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第15話 ブランシュ編 後日談

『いつかこのブランシュを誰に見せても遜色のない領地にする』


冷たい顔でそんな熱い事を言うユーリの横顔を見て、アリアンヌは暖かい気持ちになった。

実家の反対を押し切り、ハズレ領地と言われるブランシュに嫁いだのもそんな熱いユーリが大好きで、その夢と共にありたいと思ったからだ。


『ええ、一緒に頑張りましょ』

膨れたお腹を愛おしそうに撫でながら、生まれてくる子供とユーリと共に明るくなったブランシュを見る。そんな未来を想像しながらアリアンヌはユーリに微笑む。


しかししばらくしてユーリは変わってしまった。民を蔑ろにし、家の為だけに資金を使うようになってしまったのだ。もちろんそれをアリアンヌは何度も指摘した。


『民を蔑ろにしては、私たちの掲げた夢なんて到底叶えられないわ!? 目を覚ましなさい!! ユーリ!!』


しかしユーリは冷たく言うのだ。『君には関係のない事だ』と。

失望はしない。国の残酷な審判を知っているから。

しかし、共に目指し掲げた夢を関係ないと言われ、アリアンヌはただただ悲しかった。



『どうしていいか分からなくなっちゃった』

ベッドに座る感情のない娘リディに食事を食べさせている時に、そんな言葉がぽろっとアリアンヌの口から出てしまう。

そんなアリアンヌの言葉に返答はなく、リディはただ俯き、口に運ばれる食事を無言で咀嚼するだけ。


『ねぇ、リディちゃん? あなたならどうする? どうしたらいいと思う?』

そして、再びリディの口元にスプーンを運ぶアリアンヌ。その時、アリアンヌの手に水滴が落ちてくる。最初はリディが感情を取り戻したのかと思った。母の言葉に涙を流してくれたのかと。

しかし、実態は違った……泣いているのはアリアンヌの方だった。

悲しい事が嫌いで、日頃から誰に対しても明るく笑顔を振りまくアリアンヌ。そんな自分が泣いていると気付き、必死で止めようと笑う。しかしその涙はまるで止まる気配を見せず、次々と溢れ出てくる。


『ごめんね! リディちゃんの前でっ……泣いちゃって……』

目の前の感情のない娘と旦那であるユーリの変化、その二つの問題による悲しみが、涙となってアリアンヌに押し寄せてくる。

せめて声は出さないようにしよう。そう思いながら顔を押え、静かに涙を流す。

しかしリディはそんなアリアンヌを見ようともしない。ただその暗い瞳で俯くだけ。



そんなアリアンヌに幸福が訪れたのは、それから1年後だった。

なんとリディが感情を取り戻したのだ。リディは少し特殊だが、とても明るく元気でそして何より家族を好いていた。

アリアンヌにとってそんなリディはまさに暗闇から差し伸ばされた光明の様に感じられた。

そんなリディはよく言うのだ。『家族で仲良くお出かけしたい』と。

娘の願いを叶えてあげたいと、アリアンヌは崩れかけた心を奮い立たせ、もう一度ユーリと話し合おうと決める。

そしてある日、気合いを入れユーリのいる仕事部屋へ向かうアリアンヌ。しかしその前を横切る者がいた。アリアンヌより気合いというか怒りを露わにしたリディである。

気になり様子を見ようと後をつけたアリアンヌ。同じ考えに至ったのだろうジルとメイドのアニエスとシータもユーリの仕事部屋の前で聞き耳を立てていた。

そして衝撃な光景がアリアンヌの目に飛び込んでくる。思わず横にいるシータが怯えて声を上げてしまう程に。

なんと、天使の様な娘がありえない程の怒気を放ちユーリを殴り飛ばしたのだ。




*****




とある日の朝、朝食を食べ終えたアリアンヌは2階の廊下の窓から外を眺めていた。

ただ無言で、その顔を綻ばせながら。


「何を見ているんだ? アリアンヌ」

そこに今まで不仲だったユーリが声を掛けてきた。しかしもう顔を背けるような事はしない。今目の前にいるのは、自分の好きだった頃の旦那なのだから。


「フフ、あれ」

体を少しずらし、窓の外にある裏庭を指さす。そこには自分達夫婦の仲を元通りにしてくれた愛娘、リディの姿が。


先の野盗襲撃の時に大ケガをしているリディを見た時は心臓が止まるかと思ったが、こうして元気になってくれたようで本当に良かったと、アリアンヌは再度胸を撫で下ろしたい気持ちになる。

まあ、少し元気過ぎるような気はするが……。


「な、何をやっているんだ、あの娘は?」

「修行だって言ってたわ」


眉を顰めるユーリに軽く答えるアリアンヌ。

二人の視線の先ではリディが比較的動きやすそうな服装で筋トレをしていたのだ。もちろんケガをした右足を気にしつつだが。

それを見て、呆れたように頭を押さえるユーリ。

「何でそんな事をする必要があるんだ?」


女性領家は勇猛より可憐であれ、それがこの世界の常識。ジルトルト領の様な騎士家系なら話は別だが、普通の領家それも5歳児の少女がこの年から鍛錬をするなど前代未聞である。


「私達に心配をかけないためですって」

「は?」


疑問符が浮かんでいるユーリにアリアンヌは先日あったリディとのやり取りを話す。



しつこいかもしれないが、アリアンヌは何度も野盗襲撃で自身を顧みず戦いを挑んだリディを注意しようと、リディの部屋を訪れていた。それほどリディを思っての行動なのだろう。

しかしいくら言っても、リディは小首をかしげるばかりであった。


「だから! あなたが傷つくと、私達は嫌なの! わかる?」

アリアンヌの感情的な言葉に、リディは初めて明るい顔をして手をポンッと叩いた。

「なるほどそう言う事ですか!!」


理解が得られたと笑顔になるアリアンヌ。

「そうよ! 分かってくれたのね!」


しかしアリアンヌの言葉は違う意図で伝わってしまい

「つまり、私がめちゃ強くなって無双すればいいわけですね!!」

「ノオオオォォォ!」



話を聞いたユーリは苦笑いである。

銀の長髪をかき上げ、窓の外を見ながら再度笑うアリアンヌ。

裏庭では正拳突きをしているリディにジルが近寄ってくる。どうやらジルも参加する様だ。


「そういう事じゃないんだけどね~」

「……まぁ何というか、君の悪い所に似てるよ」

「嬉しいわ、でもあの怖くて赤い瞳はあなた似ね」


顔を合わせ、微笑み合う二人。再度窓の外を見て呟く。


「私達も強くならないとな」

「ええ、あの娘がまた無茶をした時の為にもね」


裏庭ではジルがリディに持ち上げられて叫んでいる。そんな騒がしい自分達の子供を見て、強くなろうと決意するアリアンヌとユーリであった。




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