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2.なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?(アガサ・クリスティー/田村隆一訳)

【なぜ、エヴァンズにたのまなかったのか?】

 なんて魅力的なタイトル! アガサ・クリスティーはとても好きな作家の一人なのですが、「私は本当にクリスティーが好きなのかなぁ?」と不安になるちょっとしたブランクがありました。それは以前より海外作家を読む幅が少し広がって(といっても本当に少し)クリスティーのお手軽さ・シンプルな文章に少し物足りないと感じ始めたから、なのかもしれません。しかし! そんな「クリスティーを楽しめない年齢になったのかな……」という不安は綺麗さっぱり払拭されました! お手軽? とんでもない。目を光らせて、じっくり一文一文読まなくてはなりません。登場人物にも無駄はないので、しっかり覚えておく方がいいでしょう。そう、これはミステリーです。ですが、クリスティーのサスペンスの上手さに舌を巻く作品でもあります。


 と興奮しながら読んだ初読時。実は、男性のポケットに入っていた写真の移動がよく分からず……。その他もろもろ、人物の情報をえらくたくさん取りこぼし……。これは一週間くらいかけてちょびちょび読んでいたせいもありますが、「えっ? 私って外国語の名前特に苦手じゃないはずなんだけど、何でこんなに頭に入らないの……?」と困惑しました。苦手な人の気持ちが分かりました(笑)。で、まぁ、三分の二まで読んで、「あっ、これは駄目だ。このまま最後まで読んだら勿体ない。最初から読み直そう」ということで、結局最初から全部読むことにしました。そうして正解! 全ての事象の流れを知らないと、解決編でこんがらがると思います(笑)。本の基本的な読み方というのは、時間を置かず一気に読むことなんだろうな、と実感しました。そうすることで本の面白さは二割三割増しくらいするのではないでしょうか。


 視点は三人称多視点……神視点?(すみません、私も厳密に知っているわけではありませんので憶測です。)主人公であるボビイとフランキー二人の視点を軸として、時々他者の視点が入って来ます。視点人物だったフランキーが去った後ろ姿を見ているロジャーだか誰だかのシーンがあったりして、これは「売れる作家の全技術」大沢在昌著だったら『視点のブレ』に分類されそう。(あっでも、一応後ろ姿を見ている行為者の名前が書いてあるからいいのかな?)ですが、読んでいるこっちとしては全く違和感がありません。つくづく、小説はもっと自由でいいんだ! と感じます。翻訳小説には神視点は多いそうですけどね、大沢氏は認めていないそうで……。

 でも本当に違和感ないんですよ。その理由に思い当たったのですが、必要な時だけ主人公ら以外の視点が入るからでしょう。誰でもかれでもめちゃくちゃに変わるというわけではない。必要だから書いている感じ。それから、基本的に「ボビイはああした。フランキーはそう思った」等の客観描写を連ねているから読みやすいのかも。


 とにかくこの本は慎重に読むべし! です。タイトルの謎自体も大変興味をそそられ、その解答も満足いくものです。ミステリーのネタよりも、話の流れを楽しむべき作品です。フランキーのようなおてんばお嬢様はなかなかに好きなタイプです。序盤モルヒネを大量に盛られて冗談のように生き残るボビイは、この作品の軽快な雰囲気を象徴しているように思われます。

 

 ところで海外ミステリーでよく登場する「検死審問」とは何なのか。これは先日やっと「本格力 本棚探偵のミステリブックガイド」(喜国雅彦・国樹由香著)を読んで知りました。遅い(笑)。実は今までよく理解せずに読んでいたんです。「死体解剖の結果を公開で報告する。裁判みたいに証人が呼ばれ質問をされる。陪審員がそれを見て、殺人か事故か評決を下す。殺人と判断されたら警察による捜査が始まる」ということだそうです。これを知っておいてよかった(笑)。



 ボビイとフランキーに襲い掛かる災難のところで一盛り上がりして、そこで綺麗に終わった方がよかったのでは、と思ったところで終盤、見事にまた盛り上がりました。


 この作品のノリからして、暗い展開で終わることはないと思っていたのですが、やはりホッとするようなラスト。でもカップル的にはあまり好みではないかな(笑)。


 と、軽快な作品であることを強調するようですが、センスのいい会話も地の文も、相変わらず人間洞察に満ちています。ほどよい深みがあって、物語を引っ張るエッセンスになっています。

「深刻に感じたからこそ、冗談を言ったんじゃないか!」


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