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多目的少女!  作者: 遊楽
第一章 災厄の王子
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複雑怪奇な跡取り問題



 お昼を食べ終えその他ラディへのお土産等々の買い物がひと段落ついた後、お金持ちらしいシュウさんは宿をとってその部屋に閉じこもった。もちろんわたしを引き連れて。


 たしかにラディの話は人に聞かれたらマズイ話題だろうけど、すごいなわざわざ宿借りるんだ。泊まるわけでもないのに宿借りるんだ。金銭感覚どうなってんのこの人。でも宿屋の店主のおじさまは微笑ましい目で見ておられた。……疲れたと駄々を捏ねる妹のために早い時間に宿をとってあげる優しい兄の図ですね、分かります。これで『両親を亡くした兄妹(兄は母親代わり)』の設定にたぶん下級貴族の家の子くらいの肩書はついたんじゃないかな。どうやら時間毎に課金される仕組みらしい宿を早くから取る人なんてお金持ちに決まってる。


 宿といってもほんとに眠るためだけの場所らしくあまり部屋は広くない。簡易ベッドにかたい布団が敷いてあり、掛け布団も薄い。その他に置いてあるものといえば小さなテーブルと椅子がある程度。森の小屋より一回り大きいくらいで広さ的にも設備的にもあまり違いはない。六人家族という大所帯の上にお父さんは忙しい人だったのでホテルなんて修学旅行でしか行ったことはないけれど、さすがに設備に乏しくないか、と思うのは現代っ子故だろうか。通りに面した小窓からは町の喧騒が聞こえている。



 「アレイウスさまは現王、ナビュレーさまの弟君にあらせられます」



 テーブルを挟んで椅子に座りシュウさんが早速本題に入る。前置きがほしいとは言わないけどもうちょっと間を置いてから始めてほしい、そういう大事なお話は。


 とりあえず姿勢を正してもう一度シュウさんの言葉を頭の中で繰り返す。いきなりすぎて理解が追いつかなかった。


 現王の弟がアレイウスさまってことは、うん、やっぱり王弟殿下か。予想通りの答えにうむと頷く。



 「元からあまり気の強い方ではなかったので権力争いに巻き込まれることを嫌い、アレイウスさまは早々に王城を離れ南の領地テーダを治めていらっしゃいます。王家直轄地ではありますがさして大きいわけでもなく南とはいえ国境沿いの発展した地域からは離れた領地なので、アレイウスさま派の方々には納得がいかなかったようです。小さなものですが何度か南で反乱も起こっています」


 「なるほど。それで第一王位継承権を持つ第一王子が亡くなったから是非王弟をって推し始めたわけですか」


 「そうです。たしかにラディッシュさまの死が信じられている以上、王位継承権第一位はアレイウスさまにあります。ラディッシュさまに他に兄弟はおられませんし、カディアさまのご子息、アレクサンダーさまはまだ御歳二歳。玉座に据えるには幼すぎるため王位継承権は第二位です」



 壮大な名前のアレクサンダーくんはとりあえずスルーの方向で。二歳の赤ちゃんがアレクサンダーとか、なんかイメージ合わないよね。そりゃいつかは大きくなるけどさ、ラディの顔を見る限りアレクサンダーに相応しい厳つい男にはならないよね。異母とはいえカディアさまとラディは兄弟なわけでしょう? つまりカディアさまも儚い美少年。しかも王族なわけだから色素は薄めでしょ? その子がごついおにーさんになるとは思えない、というか思いたくない。是非とも色の白い儚げな美少年を望む。……と、いかん。思考がずれた。



 「現国王陛下は第二王子であらせられます。第一王子であった国王陛下の兄君は加護が薄く病弱で幼い頃にお亡くなりになられたと聞いています。他に兄弟といえば第三王子であったアレイウスさましかいらっしゃいません」



 国王にたくさん兄弟がいるのは付き物だけど、マオセリンは〈女神〉の加護により暗殺や病気による死の心配が少ないため兄弟の数はあまり多くない。多すぎる兄弟は内乱を招く。余計な火種は作らないのが一番っていう考えらしい。現国王陛下には側室さまも何人かいるようだけれど、それは王妃さまになかなか子どもができなかったのが原因らしい。歴代の王にも側室さまがいたことはあったけれど、だいたいが王妃さまに子どもができなかったとか跡取りのためとか見目麗しい女の人を侍らせてハーレムを作るという理由みたいだ。……けしからん。そりゃラディを見る限り王族ってみんな揃いも揃って美形なんだろうけど。



 「このままいけばどう足掻いてもアレイウスさま以外に王位につける人はいないってことですね。それが気に食わない人がいる。アレイウスさまが王になると困る人たちですね?」


