表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

3.鏡の国のアリス(ルイス・キャロル/河合祥一郎訳)

【かがみのくにのアリス】

「不思議の国のアリス」の続編のような位置づけの作品。前作を読んでいなくても全く問題ないとは思いましたが、訳者あとがきを読む限り、作者の心情の変化を追うには前作を読んでおいた方がいいのかも。もちろん、私もそんな読み方はしていなくて、ただニヤニヤクスクス読むだけでも十分アリスシリーズは楽しめます。私は一応「鏡の国~」を読むために「不思議の国~」をもう一度読みました(初めては北村太郎訳。二回目の今回は河合祥一郎訳)。障害者職業センターに通う道すがら、電車の待ち時間でアリスシリーズ二冊を読み切りました。毎回ほんのちょっとずつ読んだけれど、全くストレスにならず。今のところ、電車の待ち時間で読む本のベストにあげたいくらいです(笑)。薄い本で軽いので持ち運びやすいですしね。


 さて、この作品は本当に何も考えず読めてとても楽しい……のですが、前作ほどの衝撃はなかったかな~という感じもします。やっぱり何でもファースト・コンタクトが印象的なものなんでしょうね。不思議の国に吸い込まれていくようなワクワク感・不安感がない導入が凄く……静か。いきなりスーッと鏡の中に入ってしまうアリス、特に戸惑いもないアリス、喋り方もなんか前作(半年前)に比べて大人なアリス……。なんとなく違和感を覚えながらも、まぁいっか、と思って読み進めました。基本的に楽しいですし、架空の虫とかハンプティ・ダンプティの言葉とか「何その発想!(笑)」と目が覚めるようなシーンも多いのですが、前作よりも脈絡がないように思えるのは気のせい? いや、アリスシリーズに脈絡というのも無粋なんですけど(しかも登場人物はちゃんとチェスゲームに沿って動いているという法則があるというのに……)、前作よりもっとごたごた色んなパーツを集めた感じ、てんこ盛りです。逆に言えばかなり豪勢になっていると思いました。

 

 視点は神視点かな。「アリスは後にお姉さんにこう言っていました」とかいうような文章も結構出てきます。「ですます調」になんだか癒されます。

 

 翻訳について。正直、この河合祥一郎さんの翻訳、私はあまり好きではありません。もう何でもかんでも韻を踏んでダジャレにして傍点振って強調すればいいってもんじゃない! とか思っちゃいます。かなりしつこい感じがします。「原文の言葉遊びを日本語で再現した」って言われても、「ええ~? ホントに原文と意味変わってないの?」と不安になってしまいました。「不思議の国のアリス」で言葉遊びの「taught us(意味:私たちに教えた 読み:トータス=陸ガメ)」というのを「茶々(ティーチャ=先生)」という謎の言葉に変えたという前科がありますからね、河合祥一郎さん……。いややりたいことは分かるが「茶々(チャチャ)」なんて言うやついるか? みたいな変な気持ちになってしまいまして、それ以来ちょっと疑いの目で見てしまいます……。集英社のポケットマスターピースにルイス・キャロルの巻があって、それを持っているので、いつかこちらで読み直す予定です。

 

 内容以上に気になって印象に残ったのは訳者あとがきかもしれません。はい、私は確かにあとがきというものがとても好きです(笑)。でも今回は好きというより本当に色々気になりました。まず、ルイス・キャロルの実在のアリスへの想いが……。前作の北村太郎訳の方のあとがき(解説かな?)には、キャロルは少女の裸が好きで両親に許可をもらって写真を撮っていた、とか書いてあるんですね。で、それは時代が寛容だったんだな……と遠くを見る目になってしまったという経緯がありまして、そういうキャロルの少女愛好趣味を踏まえた上で、今回の「大人になっていくアリス、自分の手の届かないところへ行ってしまうアリスへのもどかしい想い」が表現された比喩などを読むに当たって……「言いたいことは分かるし、その気持ちも分かるが、冷静に考えるとやっぱりなんか気持ち悪いな」という釈然としない茫漠とした思いが残るのです。文学にこれ言っちゃおしめぇよ、ですけどね、本当に。だから、実在のアリスがちゃんと外で結婚して落ち着いたことは良かったです。次に気になるのはアリスとレオポルド王子(ヴィクトリア女王の四男)の身分差で叶わなかった恋なんですが……もっと詳しく聞かせて欲しかったです。


 アリスシリーズをモチーフにした日本の作品って結構ありますよね。私が読んだのは北山(きたやま)猛邦(たけくに)「『アリス・ミラー城』殺人事件」、小林(こばやし)泰三(やすみ)「アリス殺し」だけですが、どっちも唸らされるところが多々あるミステリー作品でした。とびっきり面白いってわけではないけれど、かなりトリッキーで強い印象が残る作品たち。このアリスシリーズから生まれたことに納得です。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