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第17話 パルム編 2

ブランシュ領を練り歩くリディとジル、それとガイル。途中話しかけてくる領民に食べ物を貰ったり、ポイ捨てを注意したり、メイドに見つかりそうになり隠れたりしたが。

しかし特出して資金不足の糸口となる物は見つからなかった。

時間だけが過ぎ、少しの休憩を挟もうと言うジルの提案で、街の外れにある畑の岩場に腰を下ろす3人。

しかし、そこでリディはある動物に目が釘付けになる。それは……。


「モー」

「……牛?」


意外そうな顔になるリディ。そうそれはリディがこの世界に来る前の世界で見た事のあるいわゆる牛という動物だった。 

とある民家に紐で括りつけられている1匹の牛を見て、リディの脳内はある物でいっぱいになる。 牛丼、焼肉、ステーキ、すき焼き、と言った肉料理全般。


(あ~、牛肉食いてぇ~)

「だばぁー」

「リディ。涎でてるよ」


この世界の食肉は基本全てモンスターの肉だ。それがこの世界の常識で皆もそれをおいしいと言って食べる。リディもそのモンスター肉を食べてはいるのだが、それほどおいしいとは思っていなかった。そんな世界でまさか前世の好物に出会えたからか思わず涎が飛び出してしまったリディ。

リディは出てくる唾を呑み込みながらジルに返答する。


「あれ、おいしそうですよね?」

「え~、どこが?」

苦い顔をするジル。その隣にいるガイルもジルと同じ感想なのだろう。何言ってんの? と言うような顔でリディを見てくる。


「じゃあ兄さんやガイルさんの言うおいしそうってどんな?」

「う~ん、もっとトカゲみたいな?」

「だな、あれは上手そうだ」


リディの問いに、楽しそうに答えるジルとガイル。

どうやらこの世界の食べ物による美的感覚は前世とは少し違っている様だ。

そんな時、リディの頭に一つの閃きが浮かんでくる。


「ねぇガイルさん、あれ捌ける?」

「あ? ああ、出来なくわないと思うが……まさかおめえ!?」

「フフ、まずは飼い主さんに挨拶しないとね」


リディは牛の肉を売り出せないかと考えているのだ。あの牛が前世の牛と同じ生き物なら問題はないはず。しかし違っている可能性もない事もないので、まずは食してみようと判断したのだ。

それが分かったのか嫌な顔をするガイルにほくそ笑み牛が繋がれている民家の戸を叩くリディ。

出てきたのは細身の大きい鼻が特徴の男だった。


「どちら様でっおお! 我がブランシュの小さい女神様でねぇか!?」


リディを見て満面の笑みを浮かべる男。かなり好感度が高いその男を見て、ニッコリ微笑むリディ。 ちなみに男の言うブランシュの小さい女神とは、この街でのリディのあだ名みたいなものだ。他にも銀の姫、暴走変人少女などがあるがそれは置いておこう。

リディは早速本題を切り出そうとする。


「こんにちは。所でこちらの牛はあなたの?」

「牛? ちげぇだよ! こいつはポコですだよ」


話を聞くとポコと言うのはこの男、クルトがつけた名前で正式名称はないらしい。ブランシュ領の外にある草原に生息しているらしく、たまたま足を怪我している所をクルトが見つけ世話をしているうちに懐いてしまったらしい。


「最初は気持ち悪かったけんど世話していく内にどんどん可愛く見えて来てな、今じゃオラの唯一無二の親友なんですだよ。いつでもどこへ行くのも一緒なんだぁ」


牛をまるで孫娘の様に撫でるクルト。相当可愛がっている事が見て取れる。しかしその男にリディは今からちょっとそれ食べさせて、と言おうとしているのだ。


(い、言いずらい……)

しかし肉も食べたいし、売り出したい。言おうか言わないか迷うリディは後ろの2人に助けを求める視線を向ける。しかしジルは「言えない、そんな残酷な事」と顔を背け、ガイルも「以下同文」と言い顔を背ける。

