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多目的少女!  作者: 遊楽
第一章 災厄の王子
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王子の決意と騎士の忠誠(S)



シュウさん視点。


今更ですが、シュウさんと聖騎士さまの頭文字が同じなので、サブタイがちょっぴりややこしいですね。





 「本当にいいのですか」



 真夜中。それまでなにやら考え込んでいたカズサが眠ってしまってからラディッシュさまに尋ねる。別にカズサに聞かれて困るような内容ではない。けれど、カズサは気にするだろうと俺にしては珍しく気をきかせたつもりだった。



 「カズを連れて行くこと? それともオレが城へ戻ること?」



 俺の意図を分かっているのか、ラディッシュさまがカズサにかけてあった意思通じの神力を解いてから首を傾げる。紅の瞳は俺を咎めるわけでも、試そうとするわけでもなく、ただ決意の色だけを乗せて俺に向けられていた。



 「…………」



 俺の質問はそのどちらも含んでいて答えられずに黙りこめば、ラディッシュさまは苦笑した。



 「どちらにせよ、いいんだよ。俺が決めたことだからね、シュウラにもカズサにも責任はない」


 「……そう、ですか」



 そう言われてしまえば何も言えない。城へカズサを連れて行くこともラディッシュさまが城へ戻られることもどちらも賛成できない。どちらも安全とは言い難いし、ラディッシュさまにとっていい選択とは思えない。けれどこの方が決めたというなら、騎士である俺に反論することはできない。


 俺の役目はラディッシュさまを守ることだ。それはこの方が生まれたときから決まっている、俺のただ一つの役目。ラディッシュさまが城へ戻るというのなら、俺は全力で守り通す以外できることはない。


 だが、ラディッシュさまの提案を聞いてカズサはひどく難しい顔をして考え込んでいた。頭の悪い娘ではない。どちらかといえば聡い娘だ。たぶん分かっていたんだろう。ラディッシュさまが城へ戻ることがどれだけ危険を伴うことなのか。そこに魔の色を持った少女を伴って帰ることがどれだけラディッシュさまの立場を悪くするか。全て気付いていたんだろう。……彼女はそのうえでどんな判断を下すのだろう。



 「あのね、シュウラ」



 納得していない俺に気付いたのだろう、ラディッシュさまが苦笑する。

よく、笑うようになったと思う。それが苦笑であれ、微笑であれ。カズサが来るまでのラディッシュさまには感情というものが欠落しているような気さえしていた。人と関わらない生活をしていれば当たり前だ。ここから出してもやれないくせに不憫だと、そう思いさえした。けれどカズサが来るようになってからラディッシュさまはよく笑うようになった。生きることに希望を見出しているように見えた。まるで義務のように食べ物を口にし、睡眠をとっていたラディッシュさまが自ら何かを決意するなんて、そんな日が来るとは思ってもいなかった。納得も賛成もできない、けれどその決意を尊重して差し上げたいと思うのは我ながら矛盾しているとは思うが。



 「カズサが異世界から来たっていうのはたぶん本当のことだと思うんだ」


 「……それは」



 それは信じ難いことではあったが、俺も本当のことだろうと思っていた。


 まるで通じない言葉、見たことのない服装、神力も魔物も知らない、無邪気すぎる少女。ターグルから送られた使い魔かとも考えた。ラディッシュさまやオレのように突然変異で生まれてしまった魔色の持ち主なのではないかとも考えた。だが使い魔にしてはあまりに無防備すぎたし、魔色のせいで迫害を受けていたにしてはあまりにも無邪気だった。今日、昼食を食べながら聞いたカズサの話にも矛盾点はないように思われた。学生だというカズサの話は大雑把なものではあったけど、話す様子もその内容もおかしなところはなかった。王がいないだとか、教育は無料で受けられるだとか、ずいぶんと馴染みのない政治体制ではあったが。……そして何より、彼女は『鉄の箱』を知っていた。


