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1500度の告白  作者: REI-17


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第32章 桐原家で悪魔なのは私一人かしら?

第32章 桐原家で悪魔なのは私一人かしら?

*

だめ!

伊藤なつお)の体が激しく震えた。両目を見開き、彼女は突如として後悔に襲われた。すぐさま瑠美奈の体を乗り越えて窯の奥へと潜り込み、全力で彼女を外へと突き出した。

瑠美奈による桐原きりはら)家への殺戮は二十年前に終わっている。その後の悪行はすべて私のせいだ。

だから、私さえ死ねば、彼女はあの優雅なお嬢様のままでいられる。

彼女にはまだ新海がいる!

ああ、なんてことをしようとしたの!

清原の復讐?

私にそんな資格はない。

私にあるのは、一人で死に、一人で償う資格だけだ。

伊藤は狂ったように扉を突き上げ、カウントダウンが終わる直前、ついに瑠美奈を外へと押し出した。

彼女は安堵の溜息をつき、再び横たわった。扉がゆっくりと閉まっていく。

*

放熱を助けるため、電気窯は高さ50センチの頑丈な金属製の架台に置かれていた。扉からバルコニーのタイル床に転げ落ちた衝撃で、瑠美奈は目を覚ました。まだ意識は朦朧としていたが、呆然と起き上がった彼女の視線の先には、窯の中にいる伊藤の姿があった。

「ピッ」という電子音が鳴り、電気窯が正式に始動した。扉はロックされたが、瑠美奈は何が起きたのかまだ理解していなかった。

半透明の扉越しに、伊藤は最後の手向けとして穏やかな笑みを浮かべた。唇が「愛してる」という形に動く。

窯の内部がまずオレンジ色に変わり、一秒後には温度が急上昇し、恐怖を感じさせる半透明の青白色へと変化した。その光は目を刺すほどに鋭く、窯の中の空間そのものが熱で歪んでいるかのようだった。伊藤の姿は一瞬でその白光に飲み込まれた。もがき苦しむ暇もなかった。その熱度では、神経伝達が脳に届く前に、タンパク質が炭化し始めるからだ。

*

瑠美奈はついに事態を悟った。驚愕に目を見開き、狂ったように扉を叩く。幾層もの断熱材を隔てていても、伝わってくる熱は手のひらを焼くほどに熱かったが、彼女は感覚を失ったかのようにハンドルを掴み、スイッチを何度も押し続けた。しかし、その機械は慈悲なき怪物の如く、彼女の目の前で伊藤の身体をむさぼり喰らっていた。

深海の水圧のような窯の唸り音を聞きながら、瑠美奈の視界が激しく回転した。顔が扉に向かって真っ直ぐ倒れ込む。熱は先ほどよりもさらに熾烈しれつで、焼かれた皮膚から一筋の白い煙が立ち昇った。

瑠美奈は声なき咆哮を上げた。——夏生!

時空が一瞬だけ凍りついたかのように、彼女の耳に「シュウッ」という音が届いた。それは、骨が極めて短い時間でリン粉へと崩壊していく音だった。

数分後、伊藤の身体は光と電気が交錯する巨大な火の塊の中に、完全に消え去った。

瑠美奈はついにタイル床の上に仰向けに倒れた。それは死人と何ら変わりなかった。

*

眩い白光は次第に弱まり、オレンジ色、橙赤色へと変わり、「ピッ」という音と共に完全に消灯した。

瑠美奈は地面に横たわったまま、指一本動かすことができなかった。身体だけでなく、魂までもが動けなかった。ただ、涙だけが流れ続けていた。

雨はいつの間にか止み、夜風が優しく吹き抜けていった。瑠美奈が瞳を動かすと、火傷した自分の鼻先が視界に入った。そして、あることに気づいた。彼女の「伊藤夏生」は、物理的な意味で完全に消滅したのだ。彼女が名前と顔を与え、新しい命を吹き込んだ伊藤夏生、一生の愛であった人は、虚無へと帰ったのだ。

