大事なことはあっさりと(1)
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帰りはなんのトラブルもなく無事帰宅を果たした。マーサ町は辺境の地すぎてないらしんだけど、イーザン町には転送屋さんがあってマーサ町までの転送術を展開させてくれた。
転送屋さんは大きな街になら普通にあるものらしい。あまりお金もかからないから庶民も使えて移動に便利なんだとか。詳しい仕組みは不明だけど、なんか先に何時に着きますよーと目的地の転送屋さんに知らせさえすれば行き来が可能だとかなんだとか。転送屋さんの転送術は少し特殊で、行ったことのない場所でも転送屋さんから転送屋さんに行くだけなら送れるとかなんとか。ラディがやってくれた転送術(いやわたしに関しては迷子にされかけたけど)とは少し違うらしくてシュウさんが簡単に説明してくれたけどわたしにはさっぱりだった。日本人に魔法的な話されてもサッパリです。
ここでも珍しさにキョロキョロするあたしを窘めるシュウさんの図ができあがり。転送屋さんにいた人たちからあたたかい視線を送られたことは言うまでもない。ちゃんと列に並んで転送される順番を待ってたんだけどみんな順番譲ってくれるんだもん。うー、どこに行っても健気な兄妹設定になってるよー。
マーサ町からは歩いてラディの待つおうちまで帰り着き。とりあえず無事イーザン町に辿りつけたことと、聖騎士であるセルヴァさんに会ったことをご報告。無事にイーザンに着けてよかったねえ、となんとも呑気なことを言って笑うラディに引きつり笑いを返しておいた。今度はもう少し注意深く送り出してくれると嬉しいです、はい。
「聖騎士に会ったの?」
「会ったよ。なんていうか、いじめっ子なかおりがした」
昔懐かしきいじめっ子のかおりだよ。あれは小学生レベルだった。
「いじめっ子……? オレは会ったことがないから分からないけど、聖騎士さまってシュウラと同い年じゃなかったっけ?」
「そうですね、年齢など聞いたこともありませんが学院では同学年でしたし」
シュウさんは本当に興味がなさそうに適当に頷いて、いそいそと買ってきたわたしの服をたたんでいる。……この人、世話好きなんだろうか。色気たっぷりの顔に似合わず甲斐甲斐しい。とか考えているわたしに自分の服くらい自分でたたもうという発想はないんだけども。いや、これでもね一回自分でやりますってたたんだんだよ? でも几帳面なシュウさんはわたしの雑なやり方がお気に召さなかったらしい。たたむ先からたたみ直していくから諦めた。細かい男はモテないんだぞー。
「あれ、ラディ会ったことないの?」
まるで聖騎士さまのことを知らないようなラディの口振りに首を傾げる。てっきり知り合いなんだと思ってた。なんかラディのこと探してたし。あ、でもあれは神殿の偉い人からの命令なのか。
「そりゃあね。タキハ・カミュ・セルヴァが聖騎士になったのは八年前だし。八年前にはもうオレはここにいたからね。魔の森にはよほどのことがない限り聖騎士は近付かないし、オレは会ったことないよ」
「あ、そっか」
そういえばセルヴァさんは八年前に聖騎士さまになったんだっけ。まだ若い感じだったけど一体いくつのときに聖騎士になったんだろう…………え、なんだって、シュウさんと同い年?
「……シュウさんいくつですか」
「三十になりますね」
「あ、そうですか。…………は?」
さんじゅう? え、こっちの世界ってもしかして歳の数え方違う?
上から下までシュウさんを眺めてみる。サラサラした深緑の髪、白いつやつやした肌。加齢臭とかお腹まわりの心配とかと縁がなさそう。あえて言うなら目もとの泣きぼくろが大人の色気を添えてるけど、三十?
「三十です。何か?」
「いえ、別に」
若づくりなんですね、とか口が裂けても言えないです。色気だけなら大人の雰囲気を醸し出してるけど、もう少し若いと思ってた。余計なことは言わないぞ、この人全てを嫌味で返してきそうだもん。
「ラディはいくつ?」
「オレは十六」
「あ、同い年なんだね」
「……え?」
ラディが動きを止めてゆっくりと瞬き。じぃっと居心地が悪くなるほどわたしを見つめてから、こてんと可愛らしく首を傾げた。
あ、嫌な予感。
「嘘でしょ?」
疑いの余地もなく嘘だと言いきってくださった。
「失礼な人たちだな!」
シュウさんといいラディといい……! 嘘ってなんだ嘘って! これでも年相応だし!
「十六歳です!」
「……十歳くらいだと思ってたよ」
……それって小学生じゃない? わたし高校生だよ。さすがに小学生はないんじゃない?
