竜くんとごはん
「おにくたべたい」
お昼近くになってリューシオンくんがそんなことを言った。
あれ?朝、食べてたよねバーベキューもどき。大きな金串に肉や野菜を刺して焼いたもので、まあ、ふつーにおいしかったけれど、そんなまたすぐ食べたいって言うほどのものだったかなぁ? 朝はしっかり食べる派のあたしでも「肉肉野菜肉肉!」って感じだったので圧倒されちゃった。リューくんも一串でもう十分そうだったのに。
それにしても昨日までの食事と比べるとずいぶんと肉の量が増えてたなあ。なんでだろう?
そういえば、ドラゴンの食事って生肉がっつり! のイメージがあったけど雑食なんだって。
リューくんはまだ生まれたばかりなのに、この国のヒト族が好んで食べるものならたいていのものは食べてもOKなのだそうだ。材料は不明だけれど、あたしにも違和感ないもの――たとえばパンやサラダ、スープとかの洋食系――が出てきたので、一緒に食べられるし助かりましたわ。
喚ばれて飛び出た(?)あの日から、あれよあれよと一週間。これからあたしとリューくんはこの世界について一緒にお勉強することになりました。普通なら一般常識は「おかあさん」が教えてあげるものらしいのだけど、あたしでは到底無理。なので、リューくんのおとうさんであるケントさんやここでの生活のお世話をしてくれる侍女さんらに少しずつ教えてもらうのだ。
ちなみにあたしは参加しないが、もう少し大きくなったら生みの母であるユリシアさんから神竜としての心得みたいなものも学んでいくらしい。
「リューくん、今朝のお肉そんなに気に入ったんだ?」
それにしてもまだ産まれたばかりなのに、ちゃんと話せるとかってどうよ?
孵ったばかりのときは「きゅーきゅー」言ってたはずなのに、儀式が終わった後には2,3歳児並みには話せてたもんね。おそるべし、age(エイジ)。補給で語彙が増えるのか? ある程度の会話や意思疎通ができるなんてほんとにびっくりだ。
「おにくたべたい。ケーコのおにく!」
ううう。リューくん、それはどういう意味でしょう? たしかにおにくは余分についてますが…
……どうやら彼は「唐揚げ」が食べたかったらしい。
あの後、神殿を訪れたケントさんと一緒によーく話を聞いてみると、そういうことだった。
「そうか。リューが食べたがっていたのは、その『唐揚げ』とかいうものだったんだな」
やっと納得がいったという感じのケントさん。
実はリューくん、昨日ケントさんに「おにく」をおねだりしていたらしく、それゆえ朝食のバーベキューと相成ったということだった。
「『からあげー』? おにくー。たべたーい♪」
「この国にもおいしい料理はたくさんあるというのに、よりにもよって誰とも知らぬ女が与えたそのようなものを……」
実はケントさん、リューくんがあたしを「選んだ」ことにいまだ納得していらっしゃらないご様子。お気持ちお察しいたします。大事な大事な息子さんですもんね。
でもま、人生あきらめも肝心です! そうでないと人間生きていられないことってたくさんありますからね。そんな思春期の少年みたく、葛藤するのやめてくださいね。
とりあえずあたしのことはリューくんのお世話係とでも思ってくださいましな。
……と、いうわけで、やってきましたチューボーですよ。結局、あたしが試しに「唐揚げ」を作ってみることになりました! あたりにはこちらのコックさんと思わしき人々が! 皆、興味津々のご様子。
わたくし、久方ぶりのお料理でございます。上手くできるでしょうか……?
まず材料。この一週間の食事の中に「鳥もも肉」「酒」「生姜」のそれぞれ代用品となりそうなものが出てきたことがあったのでそれを用意してもらう。うーん。「みりん」はないだろうなぁ。パンがあるから「小麦粉」はあるでしょ。お芋があったので「片栗粉」もあるかな? なければなくてもよいけどね。
そしてあたしと一緒に世界を越えた、この「昆布しょうゆ」でございますね。はい。
――まず、開いた鳥もも肉もどきの皮目にフォークを突き刺して、ところどころに見えない穴をあけていく。これでお肉が柔らかく、タレが沁み込みやすくなるのさっ。これを一口大に切り、酒&おろし生姜もどきに昆布しょうゆを加えたタレに揉み込みしばし漬け置く。その後、卵を加え揉み込んだら油の用意。余分なタレを捨て、粉をまぶす。
――そしていよいよ揚げでございます! 中温で、揚げ色が足りないかな? というくらいで油から取り出し、余熱で火を通す。その後、高温の油でこんがり揚げ色がつくまで二度揚げする。
――じゅるる。見た目はオッケー! 味見味見! ……ま、こんなもんかいな?
「ぱぱ、からあげおいしーねぇー♪」
「むむ、なかなかいけるな。ユリシアへの土産にいくつか持って帰りたいのだがいいか?」
どうぞどうぞ。何気にたくさん作りましたからね。それにしてもまともに出来てよかったです。
それもこれも、昆布しょうゆと火加減を調整できる魔道具? のコンロがあったおかげです。かまどとかじゃなくて、ホントよかった~。さすが異世界、やっぱあるんだなー、魔法。あたしも使えたりしないかしら。後で聞いてみよっと♪
最初、出来立てを皿に盛ってだしたらリューくんがぐずっちゃったのでどうしようかと思ったよ。どうやら串に刺さってなかったのがお気に召さなかったらしい。自分で串を持って食べたかったんだって。
で、小さな串に刺してあげたらめっちゃ喜んでました。
……でもねリューくん、本当の「唐揚げ」は串に刺さってないからね! そこんトコ、よろしくっ。
今回も読んでくださりありがとうございます。