第32話 王都編 3
広大な空間。大きい窓の一つ一つには左右に金色の蝋燭立てがついており、火の光をさらに強く反射させている。天井にはドラゴンと人間が戦っている姿が描かれそこから大きなシャンデリアがいくつもつり下げられている。そのシャンデリアには属性魔法石が付属されており、人工的な光がさらに場内を明るく照らしている。地面には真っ赤な絨毯、その上にある大きな机には、およそ一般人がありつける事の出来ない豪勢な食事とワインの数々が敷き詰められている。まさに豪華絢爛を絵に描いたような場所。
ここが、本日社交界が行われる王宮の大広間である。
複数の領家達が色とりどりな料理に囲まれて会話に花を咲かしてるが、誰1人として食事や飲み物に手を出していない。
その理由は大広間の奥、絨毯が敷き詰められた壇上の上で立派な椅子に座っている40代程の男性がまだ社交界開始の合図を出していないからだ。
暗い赤色の髪に髭を生やし、金色であしらわれた衣服が霞まない程の風格が醸し出されている。彼こそがこの国の現王、ジェイクス・ヴィ・ヴァルドである。
領家達ももうそろそろ予定された時刻なのになぜパーティーを王が開始しないのか、疑問に思っていた。
「あれです、まだブランシュ領公殿が来ていないのですよ」
状況を察した領家の1人がそう言うと、次々とブランシュへの中傷が始まる。
「予定の時刻より前に来るのが領家の常識だろうに! 田舎者にはここの常識は通用しないのか?」
「全くもってその通り。いやはや同じ騎士上がりの領公様でも、ジルトルト様とは偉い違いですな」
「最近羽振りが良いからと言って天狗になられているようですな。どうせあの冷たい男の事だ。汚い手を使ったに決まっている」
「いっその事あのブランシュ領を私に引き継がせて貰えれば、もっと繁栄させて国に貢献できるのに。無能が上に立つと碌な事にならないな」
最近ブランシュ肉や属性魔法石、他にもパルムとの共同で開発している魔法具による売り上げが右肩上がりなブランシュ家。他の領家達はそれが悔しいのだろう、好き勝手に悪口を言い合っている。
中にはその中傷に苦い顔をする、パルム領公家のジュリアムとダリアの様な者もいるが。
「何かあったのでしょうか?」
王の横にあるもう1つの椅子に座っている少女が心配そうに言う。純白なドレスに銀色のティアラ、右肩から垂らした赤い三つ編みと優しそうな目が特徴の少女。彼女は現王の娘、エリーゼ・ヴィ・ヴァルド10歳である。
そんなエリーゼの言葉に王が難しい顔をすると、一人の侍従長が王に耳打ちをしてくる。
「ふむ……どうやら来たようだな」
王の呟きと同時のタイミングで大広間の扉が開かれ、皆そちらに目を向ける。
最初に入って来たのは、領家達の中傷の的となっていたブランシュ領公家当主、ユーリ・ブランシュ。
遅れてはいないものの、皆を待たせたと言うのにそれを何とも感じていないかの様に冷たい無表情で入ってくる。白いスーツ風な領公服のせいで、ユーリの悪印象がさらに際立っている。改めて見るとやはり極悪な領家の様だ。
しかし、そんなユーリよりも皆の視線を釘付けにしている者がいた。ユーリの数歩後ろを歩くリディである。
「誰だ、あれは?」
1人の男性領家がそう口からこぼした。他の領家達もリディが気になってしょうがない様子だ。
悠然と王の元へ歩く白い悪役領家に、まるで物語のお姫様に黒いドレスを着せた様な少女。着ている者で互いに互いを示している様に見えてくる。
微笑んだ訳ではない、声を発した訳でもない。ただ歩いているだけなのに、リディは会場の目をくぎ付けにしたのだ。
日頃のリディを見た事がある人物なら、あれが演技だと即見破れるだろう。しかし初見の人間にはリディがまさに完璧な、いや完璧以上な淑女に見えている事だろう。
――美しい……会場の心はその一言で埋め尽くされる。
