三の五
伝手というものは侮りがたく、梵天丸たちへの教育の場が恐ろしい速さで出来上がっていく。
義は梵天丸たちの教育が始まる前に、宗乙と話す機会を設けた。
「東の方様、さような疑り深い目を拙僧に向けないでいただきたい」
「そのようなつもりはないのですが」
疑り深い目と言われても困る。ただ、なぜ今回は話を受けようとしたのか、気になっただけなのだ。
「さすが東の方様。奥州の鬼姫」
「こちらに嫁いでからとんと聞かぬ異名でしたわ」
「それは輝宗様のご尽力のたまものでしょうな」
「全くですわ」
輝宗相手が直球でものを言ってくるため、腹の探り合いをしていなかった。輝宗が率直な人物だというわけではない。互いに話し合うのが心地いいのだ。
「若君たちへのご挨拶も本日中にしたい身ですので」
さっさと用件を言えということだ。
「何のことはないのです。何故此度我が君の話を受けようと思われたのです?」
その言葉に宗乙は目を細めた。
「何のことはございませんよ。若君のお顔立ちが変わられた。以前の若君でしたら、『教わって当然』というおももちがあられた。今は、そうではない。教えを乞うという本当の意味を分かられた」
「あれらはまだ幼子。いかようにも変わりましょうぞ」
「輝宗様は場を整え過ぎたのです。天然痘という一つの要因が、梵天丸様も竺丸様もいいように変えられた。……目を失ったのは惜しいことですが」
しかし、目を失ってこそ得るものがあると宗乙は付け足した。
「それを教えるのが拙僧の役目と思うておりますれば」
「左様でしたか」
「東の方様の憂いが晴れましたのならば、拙僧としてもありがたいこと。では失礼いたします」
そう言って宗乙は辞した。廊下に立つ景綱に案内され梵天丸のところへ向かうのだろう。
義はあまり信心深いほうではない。祈りを捧げ、戦を起こすという行為が嫌いなのだ。
兄も夫も結局は戦を起こす。
起こさずに終わらせる方法として義は伊達家に嫁いだはずである。……それなのに、伊達家と最上家の間で時折小競り合いが起きる。
それすらも馬鹿馬鹿しいと思うのだった。