番だ!」


「そんな事言ったら家のメイドのアニエスも未だに1人よ」


遠くから「関係ないだろがぁ!!」と聞こえてきたがスル―。少し話が脱線し始めたので再び元のレールに戻すリディ。


「念のため言っておくけど、王女様のあれは憧れみたいなものだから。恋愛感情なんて一切ないからね」


頭を押えながらリディが言うと隣に座っているジュリアムが真顔で言ってくる。


「そうかな? 私はそうは思わないけどな。だって咲いてたもの。百合の花が」

「……ジュリ? 聞いて欲しいんだけど、あなた黙っている時が一番可愛いわよ」


「憧れ? いや、あれは憧れなのか? 何かもっとこう……そういえば最近銀色の髪をした人形を大量につくらせていたな」

「……それは聞きたくなかった」


王女様が自分の人形を大量に飾っている姿を想像しブルッと震えるリディ。あの王女様はリディの様になりたいと言いつつどこへ向かっているのか……。と考えた所でそろそろ時刻が昼頃であることに気がつく。この街の代表役としてはそろそろ仕事に戻りたい所だ。

そこでリディは直ぐに決着がつく提案を目の前で悩んでいるトレールにする事に。


「納得できないならいいよ、あなたの予定通り決闘しよ? 私が勝ったらあなたは素直に帰る。私が負けたらいくらでも話を聞いてあげるし、何だったら極力王女様には関わらないようにするから」


元々王女に進んで関わろうなどとは微塵も考えていないが、釣り針はデカい方がいい。この提案に向こうが食いつけば後は庭に出てワンパンチで終わり。リディは晴れて厄介な者を追い出せて仕事に戻れる。

しかし、リディの提案にトレールは拒絶で返した。


「いや、それは出来ない! 君は女性だ! 女性と決闘など騎士道精神に反する」

「はっ?」


しかも、理由はリディが女だからだ。確かにリディは体は女になってしまったが、心は未だに男のままだ。服も出来るだけ男っぽいのを着るし、風呂だって女性とは入らない様にしている。別に女になる事が嫌なわけではなかったリディだが、やはり男として生きて来た期間の方が長いせいか、自分を女性扱いしてくる人物にやりづらさを感じていた。

そんな精神男な自分を女の子扱いしてくる目の前の少年にも、もちろんやりづらさを感じているリディ。


「ああそう。じゃあ用事は済んだみたいだからどうぞお帰り下さい。誰かさんのせいで玄関はいつでも空いているから」


そう言ってそそくさと客間を出ようとするリディだったが、トレールはそれおも否定して来た。


「いや、それは出来ない! 君がエリーゼを誑してる男じゃない事はわかったが、それでも確実にエリーゼの行動は君に感化されている。仮にも王女の友人なら先ほどからの君の男勝りな態度は頂けない」


トレールは立ち上がると自身の胸に拳を当て、力強い顔で言う。


「だから、俺が君の性格を矯正する手伝いをしてあげよう! 気にしなくていい。これも男の務めだ」


リディの心はこの1言で埋め尽くされた。はっ? である。しかも“してあげよう”って何で上から目線なのか、恐らくトレールは良かれと思っているのかもしれないがリディからしたら本当に余計なお世話だ。

余りのトレールの勘違いぶりに苛立ち始めるリディは、もうこいつと話すのはやめようと考える。


「わざわざ遠くから来てもらって悪いけどそんな事する必要ないから。それじゃあ私は仕事しに街に行かなきゃいけないから」


それだけ言い残しリディは扉の外に出るが、何とトレールとリーシャが後ろからついてくるではないか。嫌そうな顔をして振り返ると、トレールが悪びれた様子もなく

「俺もいこう! このブランシュも見てみたいしな」

と言ってきた。そこでリディは理解する。


(ああ、なるほど~。こいつは人の話を聞かないタイプかぁ~)


しかも熱血だからたちが悪い。恐らくいくら言っても自分の満足する結果が得られるまで諦めないだろう。この屋敷に残しておき、アリアンヌとユーリに対応させるのも可哀相だ。

