三の八
予告詐欺第二弾です。
籠の用意された場所まで行って、義は言葉を失うほどの驚きというものを味わうことになった。
「……ばれましたか」
悪戯が成功した顔で笑う梵天丸。いでたちは小姓さながらだ。
「な……なっ……」
「『父上を迎えに行く』だけでしょう? だったら私が一緒に行っても問題ないはずです」
危険だと言おうとした義に、梵天丸はあっさりと言い放った。
「万が一に備えて、綱元が供として来てくれると言ってくれました。それに山形は母上の故郷。一度でいいので行ってみたいと竺丸とも話しておりました」
なんと小賢しいことか。初めて義は梵天丸を邪険にした。
それに堪えることなく、それどころか当たり前のように義の乗る籠に入ってくるあたり、肝が据わりすぎた。
この戦乱の時期を乗り越えるにはこれくらいの度量は必要かもしれない。しかし、それは十にも満たない子供の役目ではない。
「母上が私の眼を腹に収めてくださったときに、私の謙虚さも一緒に持って行ってくれたようです」
「そのようなごたくは聞きとうないわ!!」
思わず怒鳴ってしまった。しかし外から漏れ聞こえる笑いに、義は己から力が抜けていった。
米沢から戦のある上山までは、いくつか山を越えていく必要がある。
その間に泣き言をいうようであれば、まだ可愛げがあった。
義や、山形からついてきた侍女から義守と義光の話を聞くあたりで、今回の騒動の本質をある程度知っているのだ。
「梵天丸よ……」
「いろんな方から話を聞くのも大事だと、母上も仰っていましたよね」
それはそれ、これはこれ。そう言えればどれくらい楽なのだろうか。くすくすと年配の侍女が笑みを漏らした。
「ほんに、梵天丸様は義様の幼き頃にそっくりでございますな」
「左様でございます。義光様とご一緒に動かれると、家臣一同困り果てたものです」
山形からついてきた侍女たちがそう言いだすと、喜多たち米沢から義についた侍女たちが興味津々といった顔で食らいついていた。
「余計なことを言うでないっ」
「ならば義様がお二人のことを梵天丸様に教えて差し上げればよろしいのです。つっけんどんになさるから、わたくし共が気を利かせてお話しているだけでございます」
何故、己に仕えるはずの侍女に恥ずかしい話を披露されるのか、解せぬ。そう思いつつも、母親が昔己を邪険にしたことがあったと思い出していた。
「東の方様、間もなくつきます」
綱元の声に、緊張が高まった。
義自身も戦場に向かうが、義守、義光、輝宗の三者を同時に止めねばならない。
輝宗のところには梵天丸が行き、義守のところには山形からついてきた侍女を。義光のところにも義守と同じでいいとして、問題は義が一番に顔を出す陣営はどこかということだったりする。
三者どれに顔を立てても、納得はすまい。だからといって己が出ないわけにもいかない。
「籠ならば少しの矢くらい大丈夫かの」
「姫様……」
「仕方あるまい。三者へ早馬を。わたくしと綱元に喜多で戦場の真ん中へ。二人はわたくしを戦場の真ん中に置いたら去れ」
周囲がざわめいた。
「わたくしは替えがきくが、他はきかぬ」
義の替わりは後妻でも貰えばいい。
「なら、私の替えもいますね。綱元、私も母上と一緒に籠に残る」
「梵天丸様! 東の方様!!」
「それに私がいると分かれば、父上は攻撃しないでしょうし、伯父上も母上がいると分かればしないでしょう。祖父上一人なら、皆が抑えられるのでは?」
幼いながら、きりっとした顔で梵天丸が言い放った。
誰も言い返すとこが出来ず、梵天丸と二人籠の中に残った。
梵天丸ェ
一応、義守と義光が戦を起こし、義守が輝宗に援軍を頼んだというのは史実の中にあります(六割くらいの確率だと思ってます)。そして、その戦を終わらせるために義姫が乗り込んでいったという話が……(こちらは不確か)。
で、そこに梵天丸が一緒に行っていたという事実はどこにもありません(完全なる創作です)。
いやね、プロットの時点ではついてこなかったのです。気が付いたら乗ってやがりました。
さっさと義姫が義光と輝宗に怒り狂ってほしいのですけど(ヲイ)




