少女
「警告していたはず。今度動いたら、反対の肩を射抜くわ!」
少女はなおも弓を構え、強い口調で叫んだ。
「待って。あなたは、関森亜魅さんでしょう?」
と関森由紀が叫ぶ。
その言葉に、少女の動きが一瞬止まる。彼女の瞳に、明らかな動揺が走った。
「なぜ、私の名前を…?」
亜魅は戸惑いを隠せないまま、声を震わせた。孝と由紀、そして亜魅。三人は初対面だった。由紀と亜魅の親同士は遠く離れて暮らし、親戚付き合いもほとんどない。従姉妹同士の二人が出会う機会など、今まで一度もなかったのだ。
「私は関森由紀よ。何となく、そうじゃないかと、思ったの」
由紀は心を読んだとは言えなかった。いきなり言っても、信じてもらえないだろう。
「じゃあ、関森由紀だと証明出来るものある?」
「運転免許証があるわ」
「わかった。免許証を取り出して」
由紀は背中のサックを降ろして、免許証を取り出した。
「免許証を持ったら、両手をあげて、ゆっくりとこっちに来て」
亜魅はなおも矢先を由紀に向けたまま、冷静に指示を出した。
由紀は言われた通りに、ゆっくりと歩き出した。彼女の心臓は、緊張と安堵がないまぜになった感情で激しく鼓動していた。
三メートルほどまで近づいたところで、亜魅が声を上げた。「そこで止まって、回れ右をして」
由紀が言われた通りにすると、背後から足音が近づいてきた。亜魅が由紀の背後から免許証を受け取り、注意深く確認する。
「間違ないようね。こっちを向いて」
由紀が再び向き直ると、そこには、弓を下ろし、はにかむように笑う亜魅がいた。先程までの鋭い眼光は消え、あどけない少女の笑顔がそこにあった。
「手を降ろして。由紀お姉さん」
笑顔がくもり、少し泣き顔になる。
「ごめんなさい。ここを守るのが、私の役目だったから。連れの人は大丈夫かな?」
由紀が振り返ると、孝が平然とした様子で立っていた。肩には深い傷跡が残っていたが、すでに血は止まり、驚くべき速さで回復している。
「こちらは、青島孝さん。四石を一緒に探してるの」
由紀が孝を紹介すると、亜魅は目を丸くして孝を見つめた。
「なんか、すごい回復力。驚き」
「青島孝さんは、既に四つの石の内、抗石と智石を手にいれてる」
「だから、回復力が早いんだ。でも、なぜ関森亜魅だと思ったの」
「信じてもらえるかどうか分からないけど、私には、人の心を読む能力があるの」
「心を?」
「そう。悪いけど読ませて、もらったわ」
「なんか、それって、嫌だな」
「今は何もしてないわ」
「話の途中で悪いが、君の弓の腕はかなりのものだな」
と、孝が静かに口を開いた。その言葉に、亜魅は誇らしげに胸を張った。
「それは、先生がいいから」
「先生、か…」 孝が興味深そうに尋ねる。「君の先生とは、誰なんだ?」
「私の、お父さんよ」