嵐の前 参
「清佳人(セイカジン)を舞う? 蓮さまが?」
驚きで固まったままの少女に笑う。
『清佳人』は実在した7代前の王妃の逸話を基にした舞である。雲ひとつない天の下、清佳人が近しい者達だけを招いて舞を披露していると、どこからともなく美しい女人達が現れ不思議な音色の笛や歌を唄い始めた。感激した清佳人がひときわ華麗に舞うと、賑やかな音につられてやって来た王に見染められ王宮に迎えられる。
あまりにも有名すぎる舞のため、中途半端な技を持つ芸子が踊ると周りの失笑を買う。
「あの、蓮殿。」
李羅との会話を聞いていた女官の一人が恐る恐る手を挙げた。
「閉門したゆえ、今から清佳人の唄い手をお招きするのは難しいかと」
「問題ないです。歌も笛も要りませんから」
『なっ!?』
八人の女官らの目が信じられないものを見たかのように大きくなる。
『蓮殿! それはもはや清佳人とは言いませぬ!』
その後散々女官らにお小言を告げられたが蓮は笑ってかわすだけにした。
失敗することは承知ですよと伝えたらどんな目に合うか。
「さぁ。これからが勝負の時です」
夜半に行われた蓮の舞の披露は、李羅が思わず耳を塞いでしまうほどの側妃含む後宮の住人らの笑いを誘う結果となった。やはり女人の意見では、舞と笛と唄の三つが揃わないものなど『清佳人』とは言わぬとのことだった。その嘲笑の中、蓮は口火を切る。
「私ひとりでは清佳人の素晴らしさを伝えきれずにお恥ずかしいかぎりです。そこで、皆さま方で清佳人を演じませぬか?」
我らの尊きお方、天帝殿下の御前にて。