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1.緑衣の女(アーナルデュル・インドリダソン/柳沢由美子訳)

【りょくいのおんな】

 りょくえのおんな、というふうに読むのだとずっと思っていました。でも一応……と調べたら違いました。「CiNii Books 大学図書館の本をさがす」(http://ci.nii.ac.jp/books/)という本の題名の読みが表示されるサイトを見つけたので、これからもこのサイトで確認していこうと思います。題名の読みは本に書いて欲しい!

 

 さて、この作品は衝撃的な冒頭の一文から始まります。そこで、おおっ! と思います。このシーンに登場する医学生がなんとなくいい感じだったのですが、発見者の役割だけで終わってしまうのがなんだか勿体ない。視点は三人称多視点で数行ごとにコロコロ変わります。「☆しりとり読書日記(日本編)☆」で読んだ「リング」よりもスムーズな視点の移動だな、と感じました。何が原因なんだろう。それ以前に文章がスルスル入ってきて、分かりやすい。訳者の功績も大きいような気がします。「え? それはどういうこと?」と私が疑問を抱くタイミングで、登場人物たちも「なんのこと?」「言わんとするところが分からない」と言ってくれるので、それも凄く助かりました。

 

 謎解きするミステリーではなく、警察の聞き込みでゆっくり事実が明らかになるミステリー。謎解き要素は皆無に近く、実はあれがこれで……なんて想像をめぐらしたのですが、それは無駄に終わりました。途中で「ハレー彗星で地球滅亡」とか言い始めるから、「えっそういう話になるの!」とドキドキしてしまったのですが、これもそういう話ではなく……。

 しかし、それでも読ませる力がある小説だな、と思いました。二日で読み終わることができました。


 アイスランドが舞台ということで、耳慣れない地名の書かれた地図が冒頭に載せられています。これは何度も文章と突き合わせて見ていたのですが、あんまり効果的ではなかったかな(笑)。人名も独特で、エーレンデュル、エリンボルク、シグルデュル=オーリ(←これはダブルネームというそうで、全部ひっくるめてファーストネームなんだとか)……なんか全部似ている気がする。でもこれは読み進めるうちに癖になってきました。


 警察の聞き込みと並行して、DV(ドメスティック・バイオレンス。家庭内暴力のこと)に苦しむ親子が描かれます。この二つの話は一体どこで交わるのか……と冷静に考えることはできず、とにかくDVの描写に胸が痛みます。DV男グリアムが息子を味方に引き込もうとするところはゾッとしました。シモンがグリアムに追いつめられるところも苦しかった。

「暗い小説だ」という評判を聞きつけて読んでみる気になったのですが、正直これは私が求めている方向性の暗さじゃない……。女性と子供が虐げられる小説を読むと、作者に対して疑問と怒りが湧いてきてしまいます。

 

 だから最初は「何でこういう陰惨さを好んで書くのかなぁ」と不信感を持って読んでいました。最後まで読み、「訳者あとがき」を読んだ時、やっと少し納得することができました。作者が執拗に女性への暴力を描くのは、DVの真実を書き切らなくては、という情熱があるからだと。その言葉はこの物語の閉じ方を思うと、確かに真実かもしれません。……とは思いますが、作者(男性)の言葉よりも、私と同じ疑問を感じ作者を問い質した柳沢由美子さんの方に好感を抱きました。女性の心理としてこんなことあるかな? という部分がいくつかあって、人間なんて本当に色々だから……と分かっていても、少し気になってしまい、作者を完全に信用していない自分がいます。


 ところで主人公、レイキャヴィク警察犯罪捜査官のエーレンデュルの過去と娘のエピソードは必要ないと感じました。(娘がドラッグ常用者とかいうと、これだから海外は……と少なからず思ってしまいます。)静かに感情を揺さぶってくるせっかくのラストシーンなのに、ページをめくると……。書かないわけにはいかなかったのだろうけど、警察側はあくまで脇役だと思うので、水を差されたような気持ちになってしまいました。

 

 作品自体もどんどん読めるのですが、私は「訳者あとがき」が凄くいいなぁ、と感じました。前述した理由に加えて、アイスランドの風習の話がとても興味深かったです。特に「会社に来ると昨夜見た夢の話をするのが普通」という話にはビックリ。他人の夢の話ほどつまらないものはない、と言われる日本では考えられないことですね。私は夢の話って不可解で結構好きなので、なんだかほんわかしました。


 


 


 




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