 「アレイウスさまはお優しいお方です。南の反乱も血を流さず話し合いだけで解決された。アレイウスさま反対派はターグルの危機が迫るこの時期にお優しいアレイウスさまが王となっては国が崩れると考える者たちです。ターグルは分かりますね?」



 問い、というより確認の意が強いそれにわたしは慌てて知識を掘り返した。まったくさっきから脳みそはフル稼働だ。普段使わないだけにとても疲れた。……いや、それはそれでどうなんだわたし。


 ええっと、たーぐるって隣国だっけ? たしかたーぐる帝国だ。何年か前にマオセリンに戦争を仕掛けてきた国、だったはず。〈祝福の子〉のおはす国になんてことを! と他国が慌ててマオセリンを支援したために不利になって停戦協定を結んで戦争は終了。でもたーぐるは納得してないとかなんとか。今もマオセリンを狙ってるって言ってたような、言ってないような。


 ものすごく曖昧な記憶だったけどとりあえずは分かりますと頷けばよろしい、と頷き返されて説明が続く。



 「反アレイウスさま派の方たちは、簡単に言ってしまえばカディアさま派の方々です。ですがカディアさまがお亡くなりになられた今、アレイウスさま派の後ろには神殿がついています。そうなれば、カディアさま派から離脱する家も少なくありません」



 この世界で絶対的な力を持つのは神殿だ。国王は君臨すれど統治せず、ってヤツで実質国政を動かすのは神殿の一声だ。その神殿は当然幼すぎるアレクサンダーさまじゃなくてアレイウスさまの王位継承を推す。そうなれば反アレイウスさま派だって声高に抵抗は叫べないだろう。



 「ですがアレイウスさまがラディッシュさまを連れ戻すようご命令を下されました」



 そうそう、だから反アレイウスさま派のラディ生存を知る人がラディを呼び戻すように…………って、は? 今なんて言った?



 「ええっと、ラディを連れ戻したいのは反アレイウスさま派なんですよね?」


 「そうです」


 「でもラディを連れ戻すよう命令したのはアレイウスさま?」


 「そうです」



 どういうこっちゃ!


 なんでアレイウスさま本人が反アレイウスさま派なわけ? え、王位継承権第一位なんでしょ? ラディがいなければそのまま国王なんでしょ? ライバル増やして何がしたいの?



 「アレイウスさまは王位継承を拒んでおられます」


 「はあ。それはまた奇特な人もいたものですね」



 王位って自分の肉親殺してでも奪い合うものじゃなかったっけ。それが偏見だったとしてもこうドロドロとした関係があると思うんだけど。本人が望んでないとは珍しい。



 「ご自分でも王となる器でないことは分かっておられるのでしょう。アレイウスさまはその人柄から臣下の者に好かれていらっしゃいます。アレイウスさま派として今騒ぎ立てているのはその臣下の者たちです。アレイウスさま自身は王位継承を望んでおられません」



 ああ、流されやすい人ってヤツですね、分かります。……うん、国王に向かないよねそういうタイプは。



 「アレイウスさまはラディが生きてることを知っているんですか?」


 「はい。ラディッシュさまが殺されぬよう計らってくださったのはアレイウスさまです。あの方はエカチェリアさまを本当の姉のように慕っておられましたから」



 エカチェリアさまってたしかラディのお母さん、だったはずだ。でもアレイウスさまがラディを殺さないよう取り計らったのってエカチェリアさまを本当の姉のように慕ってたからというより、まるで……



 「……アレイウスさまって、」


 「はい。頭のよい方でいらっしゃいます」



 ですよね!?


 それってつまりラディが魔の森に捨てられたときからの作戦ってことにならない? 王族の子はみんな幸運持ちらしいけど、それも今や血が薄まり幸運っていっても大きなものはない。なにかのはずみに死んでしまうことだってあるかもしれない。可能性は低くてもゼロじゃないのだ。だって幸運だ。絶対加護ではなくてただの幸運なんだから。不幸中の幸いで王位につけなくなるような怪我、例えば耳が聞こえなくなるとか喋れなくなってしまうとかそんなこともありうる。そうなったとき第一王子にちょうどいい年頃の息子がおらず第二王子もいなければ前王の弟君が王位につくことになる。でもアレイウスさまは王さまになりたくない。それを回避するためには第二王子が生きてればいいんだ、……という思考になったんじゃなかろうか。頭がいいというか、ずる賢いというか……。



