竜王、街に現る
「次は家具を買いに行きましょう。
と、言いたい所だけど、どうせ服を買ったんだから、
着替えましょう。
服屋に試着室がなかったのよね。
まったく…なんで試着室がないのよ…」
私がため息を吐くと、フェリスが提案をしてきた。
「お嬢様、それならば、良い魔法がございます!」
「どんな魔法?」
「人が入れるほどの空間を作り、その中で着替えをするのです」
空間を作る…そんな魔法まであるのね。
フェリスってつくづく万能よね。
「じゃあ、人気のない所で空間を作って頂戴。
3人はそれぞれ買った服に着替えて」
私の言葉に従って、4人で人気のない路地裏へ入る。
ここで一イベントありそうだけど、運が良く、何もなかった。
そこでフェリスが作った空間に
順番に入って、新しい服に着替える。
レイーヌは、清潔感溢れる白のワンピース。
ヒルクは、Tシャツとズボンというラフな格好。
フェリスは、私が選んだ黒に近い紫の服を着ていた。
「服だけで、随分と印象が変わったわね。
さあ、家具を買いに行きましょう。
それが終わったら、雑貨屋にでも寄りましょう。
色々買いたい物があるのでしょう?」
「はい!」
路地裏から出て、また賑やかな道を進む。
活気溢れる雰囲気の道を歩いていると、一層賑やかな
いっそ喧しいぐらいの声が前から聞こえてきた。
「おお!王都か!久しぶりに来たな!!
おっ!あっちに美味しそうな物があるではないか!
おおっ!こちらもまた我の食欲をそそる食べ物だな!!」
そして、とても聞いたことがある声だ。
確か、私の城の部屋に閉じ込めていたと、
フェリスが行っていたはずだけど…。
フェリスを見つめても、フェリスは分かりません、と
肩を竦めるだけだった。
「ああ!ミーリス!ここにおったか!!
我は随分探したぞ?
まあ、我のミーリスに対する思いは誰よりも強いからな!」
最後の一言はフェリスに向けられていたようで、
フェリスが不機嫌になっている。
ような気がする。
「何故、ここに居るの」
「何故?ミーリスを追い駆けて来たに決まっておろう?」
どこまでも、ストーカーね。
本当に止めてほしいわ。
唯でさえ、身近に変人がいるのだから…。
「それよりも!これを食べてみてくれ!
さっき見つけたのだが、中々に美味でな。
ミーリスにも食べてほしいのだ!」
そういって、竜王は片手に持っていた肉を
私の目の前に差し出してきた。
竜王が美味と言った食べ物は、焼き肉のようだ。
「フェリス、毒味」
「はい」
先にフェリスが、一口食べる。
それに竜王が不満げな声を出した。
「大丈夫です。大変美味でした」
「そう」
フェリスから肉を受け取って、一口食べる。
う~ん。微妙だわ。
竜王もフェリスも美味だと言うけど、
これだったら市販の焼き肉のタレの方が美味しいぐらい。
肉だって、もっと柔らかい物がないのかしら?
固すぎて噛みにくいわ。
「どうだ?美味しいだろう?」
「そうね」
とりあえず、頷いておく。
差し出した本人は美味しいと言って、
肉を頬張っているわけだし。
残りはフェリスに渡しておいた。
「そうかそうか。美味いか。
うう…お、お兄ちゃんは嬉しいぞっ!」
何故かいきなりボロボロと泣き出した、竜王…。
何なの、一体。
「何で泣いてるのよ」
「ミーリスが美味しいと、食べてくれたのが嬉しいのだ。
我の城にいた時はあまり食べていないのを、我は見たからな。
それに、侍女からも聞いた。ミーリスが頻繁にベッドに横になり、
食欲もないようだと…。
それが、元気に外に出かけ、食べ物を美味しいと口にしている。
何処の世界に喜ばない兄がおろうか!?」
何処の世界に食べ物を食べただけで、
声を張り上げながら咽び泣く男がいようか。
と聞きたい。
そして、集まる観衆の目。
不思議そうな目でこちらを見てくる人々。
「フェリス、さっさとここを離れるわよ。
レイーヌとヒルクもいいわね」
「「「はい」」」
この時は、4人の心は一緒だった。
早くここから逃げたい。
何とか、竜王にばれずに、あの場から離れることが出来た。
「まさか、竜王がここに来ているとは思わなかった。
フェリス、部屋に閉じ込めてたんじゃないの?」
「はい…恐らく僕の魔法を破り、自分で出てこられたのかと…」
恐ろしいわね、竜王。
まさか、私の加護があるフェリスの掛けた魔法から
自力で抜け出してくるなんて…。
「街にいる間は、出来るだけ竜王に遭遇しないように
慎重に行きましょう。
あんなに目立ちたくはないでしょ?」
「はい、そうですね…」
とりあえず、次の目的の為に歩く。
竜王に会わないように願いながら………。




