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第2話 プロローグ 2

 (ここは……)


一面真っ白な空間で目を覚ます勝美。

 状態を起こし前に目を向けると、そこには真っ白な長い髪に真っ白なスーツを着たメガネの女性が机の上で羽ペンを動かしていた。

 そんな白すぎる光景に、目がチカチカする夢でも見ているのかと自分の頬を抓る勝美だが。

「普通に痛いな。これが夢じゃないとするなら俺の妄想……ああ、とうとう頭がバグったのか」

そう結論を出し、自分で言っておいてショックを受ける勝美。


「頭の事は否定しませんが、妄想ではないですよ。青山勝美さん」

そんな勝美に若干疲れ気味な声で目の前の女性は羽ペンを置き話しかけて来た。


「じゃあここは一体どこ? というかすみません、あんた誰?」

「私はこの天界を管理する女神の一人でラシエルと言います。こう見えてもあなたより全然年上ですから敬語使って下さいね」

「天界? 女神? ……ああ、そうか」


 ラシエルの発言で自分が少女を助け、トラックの前に飛び出した事を思い出す勝美。


「俺、死んだんだよな……でも子供を助けてトラックに撥ねられるなんて漫画みたいでちょっとかっこいいっすよね」


ははは、と明るく笑う勝美を見て目を細めるラシエル。


「死んだと言うのに、随分軽いんですね」

「まぁ、やりたい事をやって死ぬ! それが俺のモットーっすからね!」


そう、やれる事は全てやりつくした。自分の人生に後悔はないと勝美は思った。

なれば勝美は晴れやかな気分なのかと言われれば否である。

原因はどんなに楽しくても、笑っていても勝美の心の中には常に家族がいない寂しさがあるからだ。それがむくわれない事は勝美自身が一番よく理解しているので、あまり考えない様にはしているが。


(ああ、だめだ。考えるとどんどん落ち込んでくる。腕立てでもして気持ちを紛らわすか)

今までやってきたように、思い付きで行動する勝美。

突如腕立てを始める勝美の反応を見てラシエルは

「そう……ですよね。あなたはそういう人ですもんね」

と頭を押さえ呟くと、背筋を伸ばし前を向く。


「しかしどうやら現状は理解しているようですね。まあ一つ訂正するのなら、あなたはトラックになんて撥ねられてませんけど……」


腕立てを中断してラシエルの言葉に自分の死の直前の記憶を辿たどる勝美。しかしどう考えてもあの状況でトラックに撥ねられる以外の死亡理由などないだろうと顔を歪める。


「消しゴムがなんか言ってるよ」

「消しゴムッ!? ……はぁ、嘘じゃないですよ。あなたは飛び出した少女を突き飛ばし迫りくるトラックに生を諦めたその瞬間、運転手がハンドルをギリギリの所できり、奇跡的に衝突をまぬがれていたのですよ」


 記憶がないので事実かはわからない。しかし嘘をついているようには見えないラシエルの言葉に取り合えず納得する勝美。


 しかしそうなると疑問が生まれる。

(……じゃあ何で俺死んでるの?)

 首を傾げる勝美。 そんな勝美を見て言葉を続けるラシエル。


「しかし不運な事にあなたは避けられたトラックの後続車に撥ねられてしまったのです。そう、軽のミニバンに」


 車のスケールが一気にショボくなると言う事実。別に大型車に撥ねられた方が偉いなんて事はないが、何となく恥ずかしく感じる勝美。

 しかし、ラシエルの言葉はそんな勝美に追い討ちをかける。


「ミニバンに吹っ飛ばされたあなたは、『隙の生じぬ二段構えぇ!』と叫びながら数メートル先に落下。しかしすぐに立ち上がり『うんうん! これこれ! そうそうそう! ちっがーう!!』と一風変わった言葉を残しバタンとぶっ倒れると、アスファルトの上をナメクジの様に這いずり回った後、何かヌルッと死にました」


「……」


「駆け寄って来た助けた少女とその両親もあなたの不気味な行動に恐怖し、『ありがとう』と怯えながら言っていましたよ。果たしてこれはあなたに言ったのか、あなたを飛ばした車に言ったのか……」


