エルフの国の危機
その日、何気ない1日になるはずだった。
エルフの国の姫として、勉学に励み稽古事にも取り組み、
稽古と稽古の間にはお菓子を食べてお話をして…。
有意義な日常を送るつもりだった。
だけど………。
そんな何気ない日常は急に消えてしまった。
私たちの国は人間たちに滅ぼされた。
私は王宮の自分の部屋にいて、勉学に励んでいた。
いつもの日常だったはず……。
それが、一日で崩れてしまった。
慌てて部屋にヒルクが入ってきて私に逃げるように言った。
私は何が起きているのか分からないまま、
ヒルクに手を引かれた。
ヒルクは私が小さい頃から私に仕えてくれた。
他の従者は私が王家の正当な後継者じゃないと分かった途端
手のひらを返すように冷たく接するようになった。
その頃の私はまだ幼く、心の中では何で?と戸惑うばかりだった。
何で皆、私から離れて行っちゃうの?
何で皆、私を避けるの?
何で皆、私と目を合わせてくれないの?
何で皆、私とお話してくれないの?
何で皆、私をいない人のように扱うの??
……私が悪い子だから?
私が魔法を使うことが出来ないから?
私が王家の力を使うことが出来ないから?
悲しかった。皆の変わってしまった態度が…。
でもヒルクは私に継承権がなくても
王家の力を使えなくても
ずっと仕えていてくれた。
ヒルクだけはずっと傍にいてくれた。
ヒルクは剣の扱いに優れていた。
誰もが後継者である弟につけるべきだと言った。
それでもヒルクは私だけに仕えてくれた。
ずっとずっと…。
ヒルクに連れ出されるように逃げた。
あんなにも明るい雰囲気で満ちていた廊下には、
まったく人の気配がせず、
あるのは温もりのない高価な物やもう息をしていない人。
生きているのか死んでいるのかも分からないぐらいに
怪我を負ってしまった人。
私はそれらを見続けることが出来なくて、目を閉じて走った。
後から、自分は姫なのだから国の現状を見ておくべきだったと、
後悔した。
城のあちこちから悲鳴や泣き声が聞こえる。
それは国中で起きていたことだった。
争う声や叫び声が聞こえる。
燃えている家もあった。
そんな中、必死に走った。
皆の態度は冷たかったけど、
決して両親から愛を貰えなかったわけじゃない。
大事に育てて貰った。
だから自分で何かをするような事なんてなくて…。
だから、私は体力なんて、日常生活で必要なくらいしか
なかったはずなのに。
その時の私は必死で、唯生きたいと。
この人の手を離さまいとそれだけを考えていた。
私の手を引きながら、前を走るヒルクに
この国に何が起きたのか訊いても、何も答えてくれなかった。
ただ、人間が襲ってきたことだけは分かった。
人間に隠れながら疲労困憊になるまで
なんとか森まで逃げてきて、
そこでヒルクに教えられた。
人間が国を襲ってきた事。
人間に捕まったらどうなるか。
そして、国王や王妃、弟がどうなったのか…。
私は泣いた、ヒルクの胸の中で。
ヒルクは何も言わずただ私の背中を擦ってくれた。
それが大丈夫だと、言ってくれているようで。
たった二人だけでもヒルクがいてくれたお蔭で
私は心細い中でも少し安心できた。
それからの生活は一変した。
国の近くにいては危険だとヒルクと歩いた。
慣れない森の道、時には川を渡ることもあった。
食べる物なんてロクになくって。
それでもヒルクは私のために動物を殺し、
高い木に登って木の実を取り。
自分の分よりも私の分を多くしてくれた。
自分は腹が減っていないから、と。
そんなの彼が私の為に言ってくれていると分かっていた。
でも、彼が私の為に言ってくれていることがとても嬉しくって…。
私は彼のその厚意に甘えてばかりだった。
何が起こるか分からない森で休まらない休息を取り、
歩き続けた。
時には亡き家族を思いながら泣き、眠った事もあった。
そんなある日、森を抜けていると大きな魔獣が現れた。
「姫、俺の後ろに」
いつだって私は守られてばっかり
あの時だって。
ヒルクは魔獣の重い攻撃を剣で返した。
「姫、こちらに」
「うん」
その隙にとヒルクは私の手を取り走り出した。
でも私は走っている途中で
木々の蔦に躓いてこけてしまった。
「姫!」
「ヒルク!」
もう、魔獣はすぐそこまで来ていた。
魔獣が大きく口を開けていた。
恐くなって私は咄嗟に目を瞑った。
死を感じた、悔しかった。
彼は私の為に頑張ってくれたのに、
こんな所で死んでしまうなんて…。
けれど、痛みは来なかった。
それにうう…。と唸る声がする。
目を開けたくはなかった。
とても嫌な予感しかしていなかったから…。
それでも勇気を振り絞って恐る恐る目を開けて見た風景は
とても苦しそうな顔をしていた彼。
何があったって心配させまいと笑顔だった彼。
そんな彼の苦しむ顔なんて初めて見た。
そして彼の足は真っ赤に染まり、
腕からも血が流れていた。
「ひ、め……」
「い、いやあああああぁぁぁ!ヒルク!!!」
「に、にげ…て。ひ、め……」
そこから何があったのか覚えていない。
気が付けば湖にいて、追ってきていた魔獣は倒されていた。
ヒルクは息も絶え絶えで、私に支えられないと動けないくらいの怪我だった。
そこで会った人間の女の子に
住む場所と食糧をくれる代わりに
忠誠を誓うことになった。
どうにかして彼も家に置いて貰えることになった。
でも、不思議な女の子だった。
とても小さな女の子の言葉とは思えないくらいに冷たい。
けれど、その裏には優しさが隠れてあるのが分かった。
私の部屋だと用意された部屋は
どう見てもベッドが大きく
従者に与えられた部屋ではない。
それに彼女のスキルによってステータスが上がったらしい。
私はヒルクをベッドに静かに寝かせて
女の子の言った魔法が使えるかもしれないと言う言葉に
半信半疑で魔法を使ってみた。
すると今まで使えなかったことが嘘のように
簡単に使うことが出来た。
これならば治癒魔法だって使えるかもしれない…。
そう思って早速ヒルクに治癒魔法を使ってみた。
しばらくして疲労感を覚えた。
手を止めてヒルクがどうなったか見てみた。
すると、ヒルクの怪我はすっかり消えていた。
「本当に、私。
魔法を使えるようになったのね……。
よかった。穏やかな顔をして眠っているわ」
ヒルクの怪我が治った安堵と今までずっと緊張していたからか、
急に眠気が襲ってきた。
そのまま私も眠った。
ヒルクの、彼の傍で…。




