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多目的少女!  作者: 遊楽
第一章 災厄の王子
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大事なことはあっさりと(2)



 いやいやいやいやいや。王城から使いの人って。それあれじゃないんですか、王さまになってください的なそういうお話だったんじゃないんですか。それをまるで天気を告げるようにあっさりと。あんまり軽く言われ過ぎて思わず「あ、そうなんだー」って返しちゃったよ。



 「ラディッシュさま! なぜそのような重要なことを、」


 「いやカズたちが帰ってきたら言おうと思ってたんだけどすっかり忘れててさ」



 忘れてたってあーた。忘れられるような軽いことじゃないだろうに!


 ラディは相変わらずなんでもなさそうに笑いながらシュウさんに手紙を手渡す。なにやら上質そうな紙は王城からのお手紙らしい。ひょいと覗きこんだそこにはミミズがのたうち回ったような字が書きつづられていた。わたしが読める単語はおはようとごめんなさいとありがとうだけだ。もちろん王位継承的文章は読めない。


 読めないよ、とシュウさんの顔を見上げたら疲れ切った溜息をついて読み上げてくれた。


 差出人はアレイウスさま。正式な書簡というわけではないらしく王家の印がないとかなんとかシュウさんが言っていたけど、んなことはどうでもいい。シュウさんが読み上げてくれた言葉を簡単にまとめると王位継承権を譲りたいから城へ帰ってきなよってことらしい。了承するなら使者に手紙を持たせて帰せ、と。それによって正式な書簡を送ってくれるらしい。



 「アレイウスさまがついに動き出したみたいだね。王城に戻ってこないか、という話だった」



 ラディの口ぶりはあくまで軽い。今日の夕飯カレーだってよ、みたいな調子だ。



 「帰る、という旨を伝えたよ」



 そしてそんな重大事項もものすごく軽く告げられる。ほんとはシチューがよかったな、みたいな軽さだ。うん、シチューはおいしいけども。やっぱりカリフラワーはいらないと思う……ってそうじゃない、そういう話じゃなくて!



 「は?」



 帰るって言った? 王城に帰るつもりなの? わざわざ陰謀渦巻く王城に? 純粋無垢なラディが? ……いやいやいやいや。シュウさんじゃないけど、お勧めしないよそれは。


 正気かと見つめるけど、ラディの笑顔は揺らがない。もうとっくに心は決めていたみたいだった。


 でもそんな重要なこと誰にも相談せずに決めてしまってよかったんだろうか。わたしは別にただの居候みたいなものだし、国の事情に詳しいわけでもないから相談されても困ってしまうけど。でもせめてシュウさんと相談しなくてよかったんだろうか。シュウさんは言い方がキツイこともあったけど、ラディはとても心配しているみたいだったのに。


 ちらりとシュウさんを見上げるけど、その顔に表情は浮かんでいない。ラディが戻ると聞いて驚いている様子もない。じっとその奥に潜む感情を読み取ろうと見つめていたら、シュウさんがちらりとわたしに視線を向けた。それに含まれた意味を読み取れず首を傾げた。



 「……お戻りに、なるのですね」



 手紙を丁寧にテーブルに置いてシュウさんが小さく尋ねる。やっぱりその声音からは感情を読み取れない。


 ラディはお飾りの王さまになる可能性が多いって話を聞いたばかりだ。ラディ至上主義のシュウさんは反対するだろうと思っていたんだけどそんな様子はない。そりゃ魔物の溢れるこの森で暮らすよりも安全になるかもしれないけど、それでも<女神>の加護の弱いラディの暗殺の危機は増えるだろうし、なにより信仰が薄れているとはいえ忌色を持つ王子の帰還を歓迎する人は少ないだろう。シュウさんがわざわざラディをそんな状況に放り込むとは思えないんだけど。


 ラディもそんなことは分かっているだろうに、いつもの爽やかな笑顔を見せる。



 「そのつもりだよ。聖騎士に会ったってことは神殿もオレを探しているんだろう? どうせ見つかるのも時間の問題だ。神殿に先回りされる前に王城へ行く」



 たしかに聖騎士さまはラディを探していたけど、まるで手掛かりは掴めていないようだった。ラディが生きているってことすら確信が持てていなかったようにも思う。でもイーザン町にいたってことはそのうちマーサ町に来る可能性も高い。不本意なことにマーサ町でローブを被った健気兄妹はちょっとした有名人だ。その噂とシュウさんを結びつけられたらすぐにバレてしまうだろう。



 「……はっきり申し上げますと、」



 シュウさんは静かに言葉を紡ぐ。ラディを止めようとしているというより、ただ事実を告げている感じだった。



 「今王城はアレイウスさま派が牛耳っています。カディアさまがお亡くなりになられたショックで母君であらせられるアンジェリアさまはウーブで療養中。カディアさま派である者たちもあまり強く動けない状態です」