 その余りにもあんまりな事実に勝美は恥ずかしさを隠すように顔を地面に押し付けながら言う。


「訳わからん」

「いや、こっちのセリフですよ」


 頭を押え、怒ったような顔をして勝美の頭頂部を睨むラシエル。

「全く。昔から本当にもう! あなたは本来ならまだまだ生きるはずだったんですよ!」


 別にそんな事はどうでもいいが一応反応しといてやるか程度に疑問を返す勝美。

「そうなん? じゃあなんで?」

「あなたがわけもなくいろんな所に首を突っ込むからでしょ!」


 机をバンッと叩き叫ぶラシエルに何かいきなりキレたよと思いつつ顔だけ上げる勝美。

 ラシエルは顔を赤くし、今まで溜まってた鬱憤を晴らすかの如く机を何度も叩きながら叫ぶ。


「自転車で高速を走ったり! ヤクザの事務所にピンポンダッシュして、ダッシュしなかったり! 真冬に海パンで釣りしたり! 海パンなら泳げよ!! そのくせ、軽のミニバンに轢かれて死ぬってふざけてるんですか!? あなた担当の私の身にもなって下さいよ!」


(何か俺の事知りすぎてないか? ……もしかして、ストーカーか)


「すいません。俺もっと色黒い人がタイプなんで」

「違います!! 我々神々は担当する人間が生まれてから決まった死を迎えるまでの間、その人を観察し場合によっては守らなきゃいけないのです! そして私の担当があなた! なのにあなたと来たら……」


 フラッと椅子に座るラシエル。


「おかげでノルマはクリアできなくて上司に怒られるし、あなたの魂を移動させなきゃいけなくなったしで散々ですよ! ああ、同僚が定時で上がっているのに私は! アフターサービスはどこいった!?」


 疲れたように机に蹲るラシエルを見て、女神って意外と大変なんだな~と思う勝美。


「まあ、あんたは悪くないっすよ。誰が悪いかは知らんけど」

「おまっ!! ス~ハ~……駄目よラシィ。頭の痛い人との会話でムキになっちゃだめ」


 深呼吸をしてからずれたメガネをカチャッと上げつつ独り呟くラシエルを見て、流石の勝美もついていけず

(なんだこいつ?)

 と思うのであった。


「で? 俺はこれからどうなるんだ?」

 勝美の問いに、ハッと我に返るラシエル。


「そうそう! おほんっ。今回遺憾ではありますがこちらのミスで命を落としてしまったあなたには今回新たな人生を歩む機会が与えられる事になりました。あなたが行くのはいわゆる異世界。現代日本とはかけ離れたファンタジーな世界ですよ。良かったですね」


「ふーん。異世界ね~」

 あまり生に執着がない勝美は寝転がり尻を掻く勝美。

 思ったよりも薄い反応だったのだろうか、拍子抜けしたようなラシエル。

 

「あれ? あんまり嬉しくなさそう……まあいいです。あなたが行くのは領治国りょうちこくヴァルド。1人の王と選ばれた6人の領公りょうこうが治める大国です。そこであなたは今年5歳となるブランシュ領公の娘リディとして生まれ変わっていただきます。元々このの体には精神がなかったので、そこにあなたがストンと入ると形となる訳ですね」


(なるほど、ブランシュ領公ね。はいはい……って!)

「ええ! 娘!?」


 ガバッと立ち上がり叫ぶ勝美。そんな勝美を見て、してやったりと言うような笑みを浮かべるラシエル。


「ええ、わかりますよ! いままで彼女もおらずに29年。交際経験がないまま女になるのは抵抗ありますよね。わかります。ああ、なんて生産性のない。モテない男はかわいそう」


 なんか下ネタだとイキイキしてるなコイツ。と思いつつも興奮冷めやらない勝美。

「いや、そんなのはどうでもいい! 女といちゃコラして子供コラって子孫繁栄とか。そんな事より娘って事はその、家族構成とかは?」


 何で? と言いたそうなラシエル。

 勝美にとってこの答えはやる気が180度変わってくるものなのだ。そしてその答えは勝美の望むものであった。


「は? 普通に父親と母親と、兄もいますね」

「よっしゃ!!」


 その言葉に飛び上がり喜ぶ勝美。ついに念願の家族を持てるのか! 今まで七夕でもクリスマスでも何度もお願いしては叶わなかった願いが成就される日が来るとは、不謹慎だがミニバンありがとう!


 テンションの上がった勝美を見て、困惑するラシエル。

「えらい変わりようですね。女になってもいいんですか? 色々大変ですよ?」


「どうせ使い道なかったし全然構わないっすよ! 俺の夢が叶う! そのためなら棒の1~2本なんてたいした事ないぜ! ああ神様ありがとう、俺は幸せです」


 ラシエルを満面の笑みで祈る勝美。きっとこいつも嬉しいはずだ、だって神様なんだから! しかし、勝美の予想とは裏腹に死んだ様な瞳で舌打ちをするラシエル。


「あーあ。何かそんなに嬉しそうにやられるとやる気なくすなー。私はあなたに恨みしかないのに。 うわーつまんねー。うぜー」


 本当に心底残念そうな表情のラシエル。人の幸せを願えないなんてとんだ神様もいたものだ。いや、実際の神様は想像とは違い人間に近いのかもしれない。もしくは人間が神様に近いのか。


 そんな威厳もへったくれもないラシエルの態度に女神を敬う気持ちが下落し始める。

勝美は思う。こいつみたいにはなりたくないよと。


「醜い神もいたもんだな」

思わず出てしまった勝美の言葉にラシエルは憤慨する。


「何ですって!! あんましなめた事言ってると!! ……おっといけない。だめよ、こんなアホの相手をしては。私はクールよ」


 額を押えながらブツブツと言うラシエル。


(もう一回思うけど……何だこいつ?)



