博愛主義にはなれないけれど
金は至上の祝福を、青は祝福を、白は神聖を表す。すなわち至上の祝福を受けた<最後のヒト>の末裔たるマオセリン王国の王族は必ずその身に最低一色の神聖色を持つ。
王家千年余の歴史において例外はたった一人。
ガリゲア・イサウ・マオセリン・ラディッシュ。
八七六代国王、ラウズ・ガリゲア・グラウーノ・マオセリン・ナビュレーと<裏切りの民>出身であるイサウ・ヤンドラ・エカチェリアとの間に生まれたマオセリン王国の第二王子殿下。穢色である銀を御髪に、紅を瞳に持つ災厄の王子。
なんとも厨二っぽい設定だがそれがラディの肩書きらしい。ラディってば、ほんとに王子様でいらっしゃった。それもワケありの。
「神殿はとにかく銀と赤を嫌う。最近ではあまり騒がれなくなってきたけど、それでも神殿としては王族に忌色の王子がいるのは許せないんだよ」
つまりはほとんど迷信のようなものらしい。
昔、銀と赤をその身に纏う魔法使いがいて、その人は世界を滅亡させようとしたために処刑されたんだとか。その世界滅亡の方法が世にも恐ろしいもので、恐怖で眠れぬ夜を過ごした民衆に銀と赤は恐怖の色という認識が根付く。神殿としてもその極悪人を魔物として扱った方が都合がよかったため、銀と赤を忌色とする風習が広まったと。銀と赤を持つ者は魔力を持つ、もっとも魔に近しい者とされたらしい。つまり穢れでもなんでもなくただの思い込みと政治的大人の事情みたいだ。うん、歴史なんてそんなもんだよね。大人のちょっと綺麗とは言い難い事情がたっぷりだ。
「オレが四歳のときに神殿はオレをここに捨てた」
「捨てた? 殺そうとしたんじゃなくて?」
政治的大人の事情が絡んでるなら王族もなにも関係なく暗殺しちゃうと思っていたから意外に思って聞いただけなのに、ラディは一瞬息を止めてから笑い出しシュウさんは頭を抱えた。……いやたしかにね、本人に聞くことじゃなかったかなーとは思うけどね。敢えて空気を読まないでみたんだけどね。別に空気が読めないわけじゃないんだよ?
シュウさん、それにしても呆れすぎじゃない? 溜め息がわざとらしすぎるんですけど。
「ズバッと聞くねぇ」
何がそんなにツボだったのか目の端に涙を浮かべながら笑うラディ。大爆笑するほどおかしなことを言った自覚はないんだけどなあ。でもまあ捨てられたなんて過去を笑えるんなら大丈夫だ。現実を悲観するのはよくないしね。なるようにしかならないわけだし。
「王族は多少なりとも祝福を受けているって言ったでしょう? 色が少なくても祝福は絶対で、その身に危険が及ぶことはないんだ。色がなくてもオレが国王陛下の血をひいている限り、誰もオレを傷付けられない。誰もオレを殺せない。だから神殿には捨てるっていう選択肢しかなかったんだ」
祝福って万能バリアみたいなものなのか。聖霊にめっちゃ愛されるとか特殊能力があるとかそういうことだと思ってた。
「じゃあ祝福が多いとどうなるの? 不死身?」
「<祝福の子>は成長が遅かったって言われているけどそれが祝福であるわけじゃない。祝福っていうのば女神の加護だから。とにかく幸運に恵まれていることを言うんだよ」
「…………、へえ」
……いや、それを祝福とありがたがってるなら何も言わないけどさ。いいの、そんな微妙な祝福で? 宝くじが当たるとか運よく死なないとかそういうことでしょ? ほんとにそれでいいの?
「オレは祝福が少なすぎるから自分の命を守ることくらいしかできないけど、大きな祝福は周囲の人物にも影響を与えるよ」
なに、その歩く幸運生産マシーンみたいなの。王族の近臣はおこぼれに与れるってわけ? それも幸運の? なーんか子ども騙しっぽいなあ。というか胡散臭い。
「神殿は王族とほぼ同等の権利を有する。第一王子は無理にしても第二、第三王子は是非手元において信仰の対象にしたいってわけ。王族を有する神殿にはたくさんの寄付が寄せられる。王族を独占するのは専ら王都にある本神殿だけどね。時々力の均衡を保つために準神殿に入れられる王子もいるよ」
「うーん」
それってつまり。
「ものすごく性格の歪んだ見方をするとさ、ラディをここへ連れてきたのってオレたちに幸運を与えてくれるわけでもないし邪魔だから捨てちゃえ的な感じだよね」
それってあんまりだ。人間をゴミみたいに捨てるなんてちょっと倫理観を疑う。
ラディは困ったように眉を下げて笑う。紅の瞳が少し翳った。
「そうだろうねぇ。災厄の王子が王城内にいることはそれだけで神聖な場を穢すことになるから」
「この森はなんか特殊なの? 例えば穢れが外に出ないとか浄化作用があるとか」
それで身を清めた王子を「魔を克服した勇者」にして祭り上げたいとか? 金が絡むと人間ってどこまでも汚いからなあ。
「むしろその逆だね。ここはイーリ・ニィラ、魔物の森だから」
……それはまた不吉なお名前で。
「え、でもそれって、「カズサ」
わたしの言葉をシュウさんが遮る。
……って、ちょっと待て。今なんて言った?
目を白黒させながらぎこちなくシュウさんに視線を向ける。
聞き間違えじゃなければ、今ものすごい言葉が聞こえてきたんだけど。
「シュウさん、今、「カズサ、買い物に行きましょう。そろそろ服を揃えておいた方がいいでしょう?」
ああ、うんそうだね。さすがにラディの服を着るのは辛いよね。小さいときに着てた服らしいけど、わたしにしてみればだぼだぼしてて大きいし。ほんとこの世界の人って平均的に大きいんだなあ、…………って、違うってば!
「シュウさん! あなた今、なんて言った!?」
「は? 買い物に行きましょうと」
「それじゃなくて!」
「は?」
「名前! 呼んだよね!?」
「……それがなにか?」
「いえ、別に!」
ヤバい、ニヤけるなあ! シュウさんはわたしを警戒してることがバレバレだったし、わたしの名前呼んでくれるなんて(というか一度の自己紹介で覚えていてくれたなんて)感激だ。ちょっとは認めてもらえたってことだよね? いくら色気駄々漏れのいけ好かない男でもずっと警戒されてるのは寂しいしね。今わたしが頼れるのはラディとシュウさんだけだし。
「じゃあ買い物に行きましょう!」
声高に宣言するあたしにラディがクスクスと楽しげに笑っていた。




