いいかげんにして!
「ではミーリス、話をしようか」
竜王が椅子からソファーの横に座る。
「無駄よ。だって、私はミーリスじゃないもの」
「いや。お前はミーリスだ。
我がお前を分からないはずがない」
やっぱり、否定しても無意味なのね。
竜王は私の事を本気でミーリスって人だと思ってる。
他の大臣だってタリス老人だって、
私をミーリスって人だと思ってるみたいだし…。
「そうだ!我とミーリスの絵を見せてやろう!」
竜王はそういうと侍女に取らせた。
ついでに侍女を部屋から追い出すと、
この部屋には竜王と私だけになる。
竜王は大きい絵を見せてきた。
そこには赤い髪とオレンジ色の瞳の渋いおじさんと
赤茶の髪に朱色の瞳の綺麗な20歳くらいの女の人と
おじさんの足に掴まる、今より若い竜王と
女の人の腕に抱かれた赤ちゃんが描かれていた。
「これは父上だ。
この国をよい方向に栄えさせた王だったと
誰もが言っていたのを覚えている。
これは母上。
美人で我の自慢の母上だ。
身体が弱かったが、芯が強い母上だった」
そういって竜王が指さしたのは
渋いおじさんと綺麗な女の人。
これが竜王の両親。
ってことはミーリスの両親でもあるのか。
若い…。
お母さんの方は、とても子持ちとは思えないくらいだ。
「そしてこれが我だ。
この頃はまだ幼く、確か5.6歳くらいだったか…」
ってことは自然と竜王のお母さんに抱かれている赤ちゃんは
ミーリスと言うことになる。
「この絵はミーリスが生まれて2か月程した頃に
画家に描かせたものだ」
「今、両親は?」
竜王は小さく呟くように言った。
「死んでおる。
母上は病気で…。父上は他国の暗殺者に殺されてな。
だが、我にはミーリスがおる。
ミーリス…。我は、お前が生きていてくれたことを嬉しく思う」
話からすると、ミーリスは死んでいたと思われていたらしい…。
でも、竜王は信じていなかった。
今もミーリスが生きていると信じている。
まったく、いい迷惑だわ。
竜王の見つめてくる視線を無視して絵の人物を見る。
この赤ちゃんを見ただけだと、本当にミーリスという人と
私が似ているのか分からない。
「そしてこの絵が、ミーリスが3歳で初めて魔法を使えるようになった
記念に描かせた絵だ」
「へぇ~」
その絵にはミーリスらしき女の子が魔法を出している絵だった。
確かに風呂場の鏡で見た私の顔に似ている。
この絵のミーリスがもう少し成長したら、
一卵性の双子みたいにそっくりになるかもしれない…。
「でも、何で黒い髪に黒い瞳なの?
ミーリスだけ違う人の子供なの?」
「違う!ミーリスは父上と母上の子だ!
我と同じ両親から生まれた子だ。
ただ…ミーリスの髪と瞳の色は先祖返りなのだ。
それを、一部の輩は悪魔に呪われたなどとほざき。
我の大事なミーリスを悲しませた!
我や両親、ミーリスを慕っておった部下は
悪魔呼ばわりした輩を懲らしめてやってからは
公にそんなことを言う者はいなくなったが、
ミーリスの目の前だけ言う輩はいたらしい…。
ミーリスはそんな事は一言も言っていなかったが、
ミーリスを慕っておった侍女が父上に報告してくれてな。
あまり他人の前ではミーリスは笑うことがなかった。
だが、父上や母上、我の前でだけはいつも笑っていた」
竜王は私の髪を撫でながら話していた。
「また笑ってはくれぬか?
我はそなたの、ミーリスの笑顔が見たい…」
竜王は本気で私の事をミーリスだと思っているらしい…。
だからと言って、ミーリスの代わりになってあげる気はない。
「何回言えば分かるの。
私はミーリスではないわ。
いい加減にしないと、本人が可哀そうよ。
もしかしたら天国にいるのかもしれないけど…」
竜王は私の言葉に怒りを覚えたようだ。
顔を強張らせたような表情をしている。
「何を言うか!!ミーリスはここにおるではないか!!!
我の目の前に!!ここに!」
必死に私の肩を掴み揺さぶっている。
それは私に分からせるようにしているみたいで、
気分が悪くなる。
本当は声を荒げるようなことはしたくないんだけど…。
早く帰りたいし…。寝たいから、しょうがない…。
「目を覚ましなさい!!
あなたの目の前にいるのは本当にミーリスなの!?
あなたの事を大事に思っていたミーリスなの!?
あなたに笑いかけていたミーリスなの!?
そんなことにも気づかないの??
目の前にいるのは妹にそっくりなだけの別人だって…。
妹を別人に重ねたって、虚しいだけよ。
それに、本物のミーリスが帰って来た時、あなたの事をどう思うかしら」
私は深呼吸をしてから一気に空気を吸い込んだ。
「自分の妹なら!たった一人の家族なら!!
それぐらい分かってあげなさいよ!!!」
はぁ…はぁ…。
こんなに声を荒げたのは何年ぶりかしら。
勢いのあまり早口になってしまったし、
だいぶ大音量になってしまった。
まあ、近所迷惑にはなってないでしょう。
この城は案外広いみたいだし…。
これで少しはミーリスミーリス、言わなくなるといいけど…。
逆に怒りそうな気もする。
「な、なな、何が分かる!?!?
我はミーリスの事を一番よく知っておる!!
ミーリスの事ならば何でも分かる!!」
ほら、やっぱり…。言わんこっちゃない。
この人が怒鳴ると頭がぐわんぐわんなるんだよね。
頭に響くからやめてほしい。
「年齢、ミーリスの好みはもちろん!
身長、体重、スリーサイズ!
ミーリスのちょっとした癖や仕草まで!
瞼を閉じれば目に浮かんでくるぞ!」
何…、この人。
警察呼んだ方がいいんじゃない?
この世界に警察がいるかなんて知らないけど…。
いや、この際そこら辺にいる騎士でいいから、
この人を捕らえた方がいいと思う。
ここに来て身の危険を初めて感じたわ。
「分かった分かった!
ミーリスがどんだけ好きか分かったから!
もうその話はいい!」
私の周囲に変人と変態がいるなんて…。
今世はついてないわね。