わたしがむっと口を尖らせたからかラディが慌てて話題を変えた。
「聖騎士がなんなのかシュウラに聞いた?」
「……一応は」
むすりとしながらも聖騎士さまについては気になることだったからしかたないので機嫌を直す。
「聖剣を抜いた騎士なんでしょう?」
「そう、神殿に付属する白薔薇騎士団団長でもある」
「神殿の騎士? 神殿を守ってるの?」
「名目上そういうことになっていますが白薔薇に実質仕事はありません」
わたしの疑問にシュウさんが口を開く。
「魔物討伐は穢れとされていますから白薔薇が出動することはありませんし、人の死に触れることを穢れとしているので戦時も聖なる騎士が戦地へ向かう事はまずありません。彼らは国民の信仰を集めるためだけの飾りといってもいいでしょう」
相変わらずはっきり言う人だ。もうちょっとやわらかい言い方はできないんだろうか。飾りって。それもはや悪口じゃないか。
ラディもあまりに歯にもの着せぬ言い方に苦笑している。ほんとなの? と視線だけで尋ねると困った顔をしながらもラディは頷いた。
「まあ、あながち間違いでもないんだ。白薔薇騎士団のすることといえば祭典時の警備程度だからね」
「じゃあ聖剣って?」
イメージ的には魔王を斬れる的なね。こうキラキラしたイメージあるよ。悪者をばっさばっさイケる感じ。でもこの感じだと違うっぽい。
「聖剣はそのまま聖なる剣だ。穢れを寄せ付けないとか、清めるだとか言われてる」
……虫よけスプレー的な効果の剣でした。なんだそれ! なんかつまんない!
言っても仕方のないことを思いながらふくれるわたしにかまわず説明は続く。
「聖剣は<統>の女神が<最後のヒト>に渡した剣なんだ」
「えぇっと<最後のヒト>ってあの<愛>の女神と子どもつくったっていう?」
「うん。<愛>の女神は<最後のヒト>の子を産んだあとすぐにその力を奪われた。嘆き悲しむ<最後のヒト>に<統>の女神が剣を渡しそれで国をつくり治めるように言ったと言われている。その剣が聖剣だね」
つまりもういない女のことは忘れて国でもつくっておきなさいと。別の幸せを見つけなさいってわけだ。なんだか<統>の女神のイメージが悪女になっていくんだけど、うん黙っておこう。
「でも<最後のヒト>ってマオセリンの王族の先祖なんでしょ? どうして聖剣を抜けるのがマオセリンの王族じゃないの?」
「<愛>の女神の嫉妬だと言われているね」
「……へ?」
嫉妬? ジェラシー?
あんまりな理由に一瞬思考が止まった。きょとんとしたわたしにシユウさんが説明を付け足してくれる。
「聖剣を貰ってもまだ悲しみにくれていた<最後のヒト>を哀れに思った<統>の女神が<最後のヒト>の元へ聖の乙女を遣わしました」
あれ、どんどん神話が昼ドラっぽくなっていくよ? いけない三角関係に発展していく気がするよ?
「聖の乙女は金の髪に青い瞳を持つそれは美しい娘だったと伝わっています。聖の乙女は悲しみにくれる<最後のヒト>を励まし、その優しさに触れた<最後のヒト>は次第に<愛>の女神のことを忘れていきました」
うわー、ありがちといえばありがちな展開。聖の乙女のくせにやることが悲しみにつけいることっていうのもいかがなもんか。そしてすぐに傾いちゃう<最後のヒト>もいかがなもんか。
「それに怒ったのは<愛>の女神です。<統>の女神が特別な力を秘めた聖剣に呪いをかけ<最後のヒト>に連なる者には決して抜けぬようにしてしまった」
「あれ、〈愛〉の女神って心を奪われたんじゃなかったでしたっけ?」
たしかもう二度と人は愛せないとかなんとか。心がないなら嫉妬も生まれなくない? しかも力を失った人が呪いをかけるってかなり無理がない?
「彼女の記憶の暴走とされています」
わたしの疑問はなんともこじつけっぽい理由で片付けられた。
女神に聖霊に記憶に、まったく覚えることが多いなあ。
「記憶?」
「女神は世界の創造主です。その記憶は世界に刻まれる。〈愛〉の女神の愛情は深かった。世界に刻まれた愛の記憶が暴走し聖剣にそのような呪いをかけたのだと言われています」
どろどろだなあ。普通こういう類の話ってもっと美化されてるものだろうに。美化された感じがまったくしないよ。それとも〈愛〉の女神は禁忌を犯した神様だから美化する必要もないとか? でも一応王族のご先祖さまみたいなもんなんだよねぇ?