そんな視線を一身に受けているリディの心情はと言うと……。
(なに見てんだコラ? ぶっ飛ばすぞ! お前もぶっとばーす! お前とお前もぶっとばーす! ついでにお前もぶっとばっ……あれジュリだ)
ここに来るまでかき回され続けた結果、不機嫌になり領家を心の中で殴り倒す事で鬱憤を晴らしていた。
まさか目の前の美しい少女がそんな事を考えているとは皆思いもしないだろうが、まぁ見た目に騙された領家達が悪いだろう。
「ヴァルド王。遅れてしまい申し訳ありません。ブランシュ領公家、ただ今到着いたしました」
壇上の前で立ち止まり片膝を着き、右手を心臓に添えるユーリとその動作を真似るリディ。
王に忠誠を誓う意味のある、この国の領家の敬礼である。
「よい、頭をあげよ。遠路はるばるよく来てくれたな」
「王様がお呼びとあれば即座に、とまでは行きませんでしたが、自身の最大限の力を持ってはせ参じるのは領家の務めであります」
威厳のある王の声で、頭を上げたリディは声の主である目の前の王をじっくりと観察していた。この国の絶対的な支配者にして人々からは神様のような扱いを受けているヴァルド王。普通の人間ならば、恐れ多くて目も合わせられないそんな王も、リディにとっては不快な存在でしかない。
この男が長年ブランシュを見捨て続けてきた奴か。そんな考えに怒りがこみ上げてくるが、それを顔には出さずに、ユーリと話す王を見続ける。
そんなリディはふと熱い視線を感じ王の横に目を向ける。
「じぃ~」
何故だか王女様が少し興奮したようにリディを見ているではないか。
(え? 何かめっちゃ見られてるんだけども……どうすればいいのコレ? でも何か逸らしたら負けな気がする)
エリーゼの視線にガッチリと合わせるリディ。それはもう穴が空くくらいの気持ちを込めて見続ける。
「……う」
顔を赤らめて視線を逸らしたのはエリーゼが先だった。それを見て少し素が出てしまいニヤッとするリディ。
(フフフ、勝ったな)
「リディ?」
ボソッと呟くユーリにリディは即座に顔を引き締め令嬢モードに切り替える。面倒ごとを避けるため、この会場では常にこのスタンスを保っていろとユーリに言われているのだ。
軽い挨拶を終えた王は次にここ近年のブランシュの発展について話し始める。
「ブランシュ領公よ。最近のお主の領地の発展には目を見張るものがあるな。ここ王都にもその恩恵が来ているぞ。素晴らしい手腕だな」
「お褒め頂き、恐悦至極であります。しかし私だけの力ではございません。我が領民、家族……そしてここにいるリディがいたからこその成果です」
王の視線がリディに移ったので、目線を合わせるリディ。
「ほう……話は聞いていたが、まるで絵画から飛び出したかのような娘ではないか。それに私の前でも物おじしていない。肝もすわっておるな」
王に頭を下げ感謝を述べるリディ。
「いえ、王様を前に緊張して取り繕うのがやっとでございます」
(誰があんたみたいなおっさんにビビるかよ。ひげ毟るぞ)
緊張以外は本音である。
「はは、有能な娘に育てたな。ブランシュ領公」
「はい。私などには勿体ない出来た娘です」
「うむ」
満足そうに頷くと立ち上がる王。
「さて、少し長くなってしまったがそろそろ始めようではないか」
王の合図で、王都主催の社交界は始まりを迎える。
******
さて、社交界が始まり領家の皆は談笑や情報交換、婚約や商談についての話で花を咲かせている。ユーリと共に領家達への挨拶を終えたリディは早速壁の花と徹する事にするが……。
「あの! お名前は何と言うのですか!?」
「リディです」
「良かったら今度家に遊びに来ませんか!?」
「色々と忙しいので……」
「あなたは僕のお姫様だ!」
「本物はあそこにいますよ」
「はぁ、はぁ、リディちゃん」
(キモ!)