当てにならない2人を見て自分で言う事を決意するリディ。

(まずは遠回しに……)

「か、可愛いですよね~私も大好きなんですよ~(肉が)」


リディの愛想笑いに気を良くしたのか、嬉しそうにクルトが言う。

「おお! 分かってくれるだか! 流石は女神様だぁ、オラ感激で涙が出てくるだよ! 見てくれだよこのつぶらな瞳、この毛並み! これを見るとオラがんばろ! って思えてくるんだよぉ!! あ~ポコ~大好きだぁ」


(うん! 遠回しだとどんどん言いづらくなる! こうなったら勢いで言っちゃおう!)

息を吸い、カッと目を見開くリディ。


「ところで、女神様は家に何の用があっただか?」

「この生き物、ピコの肉を売り出しましょう!!」

「ええ!!」

「ポコだよ」

リディの言葉に目を見開くクルトとリディの言い間違いを正すジル。

後ろではガイルが「悪魔だ」と言っているが、もやは開き直るリディ。非情にならねば改革など出来るかと自分に言い聞かせる。

そんなリディに抵抗の意を見せ、両腕を広げるクルト。

「そんな、肉売るってこいつを殺すって事か! そんな事しねぇでくれ! パコは友達なんだよ」

「ポコだよ」

「名前間違える様な奴は友達じゃありません! また取って来ればいいじゃないですか?」


抵抗するクルトを肉体チートで押さえつけガイルに支持を出すリディ。

「さ! ガイルさん! コポの解体をしてくれる? その間に兄さんは何か焼ける道具を見つけて来て下さい!」

「ひゃあああ!! 止めてけろ! コパを食わないでけろ!」

「2人とも、ポコだよ」


必死に訴えかけるクルトに悪く思ったのかガイルが聞いてくる。

「いいのか? 何か引くほど泣いているんだが」


しかし、リディは目力を強めて自信満々に言う。

「いいんです! きっとこの人も食べれば考えも変わるはず」

「お、おう……すまんなクルト」

リディの気迫に押され、気の乗らないまま牛を捌きに行くガイル。南無三……。


そして数十分後……。 上手に焼けました~


ガイルが捌いてきた肉の部位をジルの持ってきた網で串焼きの様に焼くリディ。

「さぁ、そろそろいいですよ!」

いい感じに焦げ目がつき、串を上げるリディ。牛肉の串焼きならぬポコ肉の串焼きの完成である。本当はタレや胡椒こしょうが欲しいリディだが、このブランシュにそんな贅沢な物はないらしく、ダイレクトで我慢する。