「つまり聖剣は王族には絶対に抜けないってことですか?」
それも女神さまの嫉妬が原因で。聖剣のくせになんか俗世っぽいなあ。
「そういうことになりますね」
「で、聖剣が人を選ぶ基準は?」
「さあ?」
「さあって」
そこは重要じゃないの? ある日気付いたら突然庶民が聖騎士になんてこともありえちゃうの?
わたしの疑問にシュウさんはまるで興味がないみたいだ。バカじゃねぇの、と視線で言われている、……気がするのは被害妄想だということにしておこう。
「聖剣は普段神殿の深部に保管されています。聖剣が選んだ人間が適度に成長したとき聖剣は自らその者の元へ現れると言われています。その基準がなんなのか、神殿関係者なら知っているかもしれませんがわたしたちは知りませんね。別に興味もありませんし」
とりあえず分かったことは聖騎士さまって別に偉い人じゃなさそうってことだ。ついでに言うとシュウさんは聖騎士が大嫌いみたいだ。説明の端々に悪意を感じるよ。聖騎士さまも嫌ってるみたいだったし、お互いさま? いや聖騎士さまは嫌っているというよりただいじめている感じだったしなあ。
「じゃあ白薔薇騎士団? とやらはどうやって選ぶんですか」
団、というからには構成員がいるんだろう。でも聖剣が選ぶのは一人だけっぽいし。白薔薇騎士団自体が常置の騎士団じゃないっぽいし。聖騎士さまは百年ぶりだって言ってたもんね、聖騎士さまをトップとするのが白薔薇騎士団ってことは聖騎士さまがいないときは白薔薇騎士団は存在しないってことだろう。……あれ、そう考えると別にあってもなくても同じ気が……。
「普通騎士団は国王陛下の任命により団長、副団長が選ばれます。団長や副団長が代わるごとに騎士団は変成し直されるので、騎士たちはその度に自ら志願して第一騎士団から第九騎士団に入団します。まあもっとも団長も副団長も第一騎士団なら第一騎士団から第二騎士団なら第二騎士団から選ばれるので実質的には構成メンバーが大きく変化するわけではないので、騎士たちも志願先を変えることはほとんどありませんね。騎士団を変えるにせよ、そのまま継続して所属するにせよ入団試験が必要となりますが、まあ今はそれはいいでしょう」
ふむふむ。つまり普通の騎士団は自分たちで選んで騎士団に入れるわけだ。やけに数が多い騎士団はその数字によってやってることが違うみたいだし、自分たちがやりたいことを選べるってことだよね。
「ですが白薔薇騎士団は根本から違います。今回の聖騎士は青薔薇第一騎士団からの選出となりましたが、過去庶民から聖騎士が選ばれたこともあったようです。つまりまるで未経験者が聖騎士となることもありえます」
あ、やっぱり庶民が聖騎士になっちゃったことあったんだ。それが地方領主の子弟ならともかくまるっきりの一般人じゃ荷が重かっただろうなあ。
「一般的には名誉ある職だと思われていますが白薔薇騎士団が単なるお飾りだということは青薔薇騎士団内では周知の事実です。誰も好き好んで白薔薇騎士団所属を志願はしません」
……周知の事実だったんですか。みんな単なるお飾りだと思ってるんですか。それって不敬になったりしないんですか。
あれ、聖騎士さま、青薔薇騎士団出身なんですよね? つまり聖騎士さまお飾りだと思って仕事してるってことですか。なんだそのやる気のなさは。
「なので、神殿が青薔薇騎士団から数人を白薔薇騎士団員として選出することになっています。今回は聖騎士が青薔薇騎士団出身だったこともあり、青薔薇第一騎士団から数名引き抜かれましたね。大したこともしていないくせに強いのばかり引き抜いていくのでこちらとしてみればいい迷惑なんですが」
つまりみんなも迷惑だと思ってるけど、一応名誉職だし断れないと。うーん、白薔薇騎士団もあまり偉い人たちの集まりって感じはしないね。ていうか完全に厄介者扱いされてる感が否めない。
「……あ、そういえば」
ふむふむと説明を聞いていたら、ラディがポンと手を打った。なにかを思い出したようなので、なんだなんだ、と視線を向けるとラディはにこりと微笑んだ。
「騎士団の話で思い出したんだけど」
いやはや美人は笑っても美人だよなーとどうでもいいことを考えていたわたしは。
「王城から使いの人が来たよ」
さらりと口にされた言葉に「あ、そうなんだー」と軽く返してから愕然とした。
……え、王城から使い?
このあたりから、大きくお話が動きだす、……はず。