 それが演技なのでは、と考えないわけではない。聖騎士を前にしたときの彼女の演技力は大したものだった。異国の聖騎士に憧れる難民の少女。疑いようもなく別人の少女を演じてみせたのだから、日常でもなんの汚れも知らない無邪気な少女を装うことは可能だろう。ただこうしてラディッシュさまと生活を共にしているカズサの様子が演技だとはどうしても思えないのだ。


 そう思うこと自体もう騙されているのかもしれないが。



 「色の話をしたでしょう?」



 あまり広いとは言い難いベッドで小さく丸くなるカズサに目を向けてラディッシュさまは言う。


 銀色の髪を気にしないと言った昼間のカズサを思い出す。たった数日でラディッシュさまの信頼を得、そのうえ庇護さえも得てしまったおかしな少女。


 この世界で共通の色に対する認識。それがカズサにはまるでないようだった。ラディッシュさまの忌色も俺の死色も自分の魔色も、大したことではないと。そう笑ってみせた。たしかにこの世界に住む人間にはできないことだ。忌色に対する認識は薄れてきたとはいっても完全に受け入れられているわけではない。未だ魔力を持つ者の色だと信じている者だっている。顔色一つ変えずに気にしない、と笑える者はたぶんこの世界には少ない、というよりいないだろう。



 「気にしないってそう笑いかけられたのは初めてだったから。ラディ、なんてそんな愛称で呼ばれることがオレの人生であるとは思っていなかったから」



 嬉しかったのだと。噛みしめるようにラディッシュさまは言った。


 災厄の王子。そう呼ばれるマオセリン王国第二王子。ラディッシュさまに魔力がないことなど誰の目に見ても明らかであったのに疎まれ、生き延びる代わりに自由を奪われた可哀相な王子さま。ありがちなストーリーだ。まるでおとぎ話。けれど、その当事者であるラディッシュさまにとってはとても辛い現実だっただろう。当事者になりえない俺には想像することしかできないが、それでも。


 まだ幼いラディッシュさまをアレクセイさまの命でこの森まで連れてきたのは俺だ。幼いというよりまだ物心ついたばかりの小さな幼子だ。親元から離されるにしてはあまりに幼すぎたし、大人たちの都合で殺されるにもあまりに小さかった。まだ人の死も理解できないような、甘えたい盛りの子ども。バレぬようにと布に包んで抱き、馬を駆けさせながらその小ささにただ驚いた。よくこの小さな命を殺そうなどと考えられるものだと思った。


 毎朝、転送の術を使ってこの森の近くまで来てラディッシュさまの暮らす小さな小屋に食べ物や着る物を届ける。魔物に攫われて死んだとされた第二王子の生存を知るのは俺とアレクセイさまだけだったから、もっぱらその役目はオレに任せられた。王家に直属する第一騎士団では動きづらいからと、魔物討伐で城を空けることの多い第二騎士団に降格し、毎日幼いラディッシュさまに食べ物を届けた。忌色を持つとはいえ王家の血がラディッシュさまを病気の類からは守ってくれていたし、数日ごとにかけなおす守護の術がラディッシュさまを魔物から守った。


 自分の置かれている状況が理解できるであろう年齢になってから、外に出たがるラディッシュさまに一通りの説明をしなくてはならなかった。その頃にはもうアレクセイさまは南の領主になられて多忙であったから、やはりそれも俺の仕事だった。


 あなたは存在を消された王子だから外に出ることは叶わないのだと。そう告げた俺に幼い子どもは頷いた。まだ六歳になったかならないかの、少年とも呼べないような幼子はその紅の瞳を真っすぐにオレに向けて逸らさなかった。およそ子どもらしくない表情で。ありがとう、と。礼を口にしさえした。


