KASASAGIの跳躍
「今日もだめかあ」
スマホを見て肩を落とす。
朝に投稿した小説のPV数を、寝る前に見るのが最近の日課だ。
短編はともかくとして、長編は投稿してもPV数が付かなくなってきた。
回を重ねるごとに伸びなくなっている。
私の小説など、誰も気にしていないのだ。
確かに存在していて新着の欄に乗っているのに、空気のようにスルーされる。
『流星の魔女~私が家に帰るまで~』と名付けた小説は、累計レビューやポイントなど0が並ぶ。
ブックマーク登録には2がついているが、それも投稿しはじめのころのこと。
ここ10回以上新しい登録はない。
「面白いはずなんだけどなあ」
別に小説の勉強をしたわけでもない、毎回立ち止まっては戻るように迷いながら書いていても、最低限読めるようなものにはなっている……そう自分では思っている。
他の人に読んでもらうのが上達への一歩というが、レビューが付かないのに、どうしろというのか。
友人に読んでもらうのはできない。やりたくない。
PVもろくにつかないものを読まれるのは恥ずかしい。
きっとそういう恥を置いておいて前に進める人たちが上達するのだろう。
分かっていても、そうなれるほどの情熱がない。
そんなスタンスで書いていたって、もう少しくらい読んでくれてもいいじゃないか。
楽しみつつも、真剣に書いているのは間違いないのだから。
溜息をつきながらも明日の朝に投稿する分を書き上げるために、PCの電源を付ける。
読むのはスマホ派、書くのはPC派だ。
単純にフリック入力が苦手なので、キーボードの方が打つ速度が速い。
YouTubeでゲームの生配信の音声を聞きながら、寝るまでに0.5話分進めることができた。
もう寝ないと明日に響く。
進捗度的には明日か明後日の投稿になりそうだ。
小説サイトのブラウザを閉じる前に、作品のPV数を見に行く。
つい数時間前に見たばかりだ、ついていても1,2PVくらいだとはわかりつつ、
『流星の魔女~私が家に帰るまで~』の作品ページから、「この作品のアクセス解析を見る」のボタンを押した。
「ま、変わんないか」
21時台に1つついていただけだった。
ただ、作品ページに戻った時に、いつもと違うのに気が付いた。
感想がついている。
恐る恐る開くと、一息で読めそうな長さの文章が一つ。
タイトルは『楽しみにしています』という、シンプルなもの。
『投稿者:レモンドロップキック』の書いたメッセージは、本文に関してもそう変わらないものだった。
「更新楽しみにしてます。主人公のめぐるが、最後家に帰れるのかが気になります。」
改行もない、その1行だけが書いてあった。
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あの感想から2か月がたった。
ブックマークの伸びは相変わらずなものの、少しづつPV数が増えるようになった。
それなりにつづけてきたから、味わうだけのボリュームになったからかもしれない。
感想をくれた彼はまだ見ているだろうか。
プロフィールを見に行っても、分かるのは性別と社会人であることくらい。
評価を付けた作品などのページは更新されているので、まだこのサイト上にはいるはずだが……。
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あの感想から4か月がたった。
物語は最終章に差し掛かっているものの、モチベーションが保てない。
PV数も、ブックマーク数もそれなりに増えた。
多分継続してみてくれている人も誰かはいてくれていると思う。
でも確定じゃない。
もともとあの感想がなければ続けていたかも怪しい。
誰かに見られているという確証が欲しい、認められたい。
その時に気が付いた。
私は作品を書きたいのではなく、認められたり称賛されたいのではないか?