多くの男子領家に囲まれているのであった。どうやらリディの見た目にコロッと騙されてしまったらしい。
うっとおしい。精神が男であるリディとしては男にモテても全然嬉しくない。じゃあ女子達はどうしているのだろう?
「何あの女! ちやほやされちゃって! 別に見た目も大した事ないじゃない!」
「いい気になってんじゃないわよ! 田舎者のくせに!」
「そうだ! あいつの靴にこっそり針でも入れましょうよ」
「「いいですね!」」
女子からは嫉妬の対象になってしまっていた。
(誰か……助けて~)
そんな状況に苦笑いで助けを求めるリディ。偶然なのだろうがそのタイミングで親友であるジュリアムが声を掛けて来てくれた。数年の月日が経ちもうジュリアムも立派に成長していた。髪は相変わらずの前髪パッツンだがそれが逆にジュリアムの大人しい見た目にマッチしている。
「お久しぶりですわねリディ。あんまり大人しいから別人かと思ったけど」
「ジュ、ジュリ! 助かった~」
ジュリアムに駆け寄り、耳元で必死に言うリディ。。
「ヘルプぅ~おとうさまに言われてここではあんまり出過ぎた事出来ないのよぉ」
涙目で懇願するリディにジュリアムはニヤッと裏のある笑みを見せる。
「来月の魔法石、50個追加でどう?」
「し、親友でしょ? 無条件で!」
「ん~、あっちにもあなたに興味津々な子がいたわね~。呼んでこようかしら?」
「ぐっ! ……30個」
「全然聞こえないわね~」
「40! じゃあ45! ……わかったその条件で!」
「素直な親友を持てて、嬉しいわ……はい皆さま! リディも始めての社交界でお疲れの様なので休ませてあげましょう? それではこれで!」
そう言ったジュリアムに手を引かれバルコニーに連れていかれるリディ。男子達も悪いと思ったのかついてくる事はなく、無事解放されたリディ。
「ありがとうジュリ。でも50個なんて過労で死んじゃうかも」
「おお、そしたらその死体は言い値で買い取りますよ」
「……ねぇ、道徳って言葉知ってる? あと倫理とか3ピースとか」
「あってないようなものだわ、それ」
手すりに背を持たれかけさせ、隣り合うように立つリディとジュリアム。
もうすっかり外が寒いせいかバルコニーには誰もおらず、その静寂と冷たい風がリディの心を少しばかり癒してゆく。
もう社交界も終わりに近づいている。後はここで時間を潰しておこうと考えるリディ。
「ほら、あれ見て」
ジュリアムが室内を指さす。中ではユーリとジュリアムの父、ダリアが他の領家達に囲まれていた。まぁ中にはその2人を睨んでいる輩もいるが。
「おお! おとうさま達大人気だね」
「ある意味ね。最近の私達の商売にあやかろうって魂胆が見え見えなのよ。あれだけ馬鹿にしておいて清々しい位の手のひら返しだわ。ふふ、誰が甘い蜜なんて吸わせるものですか。全部私達で吸い尽くしてやる」
「……こんな顔の人間に道徳が分かる訳ないか~」
「バラバラにされたいの?」
ジュリアムのゲス顔に若干引くリディだが、概ねその意見には同意だ。リディ自身そこまで利益に執着はしておらず、純粋に協力的な人だったのならいくらでも手伝ってもらいたい気分だ。人はいつでも足りてないのだから。
しかし領家となると話は別だ。皆がそうではないが奴らはいつでも自分の事しか考えていないのがほとんどだ。この世界に来て6年、その事はリディが身を持って体験している。
故によっぽどの信頼関係がない限り手を結ばない事を決めて、ブランシュ家は現段階ではパルム領公家とその領公家の信頼のおける領家としか仕事をしていない。
「気をつけなさいよリディ。いい顔してすり寄ってくる人間なんて五万といるんだから。騙されるんじゃないわよ」
「大丈夫よ。そういうのはもうあなたで懲りてるから」
