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多目的少女!  作者: 遊楽
第一章 災厄の王子
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望んだのは誰だったのか




 どう説明したらいいのか分からなかった。


 ただとてつもなく嫌な気配がして。泣きたくなるような悲しい声を聞いた。



 ――ふぃぬら・さーが。われらの、おう。あぁ、やっとあえたと、いうのに。なんたるくつじょく。かみびとに、とらえられる、など



 途切れ途切れに聞こえてくる声がなんなのか、理解する前にそれ《・・》は現れた。


 昨日のふぃぬら・がらしぃなんて目じゃないほどの大きさ。ふさふさの真っ黒な毛並みに四つ足で立つそれの見た目は熊だけどそれにしたって大きい。二階建ての一軒家くらいある。


 怒り狂い唸り声をあげるそれは昨日のフィヌラ・ガラシィのように空腹故にわたしたちを襲っているわけではないらしかった。その証拠にその体には真っ白い鎖が巻き付き、ジュウジュウと嫌な音をたてながら体を焼きつくそうとしている。その痛みのあまり自制が効かなくなっているらしい。嫌な気配は明らかにその鎖が放つもの。触れてはいけない、歪んだチカラ。それが痛くて痛くて仕方ないのか、熊は身を捩って唸り声をあげる。



 「シュウさん! ダメ!」



 剣を抜き構えるシュウさんに叫ぶけど、訝しげに眉を寄せるだけで分かってもらえない。


 あんなに苦しそうにしているのに。あんなにきつく体に鎖が巻き付いているのに。シュウさんには見えないのか、表情一つ変えずにシュウさんは熊と対峙する。

あの子はわたしたちに害を与えない。


 根拠もなくそう思った。


 あの子には理性がある。ふぃぬら・がらしぃとは違うのだ。ただ痛みに暴れているだけ。傷つけちゃいけない。助けないと。あの鎖を切ってあげないと。

ダメだと叫びたいのにそれを伝える方法がなくて唇を噛み締めた。言葉が通じないことがこんなにもどかしいだなんて思ってもみなかった。



 「……****?」



 シュウさんの表情が変わったのはもがき苦しむその獣の後ろから真っ白い服に身を包んだ人が出てきたからだった。



 ――ふぃぬら・さーが! おにげ、ください。かみびとと、あらそうには、まだはやすぎ、



 響く声。比例して大きくなる呻き声。


 深緑のローブの下、着替えるものもなくそのままだった学校の制服のポケットがじんわりと熱くなった。



 「******、****」



 白い服の人物の言葉の意味は分からない。けれど、剣を構えるシュウさんの表情が険しくなったことから歓迎すべき相手ではないらしい。



 「******?」


 「……******。*******?」



 つい、とわたしの方に視線が向く。明らかに馬鹿にした視線。シュウさんとは違う、本気でわたしを見下した瞳。それに反応してガルル、と獣がその白い人物に牙を剥いた。



 「******? ****? *********。****」



 ――われらの、おうを、ぶじょくするか、かみびと!


 一歩こちらへ足を向ける白い人物に獣が怒りの声をあげた。獣にはその言葉が通じてるらしく、怒りに声を荒げた。けれどその白い服の下から伸びる鎖がじゃらんと鳴って、その声を苦しみに変えた。



 ――おのれ、おのれ……! こんなくさりなどなければ、こやつになどまけぬと、いうのにっ



 もがき苦しむ声が大きくなる。耐えられないように熊の前足が空を掻いた。



 「****!」



 シュウさんがあたしの前に体を滑り込ませる。チャキリと剣先が向くのはあたしでも獣にでもなく、嫌な笑みを浮かべる白い人。まるであたしを守るかのような背中に安心するどころか不安を感じるのは嫌な気配と悲しい声、それからだんだん熱を帯びる制服のポケットのせい。なにかが起こりそうな嫌な予感がつきまとう。

ゆっくり制服のポケットに手を忍ばせる。指先に生ぬるい温度が触れた。



 「****、******?」


 「****」


 「****? ****? ****、******?」



 蔑むような白い人物の声音にわたしの中で何かがキレた。



 ――ふぃぬら・さーが! おやめください!


 フィヌラ・サーガ!



 ポケットの中、握りしめたコインが火傷しそうなほど熱くなる。それでも手を離さなかった。握りしめ、ただ念じる。目の前、わたしたちを害するものを排除するのだ、と。



 ――よいのか、哀れな娘。汝の力はどんなに望めど魔の力。決して白とは交わらぬ。



 わたしが黒であの白い服の男が白だと言うのなら、白なんてまっぴらごめんだ。あんな色と交わるくらいなら、わたしは黒でかまわない。



 ――望むなら我の力、全てを汝に捧げよう。器が脆ければ壊れもしようが、汝ならば問題なかろう。どうする、娘。人であることを捨て、黒と交わることを望むか。



 ……わたしは。私は。わたくしは。


 「我、フィヌラ・サーガの後を継ぎ、魔の力を有するモノなり。我の名において、邪な全てを排除することを命じる」



 流れ出た言葉はわたしのものか、それとも。





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