望まれなかった王子様
出戻りです。
――サーガの月が満ちるとき、
「なんと忌まわしき王子」
「やはりお母君がああだから、」
「だから言ったのだ。<裏切りの民>を愛妾に迎えるなど、混乱を招くだけだ」
「陛下は何を考えておられるのか」
「<災厄の者>と同じ色を持つ王子など災厄の象徴ではないか」
「これではいくら第二王子とは言え、認めるわけにはいかぬ」
「これを即位などさせてみろ、国民がなんと言うか。神殿の権威は地に落ちるぞ」
「そうでなくても<女神>の加護が不安定なのだ。これ以上の混乱は厄介なことになろう」
「ターグルの我慢もいつまで保つか」
「しかし災厄の象徴が城にいることが分かれば、それを理由に剣を向けるだろう」
「ああ、ほんとうに厄介なことになった」
――悪に見初められし王子が生まれる。
「やはり<予言>は本当だったのか」
「しっ、あまり大きな声を出すな」
「この王子、どうする」
「城にいさせるわけにはいかぬ。ここは神聖な場だ。穢れた血を持ちこむことは許されぬ」
「しかし、この御子は紛れもない<女神>の神子。殺すわけにはいかぬ」
「ならば、<魔の森>に捨てるのはいかがか」
「それしかあるまい」
「それで喰い殺されれば御の字。どちらにせよ、あの森から逃げることは不可能」
「王にはなんと?」
「子を攫う魔物が連れて行ったと報告しよう。魔物が相手では王も罰しはせぬ」
「ちょうどいいことに騎士団長は不在。警備が手薄であったと言えばよい」
「なるほど、全ての責任はあの若造に……」
――……だれも、あいしてくれない
とくべつななにかが、ほしかったわけじゃない。
ただ、あたりまえのようにいきたかっただけなのに。
……神などいないのだと悟るまでにさして時間はかからなかった。
「綺麗な色だと思うけどなあ。ラディの目って宝石みたいだ」
愛されなかった王子さま。
望まれなかった王子さま。
彼の生きる色のない世界に色をつけたのは、まるで魔のモノに愛されたかのような黒尽くめの少女。後に<漆黒の魔女>と呼ばれる異界の娘。
――王子は漆黒の魔女を連れて、災厄を引き起こす。
捨てられた災厄の王子と漆黒の魔女が出会ったとき。
……――歴史の歯車は動きだす。