「あああああ!」 瑠美奈は凄惨せいさんな叫び声を上げた。

空気中には息の詰まるような金属質の臭いが漂っていた。それは、有機分子が1500度の高温で瞬時に分解された後に残る、残酷な残香だった。

窯の放熱による微振動が止まった。最後の一筋の煙が瑠美奈の目の前を通り過ぎ、彼女は手を伸ばして掴もうとしたが、そこには何もなかった。

**

石垣島から戻った後、瑠美奈が病に伏せったと聞き、凛空は心配して、療養所のスタッフに無理を言って自分を運ばせた。彼が再建された桐原邸に戻るのは、これが初めてのことだった。

医師は顔見知りの板垣医師だった。

「瑠美奈はどうしたんだ?」

「凛空様、ご心配なく。お嬢様の問題は主に精神的なものですが、何があったのかと聞いても、決して話そうとしないのです。折よくいらしたのですから、よく話し合ってみてください。」

*

凛空は、これほどまでにやつれた瑠美奈を見たことがなかった。顔は死人のように土気色で、両目は空洞のようだった。

しかし、この悪魔を前にして、彼はどうしても憐れみを覚えることができなかった。「伊藤さんは、なぜ一緒に戻ってこなかったんだ?」

瑠美奈の視線が彼に向いた。一瞬で虚ろな目から氷のように冷たい光へと変わり、凛空はすぐに悟った。彼女はやはり、彼女のままだ。

「どうやら、心配なのは私ではないようね。夏生は永遠の自由を手に入れたわ。当然、もう私についてくる必要はない。」

「どうして君が彼女に自由をやるなんてことがあるんだ!」 凛空は彼女を指差し、その目に怒りの炎を宿した。「彼女も、君に殺されたのか?」

瑠美奈は凄まじい笑い声を上げた。「そうだとしたらどうだというの? 証拠でも出せるかしら?」

「君……この悪魔め!」 凛空は目の前が真っ暗になり、息が詰まりそうになった。

「悪魔? 桐原家で悪魔なのは私一人かしら? あなたたちの誰がそうでないと言えるの?」 瑠美奈はさげすむように彼を見た。

凛空は首を振った。「最後に会った時、伊藤が言っていたよ。もし自分の死で、君に少しでも善意を取り戻させることができるなら、彼女は一分一秒も躊躇わないと。瑠美奈、あんなに君を愛していた人を、二十年も苦しめ、最後に死に追いやるなんて……心は痛まないのか?」

「愛? 彼女はただの奴隷よ。私を愛する資格なんてあるはずがないわ。」

「瑠美奈、世界中を騙せても、自分自身を騙す必要がどこにあるんだ?」

瑠美奈は枕元の水杯を掴んで凛空に投げつけ、ヒステリックに絶叫した。「出て行け!」

水杯は向かいの棚に当たって砕け散った。

凛空はもう何も言わず、車椅子を回して立ち去った。

*

側面の壁にある伊藤の肖像画を見つめ、瑠美奈は怒りに震えて咆哮した。「この卑しい奴隷が、私を裏切るなんて! 誰が死ぬのを許した! 私は許さない! 決して、決して許さないわ!」 彼女は這いつくばりながら画を取り外そうとしたが、衰弱した身体では画の重さに耐えられず、そのまま押し潰されて床に倒れた。

画の下敷きになりながら、彼女は号泣した。

肖像画の中の伊藤の唇にキスしたが、キャンバスの乾いた砂のような感触は、彼女の柔らかな感触ではなかった。口の中に広がる松脂まつやにの臭いも、彼女の吐息の香りではなかった。

あの残酷な女は、死体さえ残してくれなかった。壁に書かれた無数の「愛してる」は、すべて嘘だったのだ。あの嘘で私を油断させ、すべての真実を吐き出させ、その手で私を処刑しようとした。

彼女はすべてを思い出した。

「あの女、私を殺そうとしたのね! ああ!」

瑠美奈は野獣のような咆哮を上げ、涙を激しく流した。「夏生……あなたまで、私を愛してくれないのね……」

それなのに、最期の瞬間、窯の扉越しに、彼女はまだ偽りの「愛してる」を口にしていた。なんて破廉恥な。

*

巨大な肖像画は壁のように重く、どうしても退けることができなかった。瑠美奈は手首のナースコールを押した。数秒後、板垣医師が看護師とメイドを連れて駆けつけ、画を退けた。

瑠美奈はベッドで休むことを拒み、メイドに果物ナイフを持ってこさせた。そして、肖像画の中の伊藤に向かって、力尽きて倒れるまで、数十回も激しく突き刺し続けた。

**

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