ネフィル様と初めての城
俺とアドレッドは国王の命令であの例の城を調査していた。
と言っても、城の主である女の子と話すことは出来ないし、
城に入ることも出来ない。
俺らは近くの草むらから屈んで城を眺めていた。
「なあなあ、俺らここでのんびり城の観察してていいのかよ…。
国王は城の調査をするように言ったんだぞ?」
「だが、城へは行けない。
そもそも俺たちは城に入ることが出来ない。
唯一城に入ることが出来るネフィル様も
城の主とは話をしていない」
確かに、城の調査をしようにもすることが出来ないのが現状だ。
でもここでジッとしていても成果なんて出るはずがない…。
そう、俺らはどうしようもない状態だ。
「でも城眺めてたって、暇つぶしにもならないぜ?
なんたって、何にも変わらねぇんだからさ」
そう、朝フェリスという魔族に抱えられた女の子が、
散歩に出かける以外変化という変化がない。
一回フェリスが数日留守にしていたことはあったが。
「だが、城の調査が俺たちの今の任務だ。
やるしかないだろう?」
「そうは言ってもなぁ……」
ここでジッとしているのも疲れるんだよな。
それなら、面倒な書類関係の仕事の方が
まだ手を動かすから楽ってもんだ。
「それに、国王の前でお前もやると言っただろう?」
ああ、確かに言った。
城の調査何て、遠征や街の巡回より楽だと思った。
でも今なら言える。
まだ遠征や巡回の方がやりがいや達成感といったものがある。
もともと、ジッとするとか性に合わない俺としては、
よっぽどそっちの方がいいに決まっている。
例え、多少の危険が伴っていたとしても…。
俺が黙っているとアドレッドは俺が何も言えなくなったと思ったのか
視線を城に向けた。
俺も視線を城に戻そうとした時、とんでもない気配のやつが
城に向かっているのが分かった。
「おい!アドレッド、これって……」
「カイン、落ち着け」
思わず立ち上がりそうになった俺をアドレッドは止めた。
そうだ。あの城にはフェリスがいるんだ。
「大丈夫だよな?」
「ああ、きっとな」
そう、この気配は竜族の王の気配。
前に一度竜王がドレン王国にやってきた時に感じていたから
竜王の気配だと分かることが出来た。
ここ数年は大人しいが、その前は強い奴にばかり
喧嘩を売っては相手をボコボコにしていたようなやつだ。
強さは当然強い。
竜族は元々強固な体を持つ。
その竜族の王は歴代の王よりも強いと聞いたことがある。
「何で竜王があの城に向かってんだ?」
「フェリスがいるからじゃないのか?
竜王は前まで強い奴に自らが喧嘩を売っていたようだしな」
確かにフェリスは強い気配を持っている。
魔族だから魔力だってあるだろう。
戦闘狂の竜王がフェリスという存在を知れば、
喧嘩を売るのは当然だ。
「どうか城を通り過ぎますように……」
俺は心の中で願った。
竜王がどこの誰と喧嘩しようと勝手だが、
それで女の子が巻き込まれるようなことになれば…
そう考えると危険はない方がいいに決まっている。
「どうしたのですか?」
アドレッドと俺の二人で隠れて城を見ていた所に
丁度城に向かっていたネフィル様が話しかけてきた。
「ネフィル様、今日も城へ行くのですか?
でも、今は行かないで下さい」
「何故ですか?」
ネフィル様は首を傾げながら不思議そうに訊いてきた。
「今こちらに竜王が向かっています。
もしかすれば、そのまま戦闘になるかもしれません。
危険ですのでしばらくここにいて下さい」
「まあ!竜王ですか?」
ネフィル様が音を立てないように近づき、俺らの隣にしゃがんだ。
「どうして竜王が?」
ネフィル様が俺らに訊いてきた。
ってか、それは俺も知りたい…。
「アドレッド、何でだ?」
「俺は知らん」
「だそうですよ。使えないな~、アドレッドは」
「じゃあ、お前は分かるのか?」
「んや、分かんねぇよ?」
ならお前が言うな。アドレッドはそう目線で行ってきた。
そりゃごもっともだな。
「あ、あれですか?」
ネフィル様がそっと指を指した。
その方向からは何者かが、もの凄い速さで走ってきているのが分かる。
何者かはもちろん竜王だ。
「そうです」
竜王は城まで走ってくると一番中心の塔まで飛び越えた。
どうやら中心の塔に侵入したらしい。
しばらくした後、竜王が塔から飛び降りてきた。
その腕には女の子が抱きかかえられている……?
その後からフェリスも出てきた。
フェリスは竜王を追い駆け走って行った。
「は?何であんなことになってるんだ?」
「竜王が人攫いか、一体何のつもりだ?」
「レイーヌ達が心配です。私は城の方へ行ってみます!」
ネフィル様はスッと立ち上がると城へ駆けて行った。
「あ、待ってください!」
俺らもネフィル様について行った。
ネフィル様は城の扉を叩かずに入って行った。
その後に俺も城に入って、アドレッドも続いた。
まあ、この際緊急事態だからいいだろう。
いい、よな?
「おおー、すげー」
城の広さに感動する暇もなく
ネフィル様はまるで自分の城のように
さっさと歩いてしまう。
慌ててネフィル様について行くと、
廊下の曲がり角で女の人に出会った。
「レイーヌ!無事だったのね!」
ネフィル様がレイーヌと呼んだ女の人は、
どうやらエルフのようで、ネフィル様に負けず劣らず綺麗だった。
「ネフィル!?何故ここに?」
「ついさっきここに来て、そしたら竜王の姿が見えて。
レイーヌやヒルクが心配になって…」
「そうなの…。心配してくれてありがとう。
来てくれて嬉しいけど、今からフェリスを追い駆けようって
ヒルクと話していたの。
ごめんなさい。戻って来るまで、この城で待っていてくれる?」
レイーヌという女性はネフィル様の両手を握った。
「なら、私も行きましょう。
レイーヌやヒルクだけだと心配だわ。
それに私はレイーヌとヒルクのお友達ですし、
お友達のお世話になっている人なら、
無関係とは言えない…」
「ネフィル様。それはダメです。
いくら宮廷魔法使いでも、実力があったとしても。
国はあなたを必要としています。
こうやって私たちがいるのも、
あなたの身に危険が及ぶことのないようにとのことです」
アドレッドが丁寧な言葉でネフィル様を止めている。
俺もアドレッドの言葉が正しいと言うように頷いた。
「そうよ、それに…。それだと、ネフィルが危険になってしまうかもしれないわ」
「いいえ、私にも手伝わせて!
そうね。どうにか陛下に相談してみるわ!
お嬢様を助けるように兵をいくらか貸して貰う。
ね?それぐらいなら、良いでしょう?」
ネフィル様はアドレッドの言葉を無視するように諦めない。
なんで偉い人というのはこうも我儘な方が多いのか…。
まあ、ネフィル様は綺麗だからな。
俺は許していいと思う。
「そんなことをして、ネフィルは大丈夫なの?
陛下に怒られたりしない?」
「大丈夫よ!なんとかしてみせるわ!」
ネフィル様はそういうと、相手の女性の手を強く握り、
俺の静止の声も聞かずにさっさと城の出口へ向かって行ってしまった。
俺らは慌てて後を追い駆けた。
こんな広い城の中、ネフィル様を見失えば見つけるのは困難。
それに、俺もアドレッドもこの城の中に入ったのは初めてだ。
城の構造なんて分かるはずもなく、
出口の場所も分からなくなってしまう。
「待ってください!ネフィル様!」
俺らは必死にネフィル様の後を追うのだった。




