第3話 ブランカ(1)
か、鰹節アイスうまー!!!
―じゃなくて。
いかん、いかん。どうにも、この「猫属性」パラメータが邪魔だニャー。ちょっとパラメータいじっちゃお。
あとで戻しとけばバレないニャー。
―ボクが自分でレイヤー2に行ければこんな苦労はしないんだけど、セキュリティがガッチガチに硬いし、下手に違反でもした日にゃ、アリーシャに迷惑かかるからね。
仕方ないのニャー。
―あ、ボクはAIなので、内部思考ルーチンぶん回してる時、本当はこんな冗長性ばかり際立ってて、パフォーマンスの悪い言語は使ってないんだけど、まぁ、それじゃ意味通じないから、便宜上の表現です。これは。
あと、語尾の「ニャー」は、アリーシャには内緒。頭の中で考えごとするときだけ使ってる。プログラムの制約で従順を強要されてるボクのささやかな抵抗なので、見逃して欲しいのニャー
―アリーシャは目の前で超特大のパフェにお目々キラキラさせてる。バーチャルだからね。太る心配はないし。イイよね。でもちょっと大きすぎ。パターンとしてはパフェと認識できるんだけど、大きすぎて勾配消失しそうだよ。え?あ、ごめん、こっちの話。忘れて、忘れて。
―なんかね、お気に入りのお洋服(彼女の場合、「潜水服」って言ってるけど)が見つかったらしい。今着てるのとあんまり変わんないんだけどね。同一認識しそうになるレベル。
―アリーシャのキラキラお目々好き。澄み切った深い海を覗き込んでるみたいな、青みがかった大きな黒目。ボクいつも吸い込まれそうって思っちゃう。
ホント可愛いし、鰹節アイスくれるし。
か、鰹節アイスうまうまー!!!!!!
―いかん、いかん。まだ「猫属性」パラメータが邪魔するのニャー。困ったもんだよね。ホント。
アリーシャから聞いた情報と、ボクが独自に集めた情報を整理しなくちゃいけないのに。
うギャ!
「なによ、ブランカ。もう少し静かにしてよ」
―なるほどニャー。あんまり「猫属性」下げすぎると、尻尾に違和感。やりすぎは禁物っと。
―今回のオプファーがダイブしていたVD(ま、平たく言うとVRMMOなんだけど)は、レイヤー2のアトラクションの1つ。
レイヤー2だと、冒険系のアトラクションも充実していて、ヒーロー願望を満たしてくれるような物もたくさんある。
―当然、セーフティはがっつり確保されてる。
基本的に事故は起こらない。
怪我をしようが、ゲーム内で死のうが、本当に怪我をするわけでも、死ぬわけでもないし、精神的なストレスもリミッターがかかるから、極度のストレスにさらされてダメージを受けることもない。まぁ、「お化け屋敷」に尻尾が生えた程度って思えばいいニャ。
―プレイヤーがのめり込みすぎて、現実と信じ込んでしまっても、一定のプレイ時間(レイヤー2の場合4時間)が経つと、オートブローシーケンスが作動して、上位のレイヤーに戻ってこれるようになってる。
―本来、事故なんて起こらない仕組みになってるんだよね。
でも、実際には起きてる。
たいていはユーザーがダイブ前から安全値を超える心的ストレス抱えていたってケースが多い。
事前にモニター検査は受けるんだけどね。ヒトのココロはなかなか測りきれるもんじゃないから。
事故の他の理由として多いのは、正規のVD装置を使ってない場合。でも、今回は違う。
それと、時々あるのが、レイヤー3以下に潜り込んじゃって出られなくなる場合。これも、今回はレイヤー2で見つかったってアリーシャが言ってたから違うね。
―それと、もう1つ謎なのが、今回のアトラクション、ヒーロー物じゃないんだよね。恋愛シミュレーションなんだなー。
『魔法少女とドキドキ♡キュアラブ♡マジカル♡デート』
ってタイトル。
あ、アリーシャは誰がどんな風にVDを楽しもうと他人に迷惑をかけない限り個人の自由って思ってる。狭い価値観で人を見下すようなことは決してしなくて、ひとりひとりの個性を尊重する良い子ですニャ。
「キモッ!ブランカ、なにニタニタ笑ってんの?!」
―前言撤回するのニャー(泣)
―にしても。どうにも解せない。ログ解析しても辿れなかったから確かではないんだけど、タイトルの魔法少女は出現してないみたいだし、アリーシャから聞いた限りでは、まるっきりヒーロー物コンテンツだよね。これ。
まだ何かピースが足りない気がするニャー。
「ちょっとぉ、ブランカ。いつまで空になったお皿舐め回してんのよ。やめなさいよ、みっともない」
はぅっ!
「ほら、行くよー」
あわわわ、アリーシャ、待って〜