こりない竜王
コンコン
この変態をどうするべきか考えていると
部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「失礼します。大臣です。
竜王様、ミーリス様が戻られて嬉しい気持ちは分かりますが、
仕事をなさっては下さいませんか…?
竜王様の仕事が溜まっております。
とても大臣だけでは手が足りませぬ」
この竜王の家(城)に来て初めて会った大臣が
部屋まで竜王を呼びに来たらしい。
「チッ、大臣め。我とミーリスの時間を邪魔をしおって…」
はあ!?この人はまだ私の事をミーリスだと言い張るつもりなの?
驚きを通り越して呆れたわ。
「行ってあげた方がいいんじゃない?」
「ふん!仕事など捨ておけ。
我はミーリスと共にいたいのだ」
と私をぎゅうぎゅう抱きしめてくる。
こっちは苦しくて仕方ないのに、
やっている本人は嬉しそう。
「止めて」
竜王に冷たく言い放つけど、竜王は離す気がないらしい。
絞め殺すみたいに力を入れて抱きついてくる。
「は、はな…し、て!」
何とか引きはがすことに成功すると、
何をするんだ?という目で竜王が見てくる。
「抱きつかないで。
私はあなたが大嫌いよ」
竜王が私の事をあくまでミーリスとして見るつもりなら、
私は私自身でいるまで。
「ミーリス……?
何を言っているのだ?
そ、そうか!ミーリスは照れているのだなっ!
それか腹でも減っておるのか?
ふむ。それではイライラもしてしまうというもの。
それならば、すぐに食事を用意させよう」
ダメだわ。
この人自分の脳内でいいように変換してしまうんだ。
部屋の前で待たされっぱなしだった大臣を
竜王が呼んだ。
「失礼いたします。
それで…。竜王様、お仕事をなさってくれるのですか!?」
期待に目を輝かせて大臣が竜王を見ていたが、
その期待はいとも簡単に外れる。
「いいや、ミーリスが腹を空かせているらしい。
料理長に言って食事を出させろ。
それと、我は仕事はしばらくせんからな」
再び私を軽い力で抱きしめて
竜王はいやいやと首を横に振っている。
「そうですか……」
大臣が明らかにガッカリしてる。
日ごろから扱き使われているのね。
まあ、可哀そうだとは思わないけど…。
私も誰かさんに同じようなことしてるし。
本人が嫌とも何とも言ってないし。
扱き使うわよ?って聞いたら、
はい!寧ろどんどん使ってください!
ってM発言みたいな事言ってた、わよね?
少し違っていたかも知れないけど。
「分かりました……。料理長にそう申しておきましょう。
ですが、ようございました。
ミーリス様がこの城に戻られ、
竜王様もお元気になられて…」
大臣はポケットからハンカチを取り出して
涙を拭きながら話していた。
どんだけこの大臣は涙もろいのよ…。
どっかの誰かさんを思い出すわ。
「大臣早くしろ」
「はい、竜王様」
大臣は涙を拭きながらも、深々と頭を下げると部屋から退室した。
「だから、離れてよ!」
もう一度竜王の腕を離そうとしても
さっきよりも強い力でしがみ付いてきて
引きはがすことが出来ない……。
もう私は諦めることにした。
疲れた…、早く寝たい…。
「ミーリスよ。
そんなに恥ずかしがることはない…。
ミーリスが年頃の女の子なのは分かるが、
そんな風に接されると燃えてしまうではないか」
はぁ…。
もう手遅れだ、この人。
お願いだから頬をスリスリさせながら言わないでほしい…。
「はぁ……」
いつになったらフェリスはここに来るのかしら。
さっさと来ないと私の頭が如何にかなってしまいそうだわ。
コンコン
「失礼します。大臣です。
料理長からお食事のご用意が整いましたと言付かりました。
竜王様、料理はこちらに運ぶようにいたしましょうか?」
「ああ、そうしてくれ」
「分かりました」
短い会話をして大臣は去って行った。
数分もすれば部屋がノックされ、
豪華な料理が次々と運び込まれた。
料理を食べるのに邪魔だと思ったのか。
私が食べやすいようにと考慮したのか。
やっと竜王の腕が離れた。
竜王はそのまま私が座っているソファーの向かい側に座ると
目の前の料理に目が釘付けになっていた。
私もある意味で料理に目が釘付けになっていた。
さすが異世界。
食べ物が違うことはレイーヌから聞いていたけど、
こんなにも違うんだ。
そこに並べられた料理は前世の料理に比べ、
匂いがキツイ物もあれば見た目で不味そうな物もある。
「さあ、ミーリス。食べようではないか」
そう言って、竜王は手元にあった大きな肉の塊に
フォークを突き刺し、食べ始めた。
竜王が食べている料理は明らかに
他の料理よりも匂いがキツイ物だった。
私は竜王が美味しそうに食べているのを横目で見ながら
先に比較的無臭で見た目がきれいなサラダらしき物に手を付けた。
「どうだ?上手いだろう?」
やはり、私の食べた物はサラダのような物で、
瑞々しい野菜にサラッとしたドレッシングが掛かっていて意外と美味しかった。
だけど、フェリスの料理に比べれば、天と地、月とスッポン程の差がある。
「まあまあね」
私はサラダぐらいしか食べる気になれなかった。
その他の物には食欲が注がれなかった。
「もう良いのか?
もっと沢山食べなければ大きくなれないぞ?」
私の分の肉の塊を寄せてくるけど、
それを手で押し返した。
「もういらないわ」
「そうか…。ならば、ミーリスの分も我が食べようではないか!」
「竜王様、程々になさいませ」
料理を運んだ時からずっと黙って部屋の端にいた侍女が
竜王にそう進言した。
「何だ?侍女が我に意見すると言うのか?」
侍女に鋭い視線を向ける竜王。
大丈夫なの?この侍女。
竜王の鋭い視線にも動じず、侍女は竜王に言い放った。
「竜王様、健康診断で引っ掛かってしまったではありませんか。
タリス様のお言葉をお忘れですか?
食べる時には量に十分お気をつけください。と
言っていたではありませんか…」
竜王、食べ過ぎで健康診断引っ掛かったんだ…。
カッコ悪っ!
「何だ?そんな目で見るな。ミーリス…。
そんな我を軽蔑するような眼差しで見られては、
我は何とも言えない気持ちになる……」
無意識に竜王をジト目で見ていたらしい。
何とも言えない気持ちって何よ……。
竜王の顔がほんのり赤くなっているのはきっと気のせいね。
「止めとけば」
「ふむ、ミーリスが言うならここで控えておこう。
それにしても、ミーリスが我の事を心配してくれるとは…。
やはり、ミーリスは兄思いの優しい子だな!」
うんうん、と頷きながら自己完結しないでほしい。
別に心配したわけじゃなくて折角侍女の子が言ったのに
無下にされたら可哀そうだと思っただけよ。
そう!これはわたしからの慈悲なのよ。




