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第14話 ブランシュ編 12

少女の死を救う為に領民が駆け出す中、一人の男が一陣の風の如く猛スピードで駆け抜ける。その黒いシルエットを残して。そして……ガキンッ!! と音が鳴る。

その男は、無慈悲にも少女の命を奪おうとしていた野盗の一撃を見事剣で止めてみせた。

驚く野盗を一睨みすると、男は力を抜き野盗の重心を前に倒す。その瞬間――フォンフォン! と風を切る音が2回聞こえたと思ったら、野盗は自身の体に刻まれた2つの線から血を噴出させ倒れる。

目を奪われるような研ぎ澄まされた剣技。男は剣についた血を一振りする事で飛ばすと、倒れている少女、リディを抱きかかえる。


「遅くなってすまない。これが私の答えだリディ!」

「お、おとうさま」


ボロボロの体からはあらゆる所から血が流れており、足は酷く折れ曲がっている。

そんな状態のリディを思わず抱きしめるユーリ。そうでもしないとリディが死んでしまいそうだったからだ。

遅れて駆け寄ってきたアリアンヌも娘の様子に口を押え泣きそうである。


「リディちゃん! リディちゃんしっかりして!!」


縋りつくアリアンヌに弱々しく笑みを浮かべるリディ。

「おかあさま……だいじょう、ぶです。これケチャップですから」

どうやら冗談を言う元気はまだある様だと安心するユーリとアリアンヌ。しかし重傷なのには変わりない。


「ジル!!」

ユーリの叫びで領民の集団の中からジルが駆け出してくる。


「リディを安全な場所に連れて行ってくれ」

「はい!」


リディを背に乗せ、領民の中に戻って行くジル。そんなジルを見て多くの領民達が「俺の家なら安全だ!」と名乗りを上げてくれている。

それを確認してから立ち上がるユーリ。門前にいる野盗集団を見据え大きく息を吸う。


「我がブランシュの民達よ、どうか聞いて欲しい! 今まで私はお前たちから逃げ、そして家族からも、自分からも逃げていた!!」


領民を背に振り向かずに叫ぶユーリ。それに聞き入る領民達と遅れて来たユーリの私兵達。


「しかし、今日娘から言われたのだ! それは間違っていると!! そして殴られて気がついた!! 私がどうしようもないバカだった事に!! 本当にすまなかった!!」


尚も背を向け続けるユーリ。


「言葉で許して貰えるなんて都合の良い考えはしない。誠意は全て行動で示していこうと思う。しかしそれでも宣言させてくれ! 私はもう決して我が民を裏切らない! 絶対にだ!!」