「……そう言えば、ここではあなた大人しくしてなきゃいけないのだっけ? ほらほらぁ~ほぉ~ら。反抗したらユーリ様にチクってやるから」
嫌な笑顔でリディの顔をつねり始めるジュリアム。
「ほのやろふぅ~おほえへろほ~(この野郎、憶えてろよ~)」
誰もいない事をいい気にそんな風にジュリアムとふざけ合っていると、突如横から声がかけられる。
「随分、楽しそうだな」
ギクッとしながらそちらを見ると、何とこの国の王女様。エリーゼ・ヴィ・ヴァルドが微笑みながら立っていた。
いきなりの王女様登場に即座にじゃれ合いをやめ頭を下げるリディとジュリアム。
「堅苦しいのはなしだ。頭を上げてくれ」
「は! わかりました」
と言いつつもジュリアムは態度を変えずエリーゼに接する。リディもそうだ。まだ子供だが目の前にいるのは紛れもない王族。その1言で何百と言う人間の首が文字通り飛ぶ事だってある。何がきっかけで王女の機嫌を損ねるか分からない今、接し方には最大限の注意を払わなければならない。
「去年の建国記念日以来だなパルム令嬢。息災な様で何よりだ」
「痛み入ります。エリーゼ様もお元気な様で良かったです」
「相変わらず堅いな。あなたは」
堅いジュリアムに苦笑いのエリーゼ。
リディは取りあえずエリーゼと初対面なので、そうじゃないであろうジュリアムに対話は任せて自分は必要最低限の相槌だけ打っておこうと考える。しかしエリーゼはどうやらリディに興味がある様だ。
「ブランシュ令嬢。会うのは初めてだな。エリーゼ・ヴィ・ヴァルドと言う」
エリーゼがリディに手を出してくる。もちろんその手を掴む以外の選択肢などない事ぐらいリディだってわかっている。
「こちらこそ初めまして。ブランシュ領公家が娘、リディ・ブランシュと申します。偉大な王女様に出会えて光栄でございます」
手を握り返し微笑むリディになぜか固まってしまうエリーゼ。
「? どうかなされましたか?」
「えっ!? あ、いや何でもない! 何でもないのだ!」
顔を赤らめながらあたふたとするエリーゼに首を傾げるリディ。なぜかジュリアムが微笑ましそうにリディに耳打ちしてくる。
「私はお邪魔みたいね、お花でも摘みに行ってこようかしら……百合のね」
「何ドヤってんの?」
ジュリアムの視線にリディが若干苛立っていると、エリーゼが再び話し始める。
「コホン! ブランシュ令嬢には前々から聞きたいと思っている事があってな。実は今回あなたを招待する様に言ったのは私なんだ」
(へぇ~、この娘が招待状をくれたのかぁ~。頼むからさぁ、もっと早く出してくれよ!)
と言う本音は隠し、話を合わせるリディ。
「それは……ありがとうございます。しかし、私程度に王女様の疑問の答えが出せるかどうか?」
大体が修行して、戦って、働いての毎日。汗臭い事この上ないそんな自分に王女様は何を聞きたいのだろう? と思うリディ。
「謙遜する事はない。あなたの噂は聞いているぞ。領地の改革を成し遂げられたのも、最近豊富になった属性魔法石もあなたが一役買っていると聞く。まぁ5歳にして野盗の頭領を倒したなんて眉唾物の報告もあるが、その華奢な体でそんな事が出来るわけないか」
最後のも本当の事だが別に間違いを正さなくてもいいかと考えたリディは愛想笑いを浮かべる。
「他にも色々と聞いた。美しすぎる見た目に慈愛の心を持ち、歩けば枯れた大地に花が咲き誇るとか! 領民にも大層好かれブランシュの女神と呼ばれているそうだな。しかもその絶大な人気から発言権はブランシュ領公と並ぶほど! 最初聞いたときはまさかと思いもした。私と1つしか変わらない人間がそんな事できるかと。しかし今日あなたを見て確信した! まさにあなたは私の理想! いや理想をも超える程の存在だ!」
(いや誰だそれ!)