リディは客間に戻り、紅茶を飲んでいるジュリアムを引きずると、トレールに言う。


「勝手にしなさい。そのかわり仕事を見たら帰ってよね。あと邪魔はしない事」

「ねぇ、何で私はあなたに引きずられているの?」

「道連れ」


リディはトレールを連れていく事にした。




最初にリディ達が来たのは建設途中の大衆浴場である。入口をくぐれば、少し広めの空間が現れる。ここは休憩所と食堂にしようとリディとアリアンヌは考えている。そこを進んだ先には男、女と書かれている2つの暖簾。潜ると更衣室、そしてその奥が浴場である。浴場では半袖の男達がせっせと汗水流して動き回っている。もう大分形は出来ており数個の浴槽には温水魔法具が取り付けられており、銭湯と言うよりは健康ランドを意識して作られている。


「凄いな、こんな大きな風呂は見た事がない」

「まだ工事中だから勝手に入らないでよね。ほらそこ! サボるな!」


トレールが浴場に入ろうとしたのでリディはそれを注意した後、ふざけている領民に活を入れる。しかしリディのこの行為をトレールが指摘してきた。


「そんなに声を荒げるなんて淑女としてダメだろ!!」

「あ~はいはい! 次からは耳元まで近づいてからボソボソ話しますよ」


トレールに適当に返しながら、現場の様子を見るが特に問題などはなさそうだ。このまま進めていけば完成もそう遠くはないだろう。


「皆さん! 安全第一でお願いしますね!!」

「「おお!」」


それだけ言い残すと、リディは体を反転させ次の場所へと歩き出す。その時、トレールが壁の張り紙を気にしだす。


「……アリアンヌ様に魔法具いじらせるべからず。何だこれは?」

「ただの煙避け」



お次は最近ブランシュに立ち上げた冒険者ギルドだ。基本ブランシュ領民は己の持っている畑、もしくは肉の産業や運搬などの仕事があるため冒険者ギルドは必要としていない。ではなぜ作られたのか。目的としては他領から来た者達がブランシュに来てもお金を稼ぐのに苦労させないため、また冒険者ギルドを介して他領と繋がりを持つ意味合いもある。リディはその辺りに詳しくないので、元冒険者のガイルに運営は任せているが、話を聞くと中々に上手くやっている様だ。

その内ブランシュも冒険者がたくさん訪れる街になるだろう。そうなると武器や防具など冒険に必要な道具が売っている店もたくさん必要となる。早い内にそちらも立ち上げる予定だ。

中に入ると数十ある机にちらほらと冒険者が座っている。仕事の話でもしているのだろうか。3つある受付には女性職員が座っており、まだ不慣れなのか慌ただしく新人冒険者と話している。リディはそのまま近くにいたクエスト掲示板に張り紙をしている職員に話しかける。


「あの、ガイルさんいますか?」

「えっ? ギルド長に何の用で……あっ! リディ様でしたか!? すみません直ぐに呼んできます!!」

「急がなくていいですよ~」


職員はリディの存在に気がつくと焦ったように奥へと消えていった。少ししたら相変わらずの仏頂面のガイルが出て来た。


「フン。ブランシュのガキじゃねぇか。また見回りに来たのか?」


「大正解。お疲れ様ですガイルさん。どうですかギルドの様子は?」


「まぁぼちぼちだな。ケガ人は多いが死人は今の所ほとんどいねぇよ」


「この前亡くなられた方がいたって聞きましたけど?」


「あ? ……ああ、気にすんな。あれは80の爺さんが薬草採取してる最中に寿命が来ただけだからな。最後まで冒険者でいられて満足してるんじゃねぇか?」


「そうですか、スゴイ人もいるんですね。ガイルさんの方はいきなりギルド長になって大丈夫ですか?」


ガイルがここのギルド長になってもらうにあたって、元々やっていた魔物肉の料理屋は閉店して貰っている。本人の許可があったと言っても、リディはその辺りに少しながら申し訳なさを感じているのだ。しかし当のガイルは気にしていない様子だ。


「フン。ま、ここでも料理は振る舞えるから問題はねぇよ。そんな事ガキのお前が気にすんじゃねぇよバカ野郎」


そう言い乱暴にリディの頭を撫でるガイル。逆に気を使わせてしまったみたいだが、リディも少しうれしい気持ちになり甘んじてそれを受け入れていた。

しかしそのやり取りを横で見ていたトレールは苦い顔で乱暴にリディの頭を撫でているガイルに言葉を発してきた。


「ガイルさんと言ったか、あなたは少し女性に対して口調も行動も乱暴ではないですか? それに領家の娘に対してガキなどと言った発言は失礼にあたいします! 直ぐに治して頂きたい!!」


トレールの発言に水をさされた気分になるリディ。ガイルも同じ気持ちなのかその顔をさらに険しくしている。

(はぁ~、こいつは空気が読めないのかね?)


