進言
中原は、ホテルのベッドの中で目を覚ました。昨夜は疲れ果てて倒れ込むように眠ったが、今朝は信じられないほどすっきりと目覚めていた。彼はゆっくりと起き上がり、しばらくの間、静かに座っていた。
一見すると、それは瞑想している姿に見えた。しかし、実際には、中原は意識を飛ばし、アーク基地内にいる複数の人物の記憶を深く探っていた。
彼らの脳内に蓄積された情報を読み取り、アークが実行しようとしている恐るべき計画を把握するためだ。それは、神経をすり減らすような作業だったが、彼は諦めなかった。
やがて、中原の口元に微かな笑みが浮かんだ。必要な情報をすべて手に入れた彼は、ゆっくりと目を開き、すぐに腕時計に仕込まれた超小型通信機を起動させ、神山室長に連絡した。この通信機は、人工衛星を介して、世界中のどこにいても連絡を可能にする特殊な装置だ。
「室長、アークが人間を『間引き』するために使用している機械について、詳細が判明しました。それは、四台のトラックの荷台にそれぞれ設置されており、目標とする地点の四隅に移動した後、同時に作動させるようです。つまり、一台でも奪えば、『間引き』は実行できなくなると思われます。アークの基地に乗り込むよりも、はるかに簡単なはずです。まず、この機械を奪取することを提案します」
中原は、冷静な口調で、早口に説明した。
通信機の向こうで、神山室長が少しの間、沈黙した後、低い声で答えた。
「わかった。明衣と合流して、すぐに向かう」
間もなく、中原の部屋のドアをノックする音が響き、カチッとドアロックが解除された。中原がドアを開けるよりも早く、神山室長と神山明衣が部屋に足を踏み入れた。
「早かったですね」
中原が声をかけると、神山室長は真剣な眼差しで頷いた。
「ああ、一刻も早くアークの動きを止めないといけないからな。アークの動向は?」
「はい。私が意識探索を行った結果、アークは間引きを実行するために、八人を乗せた四台のトラックを仙台に向けて出発させようとしています。どうやら、前回人間が消失した事件は、本格的な間引き実行前の実験だったようです」
「仙台で、いきなり大量の人間を間引きするつもりか…? 一刻の猶予もない。すぐに出発するぞ」
神山室長の言葉に、神山明衣が元気よく手を挙げた。「移動手段はどうする? 今日は快晴だし、私のパワーも絶好調よ!」
「では、移動に一番時間がかからない、明衣に頼むとしようか」
神山室長は、そう言うと、明衣に視線を送った。
「了解!」
神山明衣は頷き、二人の手を掴むと、窓際に歩いていき差し込む陽光を浴びながら、彼女は深呼吸をする。そして、次の瞬間、三人の姿は、眩い光と共に消え去った。
それは、空間を跳躍する、驚異的な瞬間移動だった。