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鬼子母神  作者: 神無 乃愛
23/25

四の九


 この戦の処理が済んでから、義は出家し「|保春院殿花窓久栄尼大姉ほしゅんいんでんかそうきゅうえいにだいし」という戒名を宗乙に貰うことになった。そのまま寺に行こうかと思っていたのだが、政宗夫婦、特に愛によって引き留められることとなった。


 伊達にとっての負け戦が続く。こうなれば、政宗と愛の離縁話がどこからともなく湧いてくる。

 おそらくは相馬だ。それを抑えられぬ田村は要らぬのでは? そんな声までもが(ささや)かれるようになった。



「そろそろわたくしも孫が見たいのだが」

「お義母様が変な動きをしなければ」

 嫁と姑、二人の会話とは思えない。そう称したのは喜多である。


 義は「そろそろ不仲説を払拭してもいい頃合いだ」と言ったのに対して、愛は「義が嫁いびりをしているだの、義がいるから仲がこじれるという噂を流すのを止めれば考える」と返したのだ。

 昔は気弱に見えた愛も言うようになった。

「孫が見たいのは事実ですよ」

「あの方次第としか」

 これだけのことではにかむ愛は、未だ生娘である。何せ、政宗が寝所に行っていない。さすがに「寝所に通え」などと言えない。

「喜多、何かいい方法はないか?」

 義は思わず話を振った。


「……いっそ左門(さもん)を理由にしては如何(いかが)でしょうか」

「あのような騒ぎが起きぬようにとでも釘をさすか」

 左門は弥左衛門(やざえもん)といい、小十郎の長子だ。


 産まれた時の騒動は今でも忘れられない。


 小十郎の妻が弥左衛門を身籠った時、政宗は家督を継ぎ、輝宗を失ったばかり。そんな中の慶事だ。喜ばないはずもない。

 ……ただ一人、小十郎を除いて。


「主である政宗様にお子がいらっしゃらないのに、私が子を持つのはまかりならん」そう言って、子を殺そうとしたのである。

 慌てたのは政宗と愛だ。政宗は「その方の言い分もあろうが思いとどまってもらえないだろうか。子を殺害するようなことがあればその方を恨む」と書状までしたためた。最悪小十郎の妻を匿う心づもりをしていたのは愛で。そんな二人を「甘い」と称したのは、小十郎の姉であるはずの喜多だった。


 そんなこともあってか、政宗と愛は佐門をいたく可愛がっている。

「そういうわけじゃ。左門の弟妹に同じことが起きぬよう、精進いたせ」

「わ……分かりました」

 顔を真っ赤にして俯く愛は、己の忘れた初々しさというものを思い出させた。


左門(さもん)弥左衛門(やざえもん)……片倉小十郎景綱の長子、つまりは二代目片倉小十郎。始めは重綱(しげつな)だったのだが、江戸幕府三代目将軍・家光の嗣子(しし)家綱の(いみな)を避け重長と名前を改めた。こちらは、政宗と衆道の関係にあったのは事実で、大阪の陣の時に「お前以外に将は任せられないが、心配だ(意訳)と言って、口づけをしたという話が残っている。この方の継室(けいしつ)阿梅(おうめ)といい、真田信繁(さなだのぶしげ)(幸村のこと)の娘。別名「鬼の小十郎」

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