 そりゃあね、なんてったって推してるのが生まれたばかりの子どもだしね。しかも後ろ盾になりうるカディアさまのお母さまがいないんじゃ動くに動けないんだろう。



 「その中、ラディッシュさまが帰られても状況はほとんど変わらないと思います。アレイウスさまは国王の座につくことを拒否しておられますが、だからといってすぐにラディッシュさまに王位継承権が移ることはありえないでしょう。それがたとえアレイウスさまのご希望だったとしてもです。周囲が盛り上がりすぎていてもはや収拾のつけられる状態ではない」


 「うん。だからアレイウスさまは使いを送ってきたんだろうね」



 ラディは分かりきったことのように頷く。



 「それでも、アレイウスさまが王位継承権を放棄なさればラディッシュさまが次期国王となるしかありません。……たぶんそれは避けられない。ラディッシュさまがお戻りになり次第アレイウスさまは準備を始められるでしょう。少なくとも一年以内に王位継承権が移ることになります」


 「分かっているよ。オレは国王になるために戻るんだ」


 「……お気持ちを変えられる気はないのですね」


 「ないよ。シュウラ、前にも言っただろう? オレはお飾りにでもなんでもなってやる。たぶんそれが一番丸く収まる方法だろうからね」



 なにやら難しい話になってきてわたしは入っていけない。ていうか、これ国の機密事項みたいなもんじゃないの? こんな得体の知れない異世界人に聞かせてもいい話じゃないよね。



 「ラディッシュさまがそれでいいとおっしゃるなら止める気はありません。……賛成は致しかねますが、魔物の蔓延るここにいるよりまだ王城の方が安全とも言えるでしょう」


 「……ごめん」



 少し申し訳なさそうなラディの謝罪にシュウさんはゆっくり首を振った。



 「国王陛下となられるお方がわたしに謝られる必要はありません。……わたしはあなたの騎士なのですから」



 床に膝をつき忠誠を示すシュウさんにラディは困ったように笑った。



 「シュウラ、わざわざオレに忠誠を誓う必要はないんだよ? 忌色の王子についたとなれば風当たりもキツくなるだろう?」


 「ご心配には及びません。どうせフィート・タユの持つ死の王と蔑まれているので今さらそこに侮蔑の視線が混ざったところで大した変わりはありませんから」


 「……あ」



 言われて思い出す。


 そういえば聖騎士さまが教えてくれた。フィート・タユ、簡単に言えば喪服の色だ。日本でいう黒色のこと。この世界では深緑色のことをいうのだと聞いたばかりだ。しかも色に関する規制が厳しいこの国では忌色と同じように敬遠される色だ。人の死を象徴する色だから。


 シュウさんの姿をじっくり眺める。


 濃い緑の瞳に髪。色気と整った顔にばかり意識がいっていたけど言われてみればフィート・タユを持っている。


 あまりに馴染みのない色に関する差別だけど、たぶんフィート・タユも近親者が亡くなったという理由で身につけているのは別に問題ないんだろう。その証拠にフィート・タユのローブに身を包んだわたしとシュウさんを見かけても町の人は親切にしてくれた。それどころか可哀相な兄妹としていろいろ気にかけてくれていた。でも生まれた時から持つ色がフィート・タユだったことは両親を恐怖させたんじゃないだろうか、生まれながらに死の色を持つ子ども。色による規制が厳しいここでは不吉だと罵られていたとしてもおかしくない。


 いや、待てよ。ということはだ。



 「……なんだ、みんな仲間なんだね」


 「うん?」



 思わずぽつりと零した言葉にラディが首を傾げる。シュウさんはただ無機質な目をわたしに向けた。



 「だってラディは忌色の王子でしょ? シュウさんは死色の騎士、んでわたしは魔色の異世界人!」



 すごいね、三人そろって嫌われる色大集合だね! 



 「……おかしな娘だとは思っていましたが、」



 興奮するわたしに向けられたシュウさんの言葉は多分に呆れを含んでいた。



 「わたしを怖がらないんですか? 家族にさえ恐怖されるこの色を」


 「……あのですね、シュウさん。わたしは異世界からきたわけです。わたしの国では死色とやらは黒色なんですよ。でもだからといってその色を身につけることが禁止されているわけではありません。色に関する規制なんてほとんどないんですから」



 あっても結婚式で白を着ちゃいけないとか、お葬式は黒だとかその程度だ。普段の生活でどんな色を身につけていようととやかく言われることはない。



 「郷に入っては郷に従え、とはいいますがわたしその色に関することだけは馴染める気がしません。はっきり言ってしまえば白だって普通に身につける色ですし、青も金も別に神聖であるという意識はないんです。だから、シュウさんが死色だろうとなかろうと別に嫌ったりしません。わたしにとっては別に死色でもなんでもないわけですし」



 だいたいその法則でいうとわたし自分の色が魔の色だって認めることになるじゃないか! 冗談じゃない、これはれっきとした日本人の髪色だぞ! イーリとかそんなの関係ないぞ!


