四の五
相馬に痛手を。それだけを主軸に置いた戦は、華々しさなどなくあっさりと終わった。
和睦には愛の父親がたったという。もしかしたら、それも織り込み済みなのかもしれない。勝ちで終わらせるための戦。そう思えた。
この戦を機に、政宗と輝宗には側室の話が方々から聞こえてきた。輝宗は「要らぬ」と答えたらしいが、政宗はそう、言えなかったという。
理由は、愛との不仲説だ。
そんな兄を不憫に思ったのか、竺丸が嫁取りをすると言い出した。
「其方元服すらしておらぬのに」
珍しく皆が揃い、腹芸の一つもなく過ごそうと思っていたのだが。
「だって、父上もそろそろだと」
「……うむ」
早くて翌年を想定していた輝宗と義は慌てた。
「私だって皆の役に立ちたいのです!」
その一言が決め手となり、竺丸は元服して名を改めた。名前は伊達小次郎政道と名乗ることになる。そして小次郎とともに、時宗丸も名を改める。藤五郎成実へと。
そんな折、義光から二人へ鷹狩の誘いが来た。小次郎は嫁取りのことがあるからと辞退し、政宗だけが行くことになった。
この時嬉しい話を、政宗は持ち帰ってきた。義光の嫡男の話――こちらは夫人に似て穏やかな性格だという――それから、正室である大崎夫人がもう一人女児を出産したと。
「従弟も大変喜んでいたのでおりました」
「左様か。めでたきことじゃ」
後日、義光から届いた文には、喜びが記されていた。
――鷹狩の最中だというのに、政宗が歌を詠み、祝福を
「恋しさは秋ぞまされる千とせ山の あこやの末に木隠れの月」
そしてその歌への返歌には
「恋しくば尋ね来よかし千年山 あこやの松に木隠るる月」
これを義光の正室、大崎夫人がいたく喜び、姫の名前を「千年」へと――
読んでいるだけで、笑みが増す。政宗にとっても、幼い従妹の誕生は嬉しかったに違いない。政宗の妹は産まれて間もなく他界したのだ。
――「千年」という名は不吉ゆえ、同じ山でも出羽の名山「御駒山」から名を採り、「お駒」とした――
「ふふっ。兄上もげんを担ぐのですね」
「お義母様?」
その文を共にいた愛に見せた。
「お義母様は祝いの連歌会へ行かれるのですか?」
愛が気になったのはそこらしい。
「わたくしが行く頃には終わっておりますわよ。祝いの品を送るに留めましょう」
「はい。この姫はわたくしにとっても義従妹になりますし」
この連歌会は人が集まらず中止となったというのを、これもまた義光からの便りで知ることとなった。
不吉な。そう思ったが、それこそげんを担ぐ兄たちを笑えない。
その考えを頭から追いやった。
これでおおよその主要人物が出揃いました。
あ、祝いの歌に関しては実話のようです。そして連歌会の話も。
参考は最上義光歴史館HP http://mogamiyoshiaki.jp/?p=log&l=103062
の駒姫の回です。
これ見る限り、義光と政宗ってそこまで不仲じゃないよね? ということから政宗と小次郎を行き来させてみました。
一か所、「義光」の名前が「輝宗」になっていました。やば(-_-;)