「ジュリ、そのKYを連れて先に外に出ていて」


「了解。行きましょ? KYさん」


「ケーワイ? ケーワイとは何だ?」


「気配り出来る奴って意味よ」


トレールとリーシャをジュリアムに出して貰い、再びガイルに向き直るリディ。


「誰だあのガキは?」

「偉い人の子供ですよ。私と決闘しに来たんですって」

「じゃあ何で生きているんだ?」

「ははは! ……どういう意味ですか?」


その後、ガイルと少し話してこちらも問題なさそうな事が分かり次の場所に向かうリディ達。



お次は露店通りを見て回る。この通り最大級のブランシュ肉料理専門店を筆頭に他領では見られない数多くの店が立ち並んでいる。集客効果も上乗の様だ。

その店の数々に目移りしているトレールとリーシャを引っ張ってリディとジュリアムは人混みを抜け最近新作が出来たと言う串焼き屋に到着する。

店の店主に軽く挨拶を済ませ、昼飯がてら新作の味見をするリディ。

ジュリアムは横に設置してある椅子に座り串から皿に移して食べているが、それでは串焼きの意味がない。

トレールとリーシャは食べ方が分からないのか、頭にはてなマークを浮かべている。


「ん~、これはいいかも。濃い肉の間に野菜が挟んであるからあんまし重く感じない。名前は何にするの?」


「はい、色々考えたんですが『ブランシュの肉と野菜交互に刺しちゃいました!』にしようかと」


「そのまんまですな~、それに長い」


「なら『肉と野菜のワルツ!』なんてどうですか?」


「串焼きにワルツってのもなぁ~」


「……じゃあ肉野菜でいいですね」


「あれ? ふて腐れてる? ごめん一緒にいい名前考えよう!!」


ブランシュ肉とブランシュの野菜が交互に刺さっている串焼きを立ながら食べ店主と話すリディ。しかしそんな時でもトレールの指摘は止まらなかった。


「君は何をしているんだ!?」


「は? 新商品の試食だけど?」


「そんな立ちながらものを食べるな! 食べながら話すな! 仮にも令嬢だろう、周りに見られても恥ずかしくない態度を取ってくれ!!」


顔を近づけ大きな声量で叫んでくるトレールに反論するリディ。


「これはこんな風に気軽に食べれる事を想定して作られてるの! 新商品になるかならないか判断するんだから一番おいしく食べられる方法を取らないでどうするのよ!!」


「串から取っても問題ないだろう!? ジュリアム嬢を見てみろ! 皿に移して食べているがおいしそうに食べているぞ!」


リディはお上品に串焼きを食べているジュリを指さし叫ぶ。


「ジュリは味オンチだから肉食べても、野菜食べても、竹串食べても大体おいしいって言うわよ!」


「リディ? 今この串焼きの名前思いついたわ。『親友を刺し殺す道具』よ」


ジュリアムは何も刺さってない竹串を持ちながらそう言った。もちろん採用はしない。



そんな事があったがリディ達はそのまま次の目的地の露店通り最大級の肉料理屋に向かう。

しかし、ついてみると店の外で店員2人が言い争いをしているではないか。

「何かもめているわね」

ジュリアムの言葉に喧嘩の様子を伺うリディ。


「だから、俺はこんな物発注してないってば!!」

「じゃあこの積み荷は何だ!? お前しかいないだろ!? ほらサインもお前のだ」

「知らねぇよ! 俺はこんなのした覚えはねぇよ!!」


店先には2つの大きな積み荷、その上に大量の木箱が積み上げられている。どうやらあれが言い争いの原因らしい。白熱する店員2人は胸倉を掴み合っている。このままでは殴り合いに発展しそうなので、リディは事態を治めようと1歩前へと足を進める。 しかしそんなリディの肩を掴みトレールがさらに前へと出て来た。