 その色さえなかったならば。忌色は魔力を持つ者の色という伝説とも言えるような言い伝えさえなかったならばあたたかい寝床で十分な物を食べて綺麗な服を着て、目いっぱい愛されて生きて行くことが約束された子のはずだった。国王は、今は亡きエカチェリアさまをなによりも愛していらっしゃったからラディッシュさまは国王になれずとも陛下から愛され、臣下からも慕われるそんな王子であるはずだった。お母上がカーグであるから、と貴族たちには疎まれたかもしれないが国王陛下も異母兄であるカディアさまも気にしておられなかったから、ラディッシュさまは王族として安全な未来は約束されていただろう。次期国王となるカディアさまの補佐となり、国を支える。そんな将来が安易に想像できるような、そんな立場であったはずだった。

けれど、奪われた。自分ではどうしようもない、生まれ持った色のせいで、全て奪われてしまったのだ。抗う術も持たない小さな子どもであったときに、とても唐突に。



 「カズにそんなつもりはないんだろうけどね、俺は救われたんだよ」



 カズサを見つめながら穏やかな表情をして言うその言葉が少し、分かるような気がした。


 死色が怖くないのかと尋ねたオレにカズサはきょとんとして笑ってみせた。馴染みのない文化だから、と。そうなんでもないことのように言いきった。


 自分の色を嫌悪したことも、恨んだこともなかったけれど。たしかにその言葉に救われた気がした。どう抗っても逃れられない、生まれながらに持つ色。その色で将来の職業までが決まることはおかしなことなのだ、と彼女はそう言っているような気がして。死色など関係ないのだ、とほんの瞬きする一瞬の間、思った。大切なのは色なんかではないと、なぜかそう信じてもいいような気さえした。


 妹から忌み嫌われてはいたが、家族からそれほど冷遇を受けていたわけでもない俺でさえそう感じたのだ。その色のせいだけでこんな生活を強いられているラディッシュさまは余計にそう感じたのだろう。



 「だから、今度はオレが救ってあげたいんだ。人の死だとか憎悪だとかに触れたこともないようなカズを守ってあげたいんだよ。」



 人の汚れを知らないとでもいうかのような無邪気な笑顔。あたたかな明日を信じきった幸せな娘。それなのに彼女はあの日、いとも簡単に人を殺し、あまつさえ笑ってみせた。あのときは恐ろしいと思ったのだ。ラディッシュさまの近くにいるにはあまりに危険だと。でもよく考えてみればオレたちだってさして変わらない。カズサのあれは少々過剰な自己防衛ではあったが、俺たちだって自分たちが殺されないために、自分たちの生活が脅かされないために魔物を殺す。首を切ろうが、心臓を一突きしようが、そこに罪悪感はない。感謝さえされる。その対象が魔物でなく神人であったというだけで、カズサは自分の身を守っただけなのだ。それを悪いことだと責めることは、たぶんこの世界の誰にもできない。



 「あのね、シュウラ。全部オレのエゴなんだ。ただオレがカズにラディと変わらずに呼んでもらいたいだけ。それ以上でもそれ以下でもない。ほんとうに、ただそれだけなんだよ」



 彼女は泣くのだろうか。


 ラディッシュさまと同じように、すよすよと眠るカズサに視線を向けふと考える。


 たとえばあの日の惨劇を起こしたのが自分だと思い出したとして。たとえばまた同じ状況に陥ったとき、躊躇いもなく人を殺してしまったとして。彼女は泣くのだろうか。俺たちと違い人の死さえ遠い場所にあるようなあの少女は笑わなくなってしまうのだろうか。良くも悪くも優しい少女だ。それがたとえ自分の身を守るためだったとしてもカズサは納得しないだろう。自分を責めて、そうして心を閉ざしてしまうのだろうか。


『シュウさん!』


 俺が自分を警戒していると分かっているはずなのに、底抜けに明るく拍子抜けするほど呑気に話しかけてきた少女。その笑顔がなくなってしまうのは、たしかに惜しい気がして。



 「仕方ないですね」

 

 「シュウラ?」


 「……あの娘が目の届かない場所にいる方がよっぽど危険ですから」



 そんな理由をこじつけた。






シュウさんが、デレ、た……?



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