途端に自分の作品が汚れて見えた。
楽しいだけで書いていたころにはもう戻れない。
キラキラしつつも厳しい魔法の世界を、ただ描きたかった感覚は遠のいていて、いくら文章を連ねても取り戻すことができなくなっていた。
彼は、あの時の私の作品が好きだったのではないのか。
変わってしまってもう見なくなってしまったのではないか。
そんな自分への失望が、キーボードをたたく手を止めてしまった。
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あの感想から半年がたった。
人気作はともかく、端っこの作品で2か月も更新が止まれば、追わなくなってしまう人も多いだろう。
久しぶりに作品ページを開くと、PV数は0が続いていた。
更新していないのが悪いとはいえ、やはり数字に出ると落ち込むものだ。
しかし私は、『未投稿』のページをクリックし、書きかけの物語を引っ張り出した。
2か月、向き合った。
誰も見ていないかもしれない自分の小説と向き合った。
誰かに言ったら鼻で笑われるかもしれない。
でも、考えた。
続けるのかどうか。
「書きたい!」という強い気持ちは、なかった。
ほめられたい気持ちも、自分への失望からなくなってしまった。
プラスの理由は何もなかった。
でも1つだけ、続けないことで哀しいことがあった。
それは結末を迎えられないこと。
主人公のめぐるが、いきなり魔法の世界に送られて、何もわからないままに努力して、何とか生きて、生きて。
出会いや別れを繰り返して、やっと元の世界に戻れるかもしれないというところまで来たのに。
このままでは彼女は帰れないままだ。
いや、結末は決まっていない。そのまま魔法の世界に残るのかもしれない。
でも、ちゃんと終わらせたいと思った。
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あの感想から8か月がたった。
私はついに書き上げた。
予告していた通り20時に最後の投稿をすると、作品に『完結』の文字がついた。
めぐるはこれで良かったのだろうか。
私の書いた結末は正しかったのだろうか。
ただ、私が書いたというより最後はキャラクターたちによって書かされたような感覚で文章を紡いでいた。
書いたのは私だが、終わり方を選択したのは彼女たちだった。
完結した手持無沙汰からか、特に意味もなく小説サイトをめぐる。
なんだかんだ終わってみたら反応も気になるものだ。
すぐにリアクションが来るわけではないと思うけど落ち着かない。
記念、というわけでもないが、冷蔵庫へ行きビール缶を1つ手に取った。
モニター前に戻ってプルタブを引くと、麦の香りとともに優しく泡がはじける。
YouTubeを見ながらだらだらしていると眠くなってきて、そのまま椅子でうたたねしてしまった。
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3時間ほど眠っていただろうか。
時計を見ると、短針がてっぺんに差し掛かりそうな頃合いだった。
酒は抜けているものの、寝ぼけたままスタンバイモードになっていたPCにパスワードを入れて、サイトを開く。
開いたままだったブラウザの更新ボタンを押し、作品ページを見る。
アクセス数を見る前に、先に感想を見に行った。
いくつか完結のお祝いの声が届いていた。
中には最終更新の予告時間に張り付いてみてくれた人もいたようだ。
思ってもない反応に、少し戸惑いながらも目頭の奥が熱くなる。
今日更新の中で一番下にあった感想メッセージ。
そこに彼の姿があった。
タイトルは『完結おめでとうございます!』。
投稿者には『レモンドロップキック』とあり、本文は以下だった。
「めぐるをはじめ、登場人物たちがどんな選択をして結末を迎えるのかが、ずっと気になっていました。
読み終わったときに、この人たちならこの選択をするだろうなと、勝手に納得しちゃいました!
物語の最後を読めてうれしくもありますが、楽しみに読んでいた作品なので、寂しくもあります。
次回作、期待しています。
楽しい物語をありがとうございました!」
読んでいる途中か、読み終わってからか自然と涙が出ていた。
終わらせることができて、本当に良かったと思った。
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感想を何度か読み返しているところで、PV数も気になった。
『完結ブースト』なるものがあり、完結するとPVが何倍にもなることがあるという。
『この作品のアクセス解析を見る System by KASASAGI』
緊張しながらリンクを押す。
左から低空飛行を続けていた棒グラフの最後右3つが、跳ね上がるように伸びていた。
結局ランキングには乗るほどにはならないだろう。
でも、私はまた歩き出す。
待ってくれている人がいるから。
いや、いなくてもまた始めるのだろう。
そうしてまた数字に一喜一憂しながら、歩き続けたい。




