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第23話 パルム編 8


フィメル家で一夜を過ごし、リディとアリアンヌは再び肉を保存するための道具を探す為、パルム領内を歩く事に。事情を話したらパイロとデレシアも手伝ってくれる事になり、2手に分かれて探索を開始した。

ちなみにパイロとアリアンヌでどっちがリディと共に行くかでいざこざがあったりもしたが、デレシアの活が入り結局リディはデレシアと組む事になる。


色々と探し回り、商人や出店の主人に聞きまわったが目ぼしい物は見つけられず、時間だけが過ぎて行ってしまう。

結局、リディとアリアンヌは肉保存の手掛かりとなる物がないと判断し、探索を打ち切る事に……。



パルム領門前にて、帰りの馬車を待つリディとアリアンヌ、そしてフィメル夫妻。


「もう少しゆっくりしていってもいいんじゃないの?」

「ううん、流石にこれ以上ブランシュを空けていられないわ」

デレシアの問いに首を横に振るアリアンヌ。ユーリとジルがいるとはいえまだまだブランシュは野盗がいつでも攻めてくると言う、矢面に立たされている状況に変わりはない。

アリアンヌの言葉に寂しそうにな顔になるデレシア。


「フフ、お母様。今はまだブランシュは余裕のない状況ですけど、きっと近い将来他に負けない位の領地にして見せますから……そうなったら、今度はゆっくりと遊びに来ます」


「……フフ、子供に慰められてしまったわ。もう歳ね。涙もろくていけないわ。あなた達を見送るのに泣いてたらダメよね!」


「流石私のお母様です! ……どっかの年寄りとはえらい違い」


そんなたくましいやり取りをしている横で、リディに抱き着きわんわん泣きじゃくるパイロ。

「わあああん!! 帰っちゃやぁあああ!! リディ、一生ここにいてくれ! ジジイのお願い!!」

「おーよしよし。泣いちゃダメですよおじいさま」


頭を撫で慰めるリディ。どっちが大人なのだか分からなくなる。

そんなパイロを慰めつつ、リディは実りのなかったパルム領探索に落ち込んでいた。


(あーあ。結局生の肉を保存する方法は見つからなかったな~。やっぱり干して乾燥させて売り出すしかないのかな)


考えを巡らせているリディ。そんな時

「見つけた!!」

少女の大きな声が聞こえてくる。

そちらに目を向けるとそこには息を切らしたジュリアムが立っていた。

突然の領公ご息女の登場にデレシアは今も泣きじゃくるパイロを無理やりリディから引きはがし立たせる。


息を整え、リディの元へ歩いてくるジュリアム。

先日あれだけの事があったにも関わらず今更何の用だ? また家族を馬鹿にする様なら今度こそ殴り飛ばしてやると考えて眉を顰めるリディ。


「わざわざ何の用? そんなに必死になってらしくないんじゃない?」

取りあえず先制攻撃気味に挑発をするリディに「なんですって!?」と怒るジュリアムだが、ハッとして

「あ! いや違うの。そうじゃなくて……」

と俯き始める。


意図を読めないリディは不機嫌そうに続きを促す。

「何が言いたいの? また私を馬鹿にでもしに来たの?」


しかしそんなリディの言葉とは裏腹にジュリアムは予想外の行動に出る。

「先日は酷い事を言ってごめんなさい!!」

勢いよく頭を下げたのだ。


「え?」

予想外の行動に呆けるリディを前に、言葉を続けるジュリアム。


「あなたの事もあなたの領地の事も全部聞きました! 知らなかったとはいえ私はとても無神経な事をあなたに言っていたのですね。令嬢として、いや一人の人間としてとても愚かで、恥ずべき行為でした」


尚も頭を下げ続けるジュリアム。

「本当はあなたに償いをしたいのですが、まだ私には頭を下げ、気持ちを伝える以外に良い方法が思いつきませんでした! ですがこの気持ちは本心です! 本当にあなたには酷い事をしたと感じております。改めてごめんなさい!」


ジュリアムの謝罪に濁りは見て取れない。本当に悪いと思っているのだろう。

それを感じ取ったリディも真剣に対応する事にする。いつものようにふざけた雰囲気を消し去り、凛とした声でジュリアムに伝える。

「頭を上げて下さい」

その一言にリディをチラチラと確認しつつ、ゆっくりと頭を上げるジュリアム。


「あなたの気持ちは充分に伝わりました。ただ私の事は別にいいのです。あの時本当に怒ったのは、あなたが私の家族を馬鹿にしたからです。なので謝罪を受け入れる前に1つだけ理解して下さい」