「待て」

「今度は何?」

「君は女性だろ? 喧嘩の仲裁は危険だ。俺に任せておけ」


かっこいいセリフを残し、そのまま喧嘩の仲裁に向かうトレールに不安を感じるリディ。横のジュリアムは呆れたように、リーシャは自分の主の行動に興奮している。

「行っちゃったわね。大丈夫かしら?」

「ああ、坊ちゃん! 女性を危険な目に会わせないために自ら体をはるとは! 何と凛々しいのですか!!」


しかし期待を裏切らないというか何と言うか……何を言われたのか分からないが店員2人の喧嘩がトレールを交え3人の喧嘩へと発展してしまった。


「ああ、こじれているわね」


「……もうっ!」

リディはそう叫ぶと、苛立ちながら仲裁に向かった……。


それからも事あるごとにリディの態度を指摘し続けるトレール。しかも行く先々で出しゃばり事態を乱すからたまったものではない。夕方になる頃にはリディの精神はへとへとになってしまっていた。


「はぁぁぁぁぁ」

「コラ! そんな大きくため息を吐くな!」


街の外れにあるクルト邸の近くの岩場で腰を下ろし休憩するリディとトレール。目の前にある柵の中ではたくさんの牛が鳴いている。ジュリアムとリーシャがトイレに行きたいと言うので少しの小休憩のつもりだが、隣に口うるさい男小姑がいるのだからそれも無理だろう。


「何でこんな疲れているか教えてあげようか? ヒントはあなた」


「指を指すな!」


「はぁぁぁぁぁ」


「ほらまた! 王女の友人なら、いやそうでなくても君はもっと淑女として恥じらいを持つべきだ!」


「もういいでしょ? あなたいつまでそんな事言うつもりなの?」


「もちろん、君を矯正させるまでさ!!」


またそれか、とリディは苛立つ。もうすぐ日が暮れるが恐らくトレールはブランシュ家に泊まるだろう。そしてこのままでは屋敷に戻っても永遠と女だからどうたらとか恥じらいがこうたらとかを言い続けるとリディは感じていた。

流石に家に帰ってまでそんな事を言われ続けるのはごめんこうむりたいリディは少し直球に自分の意思を伝える事に。


「何度も言っているけど余計なお世話。私は人生で大切なのは他人にどう思われるかじゃなくて、自分がどうしたいかだと思ってるから。だから髪も短く切るし、ズボンを履く事だってある。それともあなたは誰かに生きてって言われて生きてるの?」


「いや、違うが……しかし女性と言うのはもっと――」


「――あなたの言う女性っていうのが小指を立てて紅茶を飲むような事なら、私はそんな道選ばない。茶葉じゃ敵は倒せないからね」


リディの言葉に首を傾げるトレール。


「倒すって、君が戦う訳じゃないだろ?」


「他人に任せるって? やめてよ信用できない。自分の守りたいものは自分で守る。その為に私は力をつけたんだから……ん?」


そんな時、リディは視線の先に気になる人物を見つけた。


「ど、どうした?」

「あれ」


疑問に思っているトレールに視線で合図をするリディ。その先には行商人らしき2人組の男が周りを気にしながら裏路地に入って行く所だった。しかしリディはそれに違和感を感じていた。


「ん? あの行商人は確か……」

「知っているの?」

「いや、今朝門の前でもめていた奴らだ」

「今朝? ……おかしいわね」


今朝このブランシュに来たばかりの人間が、もう日が暮れると言うのにこんな宿屋も食事処もない場所にいるなんて、しかもあの周りを気にする様な態度……何かバレたらまずい事でも隠しているかのようだ。

リディは直ぐにその2人組が怪しいと気がついた。しかし隣のトレールは特に何も感じていない様子だ。


「おかしい? どこがだ?」


「こんな時間にあんな人気の少ない場所でうちの領民でもない人間がコソコソとしてるのよ? 怪しいと思わない?」


「……いや、特には思わないが」


「それはあなたが綺麗なものしか見てこなかったからよ」


「あっ! 待ってくれ!」


トレールに共感を求めるのはやめ、リディはその2人組の後を追うため走り出す。さて鬼が出るか蛇が出るか……。




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