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多目的少女!  作者: 遊楽
第一章 災厄の王子
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お買い物にいきましょう(1)




 天敵色男を横目で睨むわたし、わたしの隣疲れたようなため息をつく色男。辺りを飛び交うのは理解不能な言語。見慣れない町並みに、店らしきテントの外に並べられたこれまた見慣れない食べ物や雑貨たち。


 何が悲しくて、こんな嫌な男と異世界で初のお買い物をせねばならんのか! しかも二人揃ってお揃いのフードをかぶっているというこれ以上ないの怪しさで!


 事の始まりは三十分ほど前に遡る。






 「それで、シュウラ。慌てていたようだけど何かあったの?」



 険悪な雰囲気のまま自己紹介を終えたわたしたちにラディが呑気に首を傾げる。なんたらかんたら(長すぎて覚えていない)シュウラと言うらしい色男はそれにハッとしたように目を見開いて床に片膝をつき深く頭を垂れた。


 なんだなんだとシュウさん(面倒だから略した。年上っぽいし一応さん付け。いくら失礼な男に対してでも礼儀は大切だ、というお母さんの受け売り)を見ていて気付く。


 こう言っちゃなんだけど、みすぼらしいカッコのラディとは正反対にシュウさんのカッコは小綺麗だ。


 ヨーロッパ史に興味がなかったからよく分からないけどシュウさんのカッコはいわゆる騎士ってヤツなんじゃないだろうか。


 白いブレザーに金のボタン、右肩から斜めに下がって腰の辺りで纏められた色んな色の紐。左胸ポケットには見覚えのあるユニコーンの刺繍。あのコインと違って赤い瞳以外にもちゃんと色がついている。ユニコーンの毛並みは銀色。巻きつく薔薇は青色をしていた。綺麗ではあったけれど、苦しんでるようにしか見えないユニコーンはやっぱり悪趣味としか思えない。腰にはさっきまでわたしの首を狙っていた飾り気のない剣とゴテゴテして重そうなきらびやかな剣。あんなゴテゴテしたもんじゃ戦えるわけもないから、たぶん飾りみたいなもんなんだろうけど。重そうだなー、と思わず呟いてしまった。ズボンは細めでこれまた白。全身白尽くしで趣味が悪いことこの上ないだけど、たぶん服自体の素材の質はいいんだと思う。


 なんてぼんやり観察するわたしの前で頭を垂れたシュウさんが淡々とした声を出す。



 「ご報告申し上げます。昨晩遅く、カディアさまがお隠れになりました」


 「…………かでぃあ、さまが?」



 ラディが呆然とした顔で呟く。


 そのカディアさまとやらが何者なのかはサッパリだけど、どうやらお亡くなりになられたカディアさまはラディにとって大切な人だったらしい。ゆっくりと瞬きをして、そうと声を落とすラディにシュウさんがいたわしげな視線を向ける。



 「原因は不明。昨晩は<女神>の月も満月に近く、<女神>のご加護を受けるカディアさまに危険が及ぶなど考えられません。しかし、<災厄の者>の封印が弱まった気配もなかったとのこと。神殿は災厄の前触れだと騒ぎたてております」



 顔を上げずにシュウさんが淡々と言葉を紡ぐ。



 「異母とはいえ、弟君の崩御。心中お察しいたしますが、王宮から使者が寄越されるのも時間の問題。……決心をしていただかねばなりません」



 ……いろいろと聞こえちゃいけないフレーズが聞こえてきた。


 弟君? 王宮? 考えてみれば、偉い騎士さまっぽいシュウさんがラディに頭を下げてることもよく分からないし。シュウさんラディにさま付けしてるよね、そういえば。


 あれ、一体ラディって何者。



 「ナビュレーさまはなんと?」


 「国王陛下はあなたさまが生きていらっしゃることをご存知ありません。カディアさま以外直系の後継者がいないとあらば、アレイウスさまに王位を譲るおつもりではないかと。ロゼリアさまは姫君であらせられますし、直系の王族といえば現時点でアレイウスさましかいらっしゃいません。近臣たちは口を閉ざしたままですが、アレイウスさまの家臣たちの動きが活発化しています」



 頷くラディ。跪くシュウさん。


 ……ラディ? 君まさか、……まさかだったりするのかい?