「……はい」


「私の家族はとても優しく立派なお方達です。どんな噂が流れていようともその事実に変わりはありません。家族は私の大好きな宝なのです。それだけはわかっていただけますか? ジュリアム・パルム領公令嬢殿」


どこか儚さを残す美しい表情のリディに見惚たように固まってしまうジュリアム。

しかし直ぐに立ち直り、はっきりと答える。

「分かりました。頭に刻んでおきます。重ね重ね申し訳ありませんでした」


領家の約束とは重く、誇り高いもの。あまりそういう権威を振りかざさないリディだがどうしてもジュリアムには分かってほしかったのだ。自分にとって家族がどういう物なのかを。


「……なら許す! 仲直りしよ?」

いつもの様に明るく笑うリディはジュリアムの前に手を出す。

「ありがとう。今度そっちに遊びに行ってもいいかしら?」

「フフ、いいよ~。守ってあげるね」

それを見て同じく笑顔になり手を握り返すジュリアム。

そのやり取りを見ていたアリアンヌなどは娘の言葉に感動し「嬉しいわ~」と涙を流している。パイロなどは「わしの孫マジ天使過ぎるぅ~」と大号泣している。


そんな周りが騒がしい中、ジュリアムが突然声を荒げる。

「所でリディ!!」

「な、なに? ジュリ」

互いに名前で呼び合っている事には触れずに、鼻息荒くリディに詰め寄るジュリアム。

「これなのだけど!」


そう言ってジュリアムが出したのは、一つの魔法石。しかも水色に光っている属性付きの物だ。


「それがどうした……ん?」

(あれ? どこかで見たような形)


そんなリディの内心を読んでるように、話すジュリアム。

「そう! これはあなたが私の屋敷に落としていった魔法石よ!!」


その魔法石はリディがなくしたと思っていた魔法石だったのだ。しかし1つおかしな事がある。

「あれ? でも私の持っていたのは普通の奴だよ? それ属性付きだよね?」

「そうそうそうなのよ!! これはあなたが持ってた魔法石に私の魔力を流し込んだものなの!!」


その発言に一番驚きを見せたのはアリアンヌだった。

「ええ!? それって人工的に属性魔法石を作ったって事!?」


アリアンヌの言葉にコクンと頷くジュリアム。

「そうです、ですがこの魔法石もまだ偶然の産物にすぎません。それを確実な物にするために――」

そう言うと、懐から空の魔法石を1つ取り出しリディに渡すジュリアム。


「これをどうしろと?」

「あなたの魔力を流し込んでみて?」

魔力を流し込むと言われても、リディには自身の中の魔力を感じる事さえ出来ない。なのでそんな事を急に言われてもと難しい顔になるリディ。

「無理だよ。だって私には魔法の才能ないもん。出てきたとしてもキモイ液体だよ?」


そうすると、顎に手を当て考える仕草を取るジュリアム。

「……もしかして、あの時は無意識に? いやでも……まさか」

ブツブツと独り言を言い始めたと思ったら、いきなりアリアンヌに向き、苦笑いをするジュリアム。


「アリアンヌ様。もし私に何かあったら……この研究をあなたが受け継いで下さい」

「え? 何をする気……あなたまさか!? やめなさい死ぬ気なの!?」

「止めないで下さい!! 偉業を成し遂げるにはそれ相応の犠牲がつきものなのです!」

「クッ! あなたの覚悟、確かに受け取ったは!!」


(何それ?)

よくわからんやり取りをする二人にひたすらはてなマークを浮かべるリディ。そんなリディに目を合わせ、深呼吸をするジュリアム。そして――


「あなた本当にダメね! アリアンヌ様の血を受け継いでおきながら魔法の才能がないなんて、あっ! もしかして父親の方の血を濃く受け継いでしまったのかしら! あんな貧相な領地を治め貧相な力しかない貧相男の娘のあなたも大分貧相なのね!」