 「つまりラディが生きていることを広めているのはアレイウスさまってことですか」


 「強引な説ではありますが、おそらくは」


 「……恐るべし、王弟殿下」



 そんなに王さまになりたくないのか。だって国の最高権力者でしょ? 女の子侍らせてうはうはすればいいのに、欲がない人なんだなあ。



 「その王弟殿下は別にして、ラディを王位につけたい人っていうのは言い換えればカディアさま派、ひいてはアレクサンダーさま派ということですよね?」


 「そういうことになりますね」


 「ラディを王位につけることで得られる利益といったら国王を操ることで自分が政務を行える程度のことしか思い浮かばないんですが、これで合ってますか」


 「そういうことになりますね」


 「その方々にターグルの脅威を退ける策はおありで?」


 「恐らくないでしょうね。ただ国の政治を思うように動かしたいだけの輩です」


 「アレイウスさまがいるとそれがうまくいかないってことですよね。そのためなら死んだとされる忌色の王子を呼び戻してもいいと思えるほどの利益なんですか、国の政治を動かすことって」


 「さあ。人にもよるでしょうが、彼らにとっては重要事項なんでしょうね」



 世界が変わっても政界で起こることにさしたる違いはないらしい。予想通りすぎるドロドロ具合だ。


 アレイウスさまは南の反乱を話し合いだけで解決するほど穏やかな人。でも言いかえれば話し合いだけで解決できる頭と技量を持っている。反アレイウスさま派にとって自分たちの言うとおりに動いてくれない王さまは都合が悪い。なんの都合かは不明だけど、とりあえず愚かなら愚かなほど国王に向いてるってわけだ。それにラディを据えたいっていうのは、つまりラディは愚かで傀儡とするのにちょうどいいって思われてるってことだ。……なんか腹立たしい。



 「ラディが王城に戻っていいことはありますか」


 「はっきり言ってしまえばありません。ラディッシュさまはいいように操られ、アレクサンダーさまが即位できる年齢になったと同時にまた魔の森に戻されるでしょうね。悪ければ偶然を装って殺されるかもしれません。あの方は女神の祝福が薄いですから」



 ……やっぱりそうだよね。ラディが戻っていいことなんてあるはずないよね。なんてったってラディだもん。あの純粋少年が大人のドロドロの中でやっていけるとは思えないよね。



 「あ、でも国王陛下、ええっと、なびゅれーさま? はまだご健在なんですよね」


 「はい。まだお若くていらっしゃいます」


 「ならそんなに早く次期国王を決める必要はないんじゃ……? アレクサンダーさまがもっと大きくなってからでも遅くないですよね」



 国王陛下に幸運はついてるわけだから滅多なことじゃ死なないわけだし、アレイウスさまを即位させたくないっていうならアレクサンダーさまが成長するまで待ってから次期国王を決めても遅くない気がする。



 「神殿は焦っているのです。ここ百年で一番の祝福の持ち主であったカディアさまが亡くなられた。マリーシュの祝福は絶対です。それを持つものが死んだとなればいつ現国王が崩御なされるが分からない。早いうちに次期国王を決めておかねば内乱になります。神殿も馬鹿ではありません。今内乱となればターグルに付け込まれることは分かっているのでしょう」


 「はあ、なるほど」



 マリーシュの祝福の絶対性が分からないわたしには少し理解しがたい。だって幸運は幸運だ。不幸中の幸いって言葉もあるわけだし、死という不幸の中でも比較的苦しまずに死ねたのならそれも幸運と呼ぶんじゃないかと思うんだけど。世界にはもがき苦しみながら死んでいく人がたくさんいるのだ。家族に看取られてお亡くなりになられたのならそれはそれ、とても幸せなことだと思う。ただ死に至らないだけが幸せじゃない、と思うんだけどやっぱり異世界では感覚が違うのかもしれない。



 「でもどうしてそこまでしてシュウさんはラディを守るんですか?」



 シュウさんがラディを匿ったのはまだラディが物心つく前だ。その頃ラディが国王になれる保証はどこにもない。なのにどうしてシュウさんはラディ側に立つことを決めたんだろう。ラディには悪いけれど利害の面で考えるのならラディ側に立つことは決して利を生まない。なんだっけ、災厄の王子? を匿っていたと知れれば逆に自分の立場が危うくなるのに。



 「それは、」



 シュウさんが言い淀む。室内だからかフードをとっているシュウさんの黄みがかった碧眼が躊躇うように彷徨った。



 「あ、言いづらいならいい「カズサ?」



 ……うん?


 少しの違和感にわたしは首を傾けた。


 ラディが上手に発音できなかった『カズサ』の名前をシュウさんは呼んでくれる。それでもやっぱり少しイントネーションが違うのだ。術がかかっているとそんなことないんだけど、やっぱり素の状態だとほんの少しイントネーションが違う。今のシュウさんの発音はまさにそれだった。



 「カズサ?」



 …………おおう、これはまさに。



 「また言葉が通じなくなった!」



 聖騎士さまがこの町を出たらしい。まだ聞きたいことはたくさんあったのに! ていうか、まだ答えてもらっている途中だったのに!


 悪気はないであろう聖騎士さまにわたしは心の底から呪いの念を送った。



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