竜くんのおさんぽ(2)
すっかりおねむなリューくんを抱きかかえつつ、お花見の後片付けでございます。ほぼ侍女さんにおまかせしちゃってるんですけどね。ほんとすみません。
しかし……寝てるとなんでこんなに重いんでしょうね。
「ケーコ様。よろしければわたくしがリューシオン様をお連れいたしましょうか?」
侍女さんが代わりに抱っこしますよと言ってくれるけど、いや、今はまだ大丈夫です。
……ま、も少ししたらお願いするかもですけどね!
よっこらしょっ、とリューくんを抱えなおしたそのとき。
うわわわ。危ないよ~、リューくん。タイミングよく動かないでおくれ。落っことしそうになっちゃったじゃないの~。
腕の中、リューくんのお耳がぴくぴく動いてる。どうやら何かに気をとられている様で辺りを窺っている。
「どしたの? 自分で歩く?」
もぞもぞして危ないのでリューくんを足元の芝生に下ろす。
その途端、何を思ったのか湖の側でないほう……ちょっとした森みたいになっている……の茂みに向かってたたたっと走り出したではないですか!
「リューくん、待っ……」
およ、早っ。今までになくしっかり走ってますねーリューくん。
騎士さん達が慌てて追いかけ、あたしもその後を必死でついて行く。あなどるなかれ、ちび竜。むむむ、ちょっと離されてしまいましたね。見た目は若くなりましたが、運動神経と基礎体力は元のままなのですよ、あたくし。とほほでございます。
はあはあ言いながら追いついたその先で、リューくんが何やら銀色の毛玉? に近づいていくのが見えました。
そのままあたしも近づこうとすると
「どうやら手負いの獣がいるようです。危険ですのであまり近づきませんように」
と騎士さんに止められる。あたしを庇って毛玉との間に立つ騎士さんの背中越しに見ると、どうやら銀色の獣がワナらしきものにかかっているようだ。大きさは子犬程度。リューくんよりは小さいが咬まれたりしたらたいへんだ。
「リューくん、危ないからこっちにおいで!」
「お戻りください。リューシオン様!」
騎士さん達と一緒に呼びかけるが、リューくんはどこ吹く風。「グルルルル」と唸る小さな毛玉のすぐそばへ。
するともう一人の騎士さんがリューくんと毛玉の間に入り込み、リューくんを抱えて距離をとった。
騎士さんナイス! とほっとしたのもつかの間、リューくんったらイヤイヤをして騎士さんの腕から下りちゃった! で、そのまま、またも毛玉に一直線。なにやらむにゃむにゃと毛玉に話しかけ始めた。
……すると、威嚇し放題だった毛玉が次第におとなしくなっていくではないですか。
「わんちゃんね、あんよがいたい、いたいなの。えーんえーんしてるの。」
駆け寄った騎士さんに、リューくんは毛玉をワナから外すようにお願いしたらしい。遅れてそばに行くと、ちょうど銀色毛玉がワナから解放されたところだった。
「いたいのいたいのとんで~け♪ ダイジョーブダイジョーブ!」
騎士さんのそばにいたリューくんが、横から手を出してわんこのあんよをなでなでぽーい。
するとどうでしょう。毛玉ちゃんの傷がみるみる治っていくではあーりませんかー!
えええーっ。なにこれーっ。これで治るってどういうこと~?
「すばらしいですわ。わずか2歳にして治癒魔法に目覚められるなんて!」
いつの間にそばにいたのか侍女さんが感動したようにつぶやく。騎士さん達も驚いているようだ。
傷の治った銀色わんこ? は「くーん、くーん」と嬉しそうにリューくんのおててを舐めている。どうやら咬んだりはしなさそうだ。よかった~。
リューくんもうれしそうにまたもやわんこをなでなーで♪
「いいこいいこ~。いっしょにおうちにかえろぉね♪」
……こうしてリューくんはもふもふの「おともだち」を手に入れたのでした。
今回もお読みいただきありがとうございます。