三の十
梵天丸と竺丸が山形と米沢を行き来するようになり、数年が経過した。
その間に、義は数人の子供を身籠ったものの、育つことはなかった。それを案じた家臣が妾を入れたが、その家臣の顔を立て数度渡ったきりだ。
このまま何事もなく、過ぎればいい。戦のない世は難しくとも、少ない世になればいい。そう思いながら、義は花を活けていた。
「東の方様、失礼いたします」
「宗乙殿、いかがなさいました?」
「お二人のことについて」
ふっと義は笑う。いいことも悪いことも、宗乙は包み隠さず報告に来る。今回来たということは、山形で受けた影響についても話すつもりなのだろう、
「京でも噂には聞いておりましたが、狐殿も多趣味な方でいらっしゃる」
「ほほほ。西方の方々に侮られぬためにも、我ら東人は色々と仕入れているのですよ」
和歌も茶も。領主やその細君であるならば、出来て当然。東人と侮られることがあってはならない。領民にまでそれを強要はしない。余裕があるならばさせる、それが慣わしだった。
「拙僧や輝宗様だけでは知識として偏りが出るかと思うておりましたが、狐殿も甥御様たちへ色々と教えているご様子」
どちらが次代の器か、それを見定めている気配があるという。
「……兄上が気にすることでもないかと思われますが」
「では、東の方様からご注意していただけますかな? 輝宗様は鷹揚に構えて、家臣の間に不信感が」
鷹揚すぎるのも問題がある、そう宗乙はため息をついた。
「物事をあしざまに捉えぬ、それが我が君のよきところではありますが」
「おや、ここで東の方様から惚気が聞けるとは」
二人笑う間にも、侍女たちが出入りをする。元々義は己の侍女にいる間者を放っておいている。情報操作にもってこいなのだ。
それに、聞かれて困る話はこのようなところでしない。
それ以前の問題で、間もなく梵天丸が元服し、初陣を果たして家督を譲り受けることになっている。輝宗曰く、「当主の座はもうこりごり」らしい。
それについては、竺丸も大変喜んでおり、家督相続での争いは起きないと思える。
今になって思うのは、あの時が一番穏やかだったと。
そしてこの年、天正五年、梵天丸は元服の儀を執り行った。
伊達家中興の祖、第九代当主、大膳太夫政宗にあやかり、藤次郎政宗へと名前を変える。
これにて第三部終了です。
多分次回あたりは愛姫出したい。この方も女傑です。