「それじゃあ説明に戻りますね。今回あなたには異世界での人生を生きやすくするように神の加護を授けます。いわゆる特典ってやつですね」


「マジでか? 魔法ばんばん撃つのとか憧れてたんだよね!」


 生前に映画、漫画、アニメの類が好きだった勝美。特に魔法の行使などは勝美の異世界でやってみたいランキング上位に食い込むレベルだ。


(ああ、よくお風呂場でホニャララ波ぁぁ! とか練習したよな~懐かしい。最後にやったのいつだっけ? ……思い出した、先週だ)


 胸躍る勝美。しかし、ラシエルの言葉はそれを見事に打ち砕くものだった。


「魔法ばんばん撃つ? それは出来ませんよ。あなたにつける加護は肉体の活性化ですし」

「ええ!? どこの神様だ、そんな脳筋使用の奴は!」


 勝美の言葉に整った眉をピクッと動かし、自身を指さすラシエル。

「わ・た・しですが何か?」


 有無を言わさない迫力を見せるラシエル。しかしそこで言いたい事を言うのがこの男のすごい所。

「あんたそんな見た目してて体育会系っすか? チェンジチェンジ! 魔法特化の女神様プリーズ!」

「貰えるだけ感謝しなさいよ!! 何あんた!? 態度でかくない? 仮にも神様よ私!?」


 本日何度目かのラシエルの怒り。まぁラシエルの言葉はごもっともであるがそこは煽りスキルの高い勝美。正論には訳の分からない言葉で返す。


「なんだよ……それなら俺だって神様だ!!」

「いや、違う!! まったくこれだから低学歴は!! ……おっと落ち着け、素数を数えよう。2、4、6」

「いや、それ偶数だから」

「あっ……」


 このやり取りでラシエルの立ち位置が勝美の中で完全に決まってしまった。賢そうなバカだと……。


「高卒女神様か?」

「っ! 高卒で神なんて出来ません! ちゃんと大学でてますよ~!」

「どこの?」

「……何でそんな事をあなたに言わなきゃいけないんですか?」

「やっぱ高卒か、同じだな!」

親指を立て二カッと笑う。


「同じにしないで下さい! ちゃんと神女子体育大学を卒業してるんですから!」

「やっぱ脳筋じゃんかよ」


 ボロボロとメッキが剝がれてゆくラシエルにニヤ二ヤとする勝美。その表情に自分の発言が失敗だったと気付いたのか「しまった!」と言い頭を両手で押さえるラシエル。


「なに!? あなたも皆と同じでバカにするの? スポーツ推薦は受験知らないから楽だねー、とかお手て大きいねー、とか! とか!! 私だってね、こんなブラックな所に勤めるよりスポーツで食べていきたかったわよ! こんな高卒にまでバカにされるなんて!」


 もはや取り繕う事も出来ないのか、最初のクールな印象とはかけ離れたラシエルが地団駄を踏みプンプンと怒る。どこまでも人間臭い神様だ。


 そんなラシエルに勝美は止めを刺す。

「別に馬鹿にはしてないよ。でもそうやって学歴を気にして、他を下に見るあんたに問題があると言う事でおけ?」


「そういうこというな!!」

 泣きじゃくるただの女がそこにいた。また、くだらないものを煽ってしまった。そんな決め台詞を心で呟き笑みを浮かべる勝美。


 その時、勝美の足元に六芒星ろくぼうせいらしき陣が展開される。


「ぐすん……もういい、早く行っちゃえ!」

 発光する両手を前に出している涙目のラシエル。どうやら、心の限界を迎えたようだ。


 徐々に薄くなっていく自身の体にこれから来るであろう明るい未来を想像する勝美。 

 片腕を天に掲げ拳を握る。


「待ってろ異世界ライフぅぅぅ!!」


 プスンッとショボい音を残し消える勝美。


 静けさが訪れた空間でグスグスと泣き続けるラシエル。

「ああ、実家のリンゴ農家継ごうかしら……」














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