剣を構え、上に掲げる。


「だから、こんな不甲斐ない私に今一度お前たちの力を貸してくれ!!」


そんなユーリの問いかけに、声を大きく上げる男がいた。ユーリ私兵の兵長であるロラン

ドである。

そしてそれは他の私兵達、そして領民達に伝染していく。


「「おおおおおおおおおお!!」」


手を天に掲げ、雄叫びを上げるユーリの後ろにいる領民と兵。それに怯む野盗の集団。

その威りに満足そうに笑うユーリ。開戦だと合図を出そうとしたその時、隣のアリアンヌが1歩前に出る。


「アリアンヌ、ここは危険だから下がっていなさい」

妻を心配してのユーリの言葉。しかしアリアンヌはその答えに否定で返した。

「あら、そんなの無理よ。だってこの賊は私の可愛いリディちゃんを傷つけたのよ?」


そして手を野盗達に向けると赤いオーラがアリアンヌを包み込む。

「だ・か・ら……久々にキレたわ」


明るかった声が一気に下がり、凍てついたものになる。それにはユーリと後ろにいた領民も肝が冷えたのかブルッと震える。


「“大気に点在する源よ、我が呼び声に応え、非情なる審判を持って、何者も触れる事の出来ない神の怒りを下したまえ。煉獄をここに――”」


アリアンヌの詠唱が紡がれるにつれ、どんどんオーラが赤く大きくなり周りまで溶かす勢いだ。

そしてアリアンヌの両手が赤く光りだすと同時に頭上に超巨大な炎の球が5つ出現する。

それを見てヤバいと思ったのか野盗が一斉に逃げ始める。しかし残念な事にアリアンヌの詠唱の方が早かったようだ。


「”ガトリウム・インパクト”」

アリアンヌの頭上にあった炎の球が一斉に前方に発射される。

ナックルボウルの様に不規則な動きで地面を抉り、野盗を呑み込んでゆく5つの炎球。

しかしそれで終わりではなかった。アリアンヌの両手から赤い光線が放出される。

それを左から右に一振りすると今まで野盗を呑み込んでいた大きな炎球が光線が当たった順に爆発する。

熱のこもった爆風がこちら側にまで届き、踏ん張っていないと飛ばされてしまいそうである。それを直に受けてしまった野盗はたまったものではないだろう。

悲鳴を上げる野盗。そのアリアンヌの怒りの様を見て後ろの皆はリディを思い浮かべ思うのだった。この親子似てると。


「フフフッ、全魔力つぎ込んでやったわ。ざまあ……みろ」

魔力切れのせいでバタンとぶっ倒れるアリアンヌ。そんなアリアンヌにヤレヤレと頭を押さえるユーリ。

すかさず私兵の1人が出て来て、アリアンヌを引き摺って行く。

野盗はその半数はアリアンヌの魔術で伸びているが、残り半数は何とか直撃を避けたらしい。そんな野盗集団にユーリは言う。


「さあ野盗共よ! 降伏するなら今の内だ。この機を逃したらもう私はお前達に温情や情けはかけない。私もそれなりに怒っているのでね」

煙立ち込める中から、野盗達は見る。冷徹な顔をしているユーリの燃え盛る様な激情を。


「それでも向かってくる者がいるのなら、私が相手になろう! 腕は鈍っていても、模範騎士の異名は伊達ではないぞ」

洗礼された剣を横一閃するユーリ。

余りにも模範的、基礎訓練をしっかりと重ねたユーリの腕はまるで剣術の指南書の様。

何事も満遍なく鍛えたユーリの剣術はどんな事にも対応し打ち勝つ。

ついた異名が模範騎士。


そして温情をかける時間は終了したようだ。駆け出すユーリ。それに続きユーリ私兵、領民も駆け出す。

今ここで、嫌われ領公は領民と心を通わす事が出来たのだ。




*****




リディが目を覚ましたのは、5日後の事だった。

あれだけ痛めつけられたのに、足以外は完全に治っている。診に来てくれた医者も目を丸くしていたほどだ。

これも肉体活性チートのお陰かと、神に感謝をしたリディ。


ちなみに野盗は無事撃退する事が出来た様で、今は全員ブランシュ領の牢屋に入れられている。街の被害も門の破損以外は特に酷くなく、直ぐにいつも通りのひもじい生活に戻れたようだ。

変わった事と言えば、あれからユーリがちょくちょく街に顔を出しているのと、皆口々に「お嬢さんは無事か?」と聞いてくる事だ。

ようやく受け入れてくれたんだと、その話を聞いたリディは涙ぐんでしまったりもした。


さてそんなリディだが今現在、絶賛お仕置き中で自室のベッドに縛り付けられている。縛り付けられていると言っても、本当に紐で括られているわけではなく、ベッドの上以外の移動を制限されているのだ。ご丁寧に扉の前にはメイド2人を着かせて。

ムズムズする体を押えベッドに横になるリディは先の事を思い出す。



目を覚ました後、リディはめちゃくちゃ叱られた。

父ユーリからは……

『なぜあんな無茶な事をした! 私も人の事を言えないが、自分を蔑ろにするな!』


母アリアンヌからは……

『リディちゃん? お願いだから私達の為に自分を犠牲にするのはやめて。え? 出来ない? じゃあ出来るって言うまでママに抱き着くの禁止ね……うわーんそんなの無理―!』


兄ジルからは……

『君らしいけどさ。あんまり無理しないでよ……あと頼むからメイド達に僕がおかしくなってた時の事情を説明をしてくれ! 全然信じてくれないんだ!!』


皆、リディの家族の為にする自己犠牲を直してほしいらしい。しかし当の本人は……

(何であんなに怒ってたのかな~)

である。こと家族の為なら何だってするし敏感に察知するリディ、しかし自分の価値となると途端にポンコツになるのだ。


(まあいいか)

欠伸をして、本日2度目の睡眠に入るリディ。

家族の願いをリディが理解するのは、まだ大分先の様だ……。


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