まるでアイドルに合ったファンの様に興奮している様子のエリーゼ。しかし恥ずかしくなったのかハッとして前のめりの姿勢を正し、真剣な顔になる。
「はっきり言ってこの国の領家は弱者を虐げ笑みを浮かべる者達で溢れてしまっている。領民は片隅で怯え、虐げられ、領家の横行に涙を呑むしかないのが現状だ。同じ人であるのにそれはおかしいと誰も言わない、いや言えない。それが常識となっているからだ」
それはリディも知っている。現に王宮に来る前に1つの事例を見て来たからだ。あのピンク髪の少女大丈夫かな~と一瞬思うリディだが、すぐにエリーゼの話に集中する。
「私はそんな腐った常識を壊したい。民も領家も王族も互いに信頼できる関係を築いていきたいのだ。しかし年齢を笠に着るわけではないが、齢10の私には打開策が見つからないし、例え見つかったとしても子供の言葉など誰も聞いてくれないだろう。だが、あなたは違う。あの追い込まれた領地を導き、改革を成した!」
エリーゼの力強い視線がリディに突き刺さる。
「そんなあなただからこそ聞きたいのだ。一体どのようにしてそこまでの偉業を成し遂げる事が出来たんだ? どの様な志を持っている? 民とどう接しているのだ? 是非教えてほしい」
リディにとってこの答えは簡単。家族の為を思ってたらそうなった、である。志とかそんな大層な者は残念ながら持ち合わせていない。しかしこの答えで目の前の王女が納得するだろうか? いや、恐らくしないだろう。
(う~ん、でも他に言える事なんてないしなぁ~)
はっきり言ってリディはこの王都の悪さ云々などに対して興味がない。降りかかってくる火の粉や目に余る行為には首を突っ込んでゆくが、知らぬ所での出来事など勝手にやってくれという気持ちである。他の領家の言う所の、国への忠誠心などリディには微塵もないのだからそれも仕方ない。かと言ってどうでもいい何て言えるわけもない。
答えに渋っているとエリーゼが言う。
「何を悩んでいるのだ? 私に気を使っているのならそんな気遣いは無用だぞ! どんな事を言っても咎めないと誓う!」
「本当ですか?」
「ああ、本当だ!」
力強く頷くエリーゼ。そこまでしてリディの意見を求めるとは、エリーゼは本気でこの腐った国を良くしていきたいと思っているのだろう。リディより幼い身で一体どれだけの想いと重荷を背負っているのか、リディには見当もつかない。
いわゆるやんごとなき身分の先輩として、ここは1つアドバイスをしてあげるのも年上としての務めだろうと感じているリディは、丁度エリーゼの無礼講発言で思いついた事を言ってやろうと決意する。
「それなら僭越ながら発言させてもらいます」
「ああ、何でも言ってくれ!」
ジュリアムが横でマジか!? と言うような顔をしているが気にせず目をつむり息を吸うリディ。
そして目を輝かせているエリーゼに顔を近づけ言う。
「さっきから気になってたんだけどさ、初対面でしかも年下だろ? 敬語使えよ」
「……え?」
無礼講と言えど、ここまで態度を変えられるのはリディくらいだろう。まさか理想と豪語するリディからそんな言葉が出てくるとは思っていなかったエリーゼは信じられないと言うような顔になっている。
「それとさ招待状――」
「――だっばぁ!!」
まだ発言しようとしていたリディの口をすかさず塞ぐジュリアムは苦しがるリディを無視して先ほどから呆けているエリーゼに笑顔を向ける。
「すみませんエリーゼ様! ブランシュ令嬢は少し調子が悪いのです! ここの! ここの!!」
リディの口を塞ぎながら頭を殴るジュリアム。
「え? でもさっき……え!? 敬語使えって?」
「警護です! 警護する人材を増やしてえ~と……あれするのです! ですのでこの辺で失礼いたします!」
「あれするとは!? あれとは何だ!? 教えてくれパルム令嬢!!」
無理やり話を締めくくりリディを引き摺って行くジュリアムにエリーゼは経ち尽くすしかなかった。