香ばしい臭いが漂い、ガイルもジルも鼻を動かし、唾を呑み込む。

「こらぁいい匂いだ!」

「そうだね」


網から串を取り不安と期待を込めた目で肉を見るガイルとジル。

そんな中、親友を串焼きにされたクルトはと言うと……。


「うぎゃあああ!! オポコォォォォォ!! こんな無残な姿になっちまってぇぇ!! おえええええ! グロォーい!」

「ポコだよ」


地面を転がり周り、バシャバシャと泣きじゃくっていた。大人がやっていい泣き方の許容範囲をゆうに超えているが、親友が細切れにされたのだ、それも仕方なし。


「じゃあ、クルトさん。お先にどうぞ!」

そんなクルトに焼きたての親友を笑顔で差し出すリディ。果たしてリディを女神と呼んでいたクルトは今のリディがどう見えているのか。


「オラに食えって言うのか!? あ~恐ろしや~ まるで悪魔の子だぁ~ 血がないんだぁ~ 心がないんだぁ~」

差し出してくる肉を口をイーッとして拒否するクルト。断固として食す気はないらしい。


「食べればわかるから、ほらほら! 口開けて! 親友を食べる機会なんてそうそうないんですから!」

「そんな機会なくていいだぁ!」

反抗するクルトの口に無理やりにでもねじ込もうと頭を押えるリディ。見た感じ完璧にイジメである。

「やめてけろ! オラは親友は食わねえ! この人殺しぃ! アグっ!」

そして等々、クルトの口にポコが入る。果たして感想は……。

モグモグ ゴクンッ


「うまぁぁぁぁぁい!!」


どうやらクルトの親友はクルトの舌を唸らせたようだ。

そのおいしさにガブガブと肉を頬張るクルト。さっきまであんなに抵抗してた男とは思えない。

「何だこの上手さぁ! 今までの肉がまるで布のようだべ!」


それに感化され、ガイルとジルも肉を食す。

「おお! 本当に上手い! ゲテモノ程上手いって聞くがまさにそれだ!」

「うん! こんなおいしい肉初めて食べたよ!」

「そうでしょそうでしょ!」


結局、1串をペロッとたいらげたクルトは思う所があったのか肉のない串を見て呟く。

「あ~お前こんなにおいしかったんだな……ボイジョイ」

「今までで一番ひどいよ、ポコだよ」


皆の満足そうな反応を見て、やはりこの肉は売れる! と再確認するリディ。

感慨深そうにしているクルトに指をさす。

「クルトさん! あなたはこの生き物をじゃんじゃん捕獲して、じゃんじゃん育てて、じゃんじゃん捌く重大任務を課します」


もし、この肉が大量に入手出来れば、ブランシュの食料問題も解決出来るし、その内他の領に輸出して資金を手に入れる事も出来る。フンは肥料にもなるしまさに一石三鳥。

しかしクルトは余り良い反応を示してはいない。


「でもオラに出来るかな~」

どうやら自身がないようだ。しかしリディはポコを育て馴れているクルトにこそこの仕事を任せたいと考えている。なればここはリディの口の見せどころだ。

「もう! 耳貸して」

クルトの耳を自分に近づけるリディ。こっそりと話す事で、この仕事を引き受けたならクルトだけにおいしい話がありますよ~と言う事を暗に分からせるリディ。


「いい? この肉は確実に売れます。いずれ色々な領地、もしくは国がこのポコ肉を求めてくる、そうなるとあなたはどうなると思います?」

「ど、どうなるだ?」


悪魔が囁くように、嫌な笑みを浮かべリディは溜めに溜めて言葉を発する。

「……お金ががっぽがっぽと懐に舞い込んでくるんですよ! あなたは地上100メートルの高さがある豪邸を建て、金貨の風呂を若い女と入り、金でできたフォークとナイフでこのポコ肉を食べる! そんな生活が出来るんですよ~」


「ほ、ほんとだか」


「ホントホント! あなたが大将! あなたが社長なんです! 繰り返して下さい、お肉はお金。はい!」

「ゲヒ! ゲヒヒヒヒヒヒ! お肉はお金、お肉はお金」


恐らく意味はよくわかっていないだろうが、リディの話術に欲が勝ってしまい下種の様な笑い声を発し復唱してしまうクルト。尚もリディの洗脳は続く。

そんな歪な笑いをする様子に、日頃からクルトの温厚な性格を知っているガイルは心配になり肩に手を置き注意を促す。


「おい、クルト! あんましこのガキに毒されるなよ」

クルト、その手をパンッと弾くとどこから持ってきたのか分からないグラサン擬きと葉巻擬きを装着し、言い放つ。


「気安く触らないでくれるかい? 貧乏がうつるじゃないか」

リディの洗脳の効果か、標準語になり既に気分は大富豪。


「この野郎! 調子乗んなよ! 誰だお前は? 何だその道具は? どっから持って来た!?」

「ゲヒヒヒヒ! ポコ肉バンザーイ! もうポコが金貨にしか見えねえや!」

ガイルにボコボコに殴られる最中も、笑いが止まらないクルト。

その様子を苦笑いで見ているジルの横にヒヒヒッと笑いながら戻ってくるリディ。


「金で心が買えたわねぇ……おかあさま達には言わないで下さいよ」

「……何この妹怖い!」

そんなブランシュ復興の第1歩が出来たと、ホクホク顔で屋敷に戻るリディとジル。

リディのブランシュ改革はまだまだ続く。




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