「よし殺す!!」

途端にリディの周りが怒気で重くなる。その瞬間リディの持っていた魔法石が透明に光り始める。


「リディちゃん冗談だから! だから片手でジュリアムちゃんを持ち上げるのはやめなさい! ほら! 魔法石光ってるわ!」

「リ、リディ……ごめん嘘だから、こ、これを証明し、したかっただけ……」

「わぁほんとだお星さまみたいに光ってる……お前もそうしてやるよ」


その後、何とかアリアンヌのお陰でリディの怒りは治める事が出来た。このために自らを犠牲にするとは、ジュリアム良い根性だ。

リディの持っていた透明に光る魔法石に火の魔力を流し込むアリアンヌ。普通だったら粉々になるはずだが、何と魔法石は割れず赤く光っていた。


「す、すごいわ! ほんとに出来たわ。これは世紀の大発見ね」

「やっぱり私の推測は正しかったようですね」

ジュリアムの説明では、リディには特異的な魔力が備わっているらしく、その魔力が魔法石の内側でクッション材の役割を果たしているとか……。リディの肉体チートの恩恵なのだろうか、それとも元々備わっている力なのかは分からないが。


「つまり私の魔力を流し込めば、属性魔法石が人工的に作れるって事?」

「そう言う事。でもそれにはあなたを怒らせなきゃいけないのよね~」

リディの質問に答えるジュリアム。


(ふ~ん……あ! なら!)

「もしかして、この魔法石を使えば食料を保存する道具が作れるんじゃない?」

リディの発言に「ああ」と声を揃えて言うアリアンヌとフィメル夫妻。


「え? まぁ水の属性魔法石と風の属性魔法石を使えば出来るとは思うけど……」

ジュリアムの言葉にハイタッチをするリディとアリアンヌ。思わぬ所で肉運搬の方法を見つけ出す事が出来た。

なれば後はそれ専用の魔法具を作っていかなければならない。リディ達は一時帰還するのをやめ、魔法具の話をジュリアムに話す事に。

「じゃあジュリ。ちょっと仕事の話を……あれ? ジュリ?」


リディが話しかけても下を向きブツブツと呟いているジュリアム。どこか狂気気味な顔で……。

「何でリディにはそんな力があるの? それがあの怪力と関係しているの、それとも別の何かが……あああ~ドロドロに溶かしてみたいぃぃぃぃ」

「あの、ジュリアムさん?」


突如リディの肩を怖い顔で掴むジュリアム。

「ねぇリディちゃん? ちょ~っとお願いがあるんだけど、友達なら聞いてくれるよねぇ~? だって友達、いや親友だもんね私達ぃ? だからぁ~ちょ~っとだけ体を調べさせてくれない? 大丈夫! 取れた部分はちゃんと元に戻すからぁ~」

「そんな親友いりません!」


恐怖から思わず後退るリディ。しかしジュリアムは手をワキワキさせながら詰め寄ってくる。

「ほんのちょっと! 原型は極力止めておくから! さぁ今から私の実験室に行きましょ!! ね? 痛くないから!! 痛くないの!!」

「ひい! いやあああああ!! こえぇぇぇぇ!!」

「待ってええええ! 私のモルモットォォォォォ!!」

どうやらジュリアムの飽くなき探求心に火をつけてしまったらしいリディ。あのリディを怯えさすとは、侮れないジュリアム。



その後話し合いの結果、パルム領とブランシュ領の商品開発の協力関係が決定された。

リディが空の魔法石に魔力を流し込みパルムに送る代わりに、パルムは属性魔法石を使用した魔法具をブランシュに提供すると言った内容である。

ちなみに人工的に属性魔法石を作る事に成功したと言う研究成果はパルムとブランシュの共同研究と言う事で直ぐにでも国王に報告しに行くらしい。

まだ量産には向かないため大々的に発表される事はないらしいが、リディの存在は確実に王族と領公家の様な上層の者達に知れ渡る事だろう。恐らくこれから面倒な事がその身に降りかかる事が懸念されるがリディ自身はそれで資金が手に入るなら別にどうでもいいを貫き通している。やはり自分の事は二の次らしい。


次の日、寝ずに話し合いをしたリディとアリアンヌはうつらうつらしながら馬車に乗り込みパルムを出発する。


「ああああ!! また車輪が壊れた!? どうしましょうおかあさま!?」

「そんな事よりほら見てリディちゃん。馬車の底が抜けたわ。地面が丸見えよ」

途中、再び馬車が壊れたりもしたが無事2人はブランシュへと帰還する。

魔法石に牛肉。この2つを基盤にブランシュの改革が本格的に開始され始めてゆく。


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