誕生日プレゼント(城と食糧)
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また、目を開くとそこは森だった。
今までの空間はなんだったのか。
木が鬱蒼と生え、小鳥の囀りが聞こえてくる。
「今のは夢? 今も夢?」
突然の変わりように頭が追い付かず、
さっきまでの出来事について考えていると、
声のようなものが聞こえてきた。
『神から誕生日プレゼントが届きました。』
頭に直接響く声。男性のものとも女性のものとも判断できない。
機械の声じゃないけど、棒読みで文章を読んでいるような声。
「何?」
目の前に広がるウィンドウのようなものに『プレゼント』と書かれてある。
自然とその文字が消え、ボックスのようなものが出てきた。
ボックスの蓋が開いて中から文字が出てくる。
「……?『誕生日おめでとう』スキル?」
何? このおめでたい上に意味が分からないスキル。
説明とかないわけ?
そんなことを心の中で思っていると、
私の質問に答えるようにまた頭に声が響いてきた。
『このスキルは1年に1度。
誕生日の日にだけ発動することが出来るスキルです。
このスキルを使えば神が認め得る範囲で、
何でも3つ願いを叶えることが出来ます。』
神が認める範囲。
絶対死にたいって願っても叶えられないんだろうな。
だって、あの|神(女)は私の哀れな人生を見たいらしいし。
いっそ、この世界を丸ごと滅ぼして存在を消したいけど、
滅ぼしてと言っても叶えられない気がする。
神は簡単に死なない身体にすると言った。
あの神だったら、私が死んだ瞬間、蘇生でもさせられそう。
生きなきゃダメなのかな……?
私がグダグダと考えていると、また頭の中にあの声が聞こえた。
『早速、願いを叶えますか?』
そうか、ここが夢じゃなければ、
よりにもよって誕生日の日にこの世界に来てしまったのか。
正直今はいろんなことで頭がいっぱいいっぱいだ。
だから考えもせずにこんな願いを口に出したんだろう。
「死にたい」
死ねば何もかもが楽なのだ。
生きる必要がなく、何も考える必要がなく、
誰かと接する必要もなく、自分の心に惑わされることもなく……。
私がそう言うとしばらくして答えが返ってきた。
『神がその願いを認めませんでした。他の願いをどうぞ。』
やっぱり死なせてはくれないのね。
どんな願いだったらいいのか。
「刃物が欲しい」
もちろん、自害するためのものだ。
直接死ぬような願いが無理なら、刃物なら叶うかもしれない。
そう思ったけれど……。
『神がその願いを認めませんでした。他の願いをどうぞ。』
はぁ……。やっぱりダメみたいね。
私は神から、全然使えないクズスキルを貰ってしまったらしい。
まあ、私の願いが悪いのね。
「とりあえず、大きい家」
ここが夢ではないのなら、この世界で生きるということになる。
森にいるままじゃ嫌だから、家が欲しい。
折角何でも叶うなら、小さい家よりも大きい家がいいわ。
広い部屋でゆったりと過ごしたい。
この願いなら大丈夫よね?
もしこの願いが叶えられなかったら、
本当にクズスキルだわ。
『神がその願いを認めました。願いを叶えます。』
視野に入っている木々は全て消え、
そこには大きい家(?)が出来ていた。
私はその家を見て、その場でしばらく固まっていた。
「これ、家?」
そこには大層立派な西洋風の城が建っていた。
普通に建てようと思えば兆なんて軽々と超える規模だろう。
こんな大きいのは望んでないのに……。
「大きい家とは言ったけど」
城が欲しければ城と言うのに。
最も、欲しいわけじゃないけれど、
寧ろこんなスケールの家なんていらない。
『1つ目の願いを叶えました。2つ目の願いをどうぞ。』
私が少し放心している間にも、
頭の中に響く声は話を進めていく。
「一生分の食糧」
やっぱり次に大事なのは食べる物よね。
いちいち買い物とか面倒だし、一生分って言っておけば大丈夫でしょう。
それに、私は今何も持っていない。
お金も持っていなければ、お金になりそうな物も持っていない。
よく着ている丈の長いワンピース一枚で、この世界に来た。
最悪の異世界スタートだ。
食糧は出来れば好物のみがいい。
願った後に考えても、もう遅いけれど……。
『神がその願いを認めました。願いを叶えます。』
「出てこないけど?」
城は目の前に出てきたけど、食糧は出てこない。
実は一生分の食糧は分割で支払われます、とかないわよね。
それだと、食糧が間に合わない場合は困る。
それとも、2つ目からは対価がいるなんてことないわよね。
私はそんな話聞いてないわ。
これで、何か払え。なんて言われても絶対何も出さない。
まあ、私が差し出せるものなんて、自分の命ぐらいなものだけれど……。
『食糧庫の方に自動的に送られました。』
「そう」
どうやら対価はないらしい。
それにしても、自動とは便利なものだ。
めんどくさがりには嬉しい機能だわ。
城はいらないけれどね!
『2つ目の願いを叶えました。3つ目の願いをどうぞ。』
特に願いたいことはなくなった。
食べる物があるならお金もいらない。
贅沢をするつもりもないし、娯楽もいらない。
食べる時以外は寝るつもりだから。
「今はないわ」
『今日中であればあと1つ願いを叶えることが出来ます。』
頭に響く声が聞こえなくなった。
とりあえず、ここに突っ立ているわけにはいかないから、
大きい家(?)の中に入ってみることにした。
この家は丁度東西南北に4つの塔がある。
その4つの塔の真ん中に一番大きな5つ目の塔が立っている。
4つの塔はそれぞれ隣り合う塔と渡り廊下で繋がっている。
5つ目の塔は、他の4つの塔全てと渡り廊下で繋がっている。
5つ目の塔に行くときは4つの塔のどれかから行く必要があるみたいだ。
まったく、何処の国の王様なのか。
私は命を狙われるような事は、
一度だってしたことがないというのに。
何とも移動が面倒くさそうな家だ。
なんでこんな面倒くさい家を造ったんだか。神というやつは。
寧ろ、ワンルームお風呂トイレ付き、でいいと思う。
早速中を見物してみる。
1つの塔自体がとても大きいので、部屋の数が多すぎる。
恐らく、1つの塔に20ぐらいはあるだろう。
1つの塔の部屋全てを見るだけで、体力のない私は疲れる。
こんな数の部屋があったって、使い道がない上に掃除が面倒だ。
「そうか、掃除しなきゃいけないんだ。
私の家だから……」
面倒くさい。
どうせ、神が勝手にくれた人生だし。
適当に過ごしたんでいいよね?
適当に寝て、適当に食べて。
掃除しない、洗濯しない、料理もしない。
そう考えると、楽だ。
食糧庫はどこだろう?
広すぎてどこに何があるか分からない。
いっか。何も食べなきゃ死ぬんだから。
死んだらそれで。
死ににくい身体がどこまで死ににくいのか分からないから、
餓死で死ねるのか分からないけど……。
真ん中の塔の最上階。
そこにある他の部屋よりも明らかに広い部屋。
おそらく寝室だろう。
飾り気など全くなく、ただのキングサイズのベッドが置いてあるだけだ。
この大きすぎる家を3分の1程見終わったので疲れた。
体力のない私にしては頑張った。
私の身体はベッドに沈んだ。
そのまま瞼を閉じてベッドの感触を楽しむ。
いつの間にか私の意識は落ちていった。