感度アップ
山小屋での二日目の夜。夜の静寂が辺りを包んでいた。関森誠と孝は同じ部屋で、早めに床につき、静寂の中に寝息だけが響く。由紀は誠の妻早紀、そして亜魅と部屋を共にしていたが、眠りにつくことができずにいた。
皆が深い眠りについた頃、由紀は孝にテレパシーを送った。微かな脳波の振動が、静寂を切り裂くように孝の意識に触れる。
(起きている?)
孝からの応答はすぐに返ってきた。
(ああ。どうした?)
(そろそろ、ここを出るべきだと思う)
(何かあったのか?)
(うん。あの、鹿児島空港に飛ぶ前に撒いた女の人が、この島に来ているの)
(なぜ、それがわかる?)
(ここに来てから、私の能力が急に向上したみたいで、遠くにいる人の心まで読めるようになったの)
(第三の石の力か?)
(たぶんそう。彼女は危険よ。私のような特殊な能力はないけれど、人間離れした何かを感じる。きっと、私たちの居場所を嗅ぎ付けるわ)
孝はしばらく考え込んだ後、
(わかった。朝になったら、誠さんに石を渡してもらうように説得しよう)
(私が説得してみる)
二人は短い言葉を交わし、意識の繋がりを切った。由紀の胸には、一抹の不安が残った。新たな力の覚醒は、希望であると同時に、予期せぬ危機の前触れでもあった。
翌朝、五人はいつものように食卓を囲んだ。由紀は意を決めて口を開いた。
「そろそろここを出発します」
誠、早紀、亜魅の三人は、驚いた表情を浮かべた。誠が代表して聞き返す。
「もう行くのか? 石は、まだ渡していないが」
「もちろん、石はいただきます。でも、早くしないと危険なの」
「渡すとは言ってない。それに危険とは、どういう事なんだ?」
誠の表情が険しくなった。
「石を狙う者たちが、もうこの島にやって来てます」
「なぜ、それがわかる?」
誠の問いに、由紀は少し躊躇した後、答えた。
「私の能力が、石の影響で急に向上して、遠く離れた人の心まで読めるようになったんです」
「心を読む、だと?」
誠は信じられないといった表情で、軽く首を横に振った。
「まさか…」
「信じられないのは当然です。でも、本当なの。今から、あなたの心を読んでみせます」
由紀はまっすぐ誠を見つめた。