 「……本当におかしな人ですね」


 「本当に失礼な人ですね!」



 まだ年齢のこと、根に持ってるからね! 一生忘れてやらないからね! 死色を嫌がらないのとこれはまた別問題だから!



 「あ、そうだラディ」



 あまり睨みつけていても後からの報復が怖いのでさりげなく話題のすり替えを目論む。


 いいんだ、あの恨みはネチネチと長期にわたって呪い続けてやるんだから! 浅く長く呪うから!



 「ラディがお城に戻るってこと自体に反対はしないんだけどさ。できればわたしの生活基盤が安定するまで待ってほしいなーなんて」


 「え?」



 ラディがぱちくりとまばたきをする。くそう、美形はどんな表情でも様になるなあ。



 「いや、まだ言葉も分かららないし通貨単位もよく分からないし。せめて仕事が見つかるまででもいいからお世話してくれると嬉しいなと思って。いや、図々しいことは分かってるよ?」



 さすがにこの状態でバイバイとなるとわたし生きていけない気がする。気がするというか、生きていけない。結構切実なお願いだからできれば断らないでほしい、なんて。ほんと図々しいことは分かってるんだけど。



 「……カズ」


 「うん?」


 「ついてくる気は、ない?」


 「え?」



 ついてくる? ついてくるってお城に? わたしが?



 「……いやいやいやいや」



 それはもう素晴らしいまでのお約束展開だと思うけど、小説ほど現実がうまくいかないことは分かってる。明らかにこんな素姓の分からない女お城にいれてもらえないよね。



 「五日間、寝込んでいたことがあったでしょう?」



 ぷるぷると首を振るわたしにラディが真剣な顔で言う。……なんだか突然真面目な雰囲気だ。話題は逸れたみたいだけど、なんか別の深刻な話題にいきついてしまったらしい。



 「うん。あ、それはもう平気だよ? わたし丈夫なことだけが取り柄だし」



 それを気にしてるなら、と言えばラディは首を振る。



 「そうじゃなくて。カズには魔力があるって話したことあるよね?」



 それはまあ、うん。一度ちらりと聞いたことはある。でも話の感じじゃ人間が持っているはずのない力っぽかったし、あんまり考えないようにしていたんだけど。……うん、そうやって逃げるのはわたしの悪いくせだ。



 「人間が持つのは通常神力と呼ばれる力だ。大きさの差こそあれみんなが持っている力」



 神力っていうのは人の命の源のようなものでそれがなければ生きて行くことができないらしい。神力は普通に生きていれば使っても補充されていくし、生きて行くうえで不便があるわけではない。特に神力が強い人が神殿に入れるって聞いたことがある。神力が強い人はたいてい貴族でみんな色素が薄いらしい。だから薄い色ほど偉い人って言う風潮が強まったんだとか。



 「でもカズには神力の気配が感じ取れない。多かれ少なかれ持っている神力は感じ取れるはずなのに、カズにはそれがないんだ。代わりに」



 そこでラディは言葉を切った。紅の瞳がじっとわたしを見つめている。それは恐れているというより、どちらかといえば心配しているようでほんの少し安心する。



 「膨大な量の魔力を持っている」


 「魔力は魔物が持つ力です。災いをもたらす力とも言われています。魔力も同じように魔物の命の源と言われていますが、穢れを嫌う風習のあるこの国ではほとんど研究されていないためその実態は謎です。他国では研究しようという試みはあるそうですが、なにせ魔物の近くにいれば神力を穢されますからね。好き好んで命を危険にさらすバカは少ないでしょう。魔力についてさほど詳しいことは誰も分かっていない」



 シュウさんが説明を補足する。シュウさんの顔にも恐怖も嫌悪も伺えない。ただやっぱり警戒はされているようだった。


 わたしは現代を生きる日本人だ。魔法なんておとぎ話の中でしかない世界で生きていたわたしが魔力なんてもの持っているはずないし、ありえないと思う。でもラディの顔は真剣そのものだった。



 「カズが寝込んでいたのは魔力が暴走していたからだ。安定しない魔力が溢れてきていた。それはとても危険な状態なんだよ。一歩間違えば待っているのは死だ」



 ねぇ、カズとラディは続けた。紅の瞳に依然恐怖は見られない。ただひたすらに心配する色を見せていた。



 「王城にいけばここよりずっといい施設で魔力を安定させ、使いこなす術を身につけられるよ。資料は決して多くないけど、こんな場所にいるより数段マシだ。オレも力になる。ねぇ、お願い。一緒に城へ行こう?」



 この場合頼むのはわたしの方だと思うのに。ラディはきゅっと眉を寄せて、呆然とするわたしに頼みこんだ。



 ああ、そうか。



 「……ごめん、少し考えさせて」



 この純粋すぎる少年は、ただわたしに生き抜く術を身につけさせるためだけに、自ら傀儡の王になろうとしているんだ。






ちょっぴりシリアスに、なってきたような……。このメンバーなので、長くは続きません、たぶん。



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