 わたしはあり得ない予想にたらりと冷や汗を流す。


 いや、そりゃ昨日ラディに初めて会ったわけで詳しいことは知らないけど。いや、そんなまさか。ラディに限ってそんなこと。だってほら、異世界トリップしちゃったとはいえ王道とはかけはなれてたはずじゃないか!



 「それに対するおまえの見解は?」



 一人わたわたと焦るわたしには関係なく話は進んでいく。



 「恐れながら。アレイウスさまは学に秀でていらっしゃいますがそれだけのこと。剣を持つには優しすぎるかと。優しすぎる王では国は動きません。アレイウスさまでは国王は務まらないかと」


 「だからと言ってオレを連れ帰ってどうする? <災厄の者>の色を持つ魔の王子が王位につくなど神殿が黙っていないだろう」



 王子? 王子って言ったね、この人!!


 シリアスな雰囲気の中一人どうでもいいことに愕然とするわたし。

仕方ないじゃないか。話聞いててもこれっぽっちも理解できないんだから。<災厄の者>が何なのか知らないし、アレイウスさまもカディアさまもわたしの知り合いじゃない。だいたい異世界ライフ二日目のわたしに王位やらなんやらの話なんて難易度が高すぎる。



 「ですが、」


 「答えは否だ、シュウラ。オレは戻る気はない。魔の子はいらぬと捨てたのはヤツら。国の危機だろうがなんだろうが関係ない。オレはオレとして生きていく。今までのように」



 カッコよく締めくくったラディの後を継ぐようにわたしのお腹が空腹を知らせた。



シュウさんには空気を読めよと睨まれ、朝食を買いに行っておいで、とラディに生温かく見送られ。こうしてシュウさんと二人でお買い物に来なければならなかったというわけ。その服は目立つからとラディが何故かシュウさんとおそろいの深緑色のフード付きローブを貸してくれた。色がばれないようにちゃんとフードもかぶってね、と忠告付きで。ねえ、色云々より顔隠してる二人組の方が目立たない? ねえ、大丈夫?


 シュウさんはわたしと出かけるという展開に嫌な顔を隠そうともしなかった。女子高生とうふふなお出かけなんて、どんだけレアだと思ってんだこんちくしょう。


 ラディは大人の事情で町へは出て来れないらしい。王子だから? なのかどうかは知らないが、とにかくシュウさんと二人きり。最悪だ。何が最悪かって、まずこの人わたしを見る度に不審な視線を寄こす。警戒してるのはよく分かったからもうちょっと隠した方がいいと思う。スパイ相手にそんなに分かりやすいとたぶん相手も警戒してボロを出さないと思うよ。……と忠告する気はさらさらないけど。


 一番近い町、マーサ町。それほど大きい町ではないけれど朝食を買うだけならば不便はないらしい。ラディもシュウさんも顔立ちが外人さんっぽいし、シュウさんの着ている軍服らしきものもヨーロッパ系っぽいし、町もさぞかしヨーロッパ調なんだろう、と思っていたらそんなことはなかった。道は舗装もされていない砂利道で、建ち並ぶのは土埃を株って茶色くなったテントの数々。あの小学校の運動会とかでよく見るあれだ。店先に並ぶのは見覚えのないものばかりでそれが食べられるものなのか、食べられないものなのかさえ分からない。なんか用途の分からない乾燥した動物の耳とかは見なかったことにした方がいいんですか。尻尾とセットで売ってるんですけど。



 町へ出てきて何よりも問題だったのはまた言葉が伝わらなくなってしまったこと。おかげで何を言われているのか、サッパリ分からない。アイドンノー! と片言英語を叫んだら、シュウさんにすごく嫌そうな顔をされた。いや、別に日常的に叫んでる変な子じゃないんだよ? いやほんとに。必死で弁解しようとしたのに、やっぱりというかなんというかまた馬鹿を見る目で見られてしまった。ひどい。




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