奪取一.
その車は、どこにでもある平凡な2tトラックだった。荷台にはブルーシートがかけられた大きな荷物が載せられ、無線用のものと思われる長いアンテナが不自然にはみ出している。しかし、そのアンテナこそが、他の三台のトラックと接続され、人間の「間引き」を行うための特殊な空間を作り出す、重要な役割を担っていた。
トラックの運転席と助手席には、二人の男が座っていた。そこに二人の男女が現れた。
「…!」
運転席の男が、隣の男に何か言おうと口を開いた瞬間、体が金縛りにあったように動かなくなった。声も出ない。彼は、一体何が起こったのか理解できなかった。
助手席の男は、相棒の異変に気づくことなく、ドアを開けて外へ出ようとした。しかし、ドアを開けようとした目の前に、信じられないほど美しい女性が立っていた。彼は、その美しさに一瞬心を奪われ、言葉を失った。
女性は、優しく微笑むと、男の目の前に手をかざした。次の瞬間、眩いばかりの光が迸り、男は目に焼き付くような激痛を感じた。
「ギャッ!」
男は悲鳴を上げ、両手で必死に目を押さえた。
「大丈夫か?」
運転席の男が、まるで別人のように、抑揚のない声で尋ねた。
助手席の男は両手で目を覆ったまま運転席の男の方を向くと、運転席の男はすでに窓を開け、手錠を手にしていた。そして、彼の両手首に手際よく手錠をかけた。
「一体、何をしたんだ…?」
助手席の男は、目の痛みと混乱の中で、必死に問いかけた。
運転席の男は、無言で助手席の男の上着を探り、拳銃を取り出すと、車の横に立っていた中原に手渡した。そして、自分の拳銃も中原に渡すと、おとなしく両腕を差し出し、手錠をかけられた。
「可哀想なことをしたわね。そのままだと、かなりの視力低下になるから、元に戻してあげる」
神山明衣は、そう言うと、助手席の男の目の前に手をかざした。
「目を押さえている手を離しなさい。すぐに治してあげるから」
「そんなこと言われても、簡単に信用できるわけないだろ…」
男は、まだ疑いの目を向けていた。
「そう。じゃあ、そのままにしておくわ。不便だと思うけど、私はもう行くから」
神山明衣が言いかけると、
男は慌てて、
「待ってくれ! やっぱり、お願いする…! 頼むから、治してくれ…!」
その口調は、もはや哀願に近かった。
「わかったから、手を離して。すぐに治してあげるから」
神山明衣が優しく諭すと、男は恐る恐る手を離した。その瞬間、彼女の瞳がオレンジ色に輝き、手のひらから、先ほどの強烈な光とは全く異なる、温かく優しい光があふれ出した。彼女はその光を、男の目にゆっくりと当てた。
程なくして、治療は終わった。助手席の男が目を開けると、痛みは消え、視力も完全に回復していた。
「あ… 見える…! 痛みもない…! まるで、魔法みたいだ…!」
男は、自分の目が治ったことに驚き、感動していた。
「あんた達は何者だ?警察だということは分かるが、変わった事をしやがる。こいつはどうしたんだ?」
手錠をかけている運転席の男を指差した。
「こいつが俺に手錠をかけたみたいだが」
彼は、手錠をかけられた相棒を指差し、混乱した様子で尋ねた。
「彼は、操られていただけよ。相棒にね」
神山明衣は、そう言うと、顎で中原の方をしゃくってみせた。