眠れないお嬢様
それから竜王は程々(私から見れば大量)に料理を食べると、
またも部屋に訪れた大臣に強制的に連れて行かれた。
私は一人、宛がわれた部屋のベッドで寝ることにした。
ベッドに向かった私に侍女が問いかけた。
「ミーリス様お休みになられるのですか?」
やっぱりまだ私はミーリスなのね。
しょうがない…。
ここにいる間はミーリスと呼ばれることにしよう。
「ええ、起こさないでね」
「はい、分かりました。
ゆっくりお休みください…」
少し高いベッドに上がると、
ふかふかの布団に入った。
侍女が気を利かせ部屋の明かりを消してくれる。
そっと部屋から出て行く音がして私は目を閉じた。
「ふん!まったく大臣め!
我とミーリスの邪魔をしおって!
しかもこの書類の山は何だ!?
何故こんなにも仕事が進んでいない!?」
「竜王様、お言葉ですが。
この書類の山は竜王様がずっと自室に引き籠っておられたからです。
それに…、ミーリス様はお仕事をなさらない竜王様を
嫌いになるやもしれませぬぞ?」
「ミーリスが……?」
大臣のその言葉を訊いた途端、竜王の頭の中に
あるイメージが流れてきた。
「お兄ちゃん!お仕事をやらないお兄ちゃんなんて
ミーリス、大っ嫌い!」
大っ嫌い……大っ嫌い…大っ嫌い。
竜王の頭の中でそのフレーズだけが
何度も何度もリピートされる。
「お兄ちゃん!こんな難しいお仕事出来るの??
お兄ちゃんすごーい!!
ミーリス、お兄ちゃん大ー好き!」
大ー好き……大ー好き…大ー好き。
またも頭にリピートされる言葉。
竜王にとってどちらの方が言われたいフレーズなのか。
比べるまでもなかった。
「分かった!
我は、いや、お兄ちゃんはお前の為に
頑張るからな!!
待っておれ!ミーリス!
すぐに終わらせてその言葉を
お前のその可愛らしい唇から言わせてくれようぞ!
大臣!何をしておる!
さっさと終わらせるぞ!!」
「はっ、はい!竜王様」
今まで以上にやる気になり、
休みもなしに仕事に没頭し始めた竜王を見て
大臣は変なスイッチを押してしまったと
後悔することになるのはもう少し後のお話……。
侍女によって明かりを消された薄暗い部屋で、
一人、眠れずにいた。
いつもなら昼寝する時間なのに…。
自然と瞼が落ちて、ぐっすりと寝むれるはずなのに…。
考えていて、何となく理由は分かった。
この部屋が落ち着かない。
いつもの何もない部屋とは違い。
明らかにここは王族の暮らす部屋なのだ。
色々な家具があるのは当然だし、その一つ一つが高級であるのも当然なのだ。
それに、この城には全然知らない赤の他人がいる。
何が起こるか分かったものじゃない。
そんな気持ちが緊張を生み、私の眠りを妨げている。
「さっさと来なさいよ、フェリス…」
部屋の窓から外を眺めようとしても、
カーテンで閉ざされた部屋からは外を見ることが出来なかった。
その後も私が落ち着いて眠れることはなく、ずっとベッドの上で過ごしていた。




