父
関森亜魅に案内され、孝と由紀は山小屋へと足を踏み入れた。
「お父さん、お客さんだよ」
亜魅が元気な声で戸を開けると、二人は後に続いた。
山小屋、というには立派な建物だった。外観は素朴だが、中は広く、居住スペースは二部屋に分かれ、ゆったりとした造りになっている。木の温もりを感じさせる家具や、壁に飾られた島の風景写真などが、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
奥の部屋から、関森誠が現れた。温和な笑顔を浮かべ、二人に近づく。
「由紀ちゃん、大きくなったね。最後に会ったのは、まだ小学生に上がったばかりの頃だったか」
「ええ、朧げながら覚えています」
由紀も笑顔で答えた。
「先程は、申し訳なかった。兄から電話があり、大体の経緯は聞いたよ。念のため、周囲を警戒していたんだ」
誠は頭を下げ、申し訳なさそうに言った。
「いえ、当然のことです」
孝が彼の差し出した手を受け握り返した。
「娘さんは、素晴らしい弓の腕前ですね」
孝がそう言って、手にした矢を示した。
「こいつには素質があるんだ」
誠は誇らしげに言い、隣に立つ亜魅の頭を優しく撫でた。「教えたことをすぐに覚えるからな」
亜魅は少し照れくさそうに頬を染めた。
「亜魅さんは、高校生ですか」
孝が尋ねた。平日の昼間であり、本来なら学校にいる時間だ。
「はい。通信制の高校に通っています」
亜魅が答えた。
「月に四、五回ほど登校するだけなので、その分、弓の練習に時間を費やせるんです」
「なるほど、それで、あれほどの腕前なんですね」
孝が納得したように頷いた。
ひとしきり会話が弾んだ後、誠が真剣な表情になった。
「兄の話では、由紀ちゃんが四石を受け継ぐことになったそうだが… 私は、すぐに『はい、そうですか』とは言えない性分でね。自分の目でしっかりと確認しないと、納得できないんだ」
「当然です。どのようなことで、確認されるのですか」
孝が静かに尋ねた。
誠は少しの間、考え込むように沈黙した後、口を開いた。
「具体的に、何をすればいいのか、まだはっきりとは決めていないんだ。だから、しばらくここにいてもらえないだろうか。狭いと思うが」
孝と由紀は顔を見合わせた。自分たちの使命は、そんなにゆっくりと時間をかけていられるものではない。しかし、すでに由紀が第三の石のありかを特定している今、強引に奪うわけにもいかない。
二人はテレパシーで 相談し、孝が穏やかに答えた。
「わかりました。しばらく、お世話になります」