攻防一.
アークの新基地は、中原諒二の活躍によって、その場所が既に特定されていた。
今回の突入作戦には、前回と同じ精鋭部隊と機動部隊が投入されたが、神山明衣の姿はそこにはなかった。
松原隊長は、今回先陣ではなかった。後方にいて、動向を見守り、状況によって行動が決まる。前回は、神山明衣に同行したが、今回は同行してないので、士気があがらない。しかし、先陣が全滅したとの連絡が入った時は、緊張感が高まり、士気があがるとか、あがらないとかの問題は無くなった。
突入開始からわずか10分。すでに、味方の精鋭部隊と機動部隊は、その半数を失っていた。
アークの新基地は、もはや要塞と呼ぶべきものだった。地球上の技術では開発されていないはずの、強力なレーザー砲が配備されている。作戦の陣頭指揮を執るのは、三宅副支部長だ。
「敵をロックオンしました」
レーザー砲を操作する砲撃手が、冷静な声で報告する。基地には、6基のレーザー砲が設置されており、自動追尾システムによって、複数の目標を同時に捕捉、攻撃することが可能だ。事前にコンピュータに登録された情報を元に、最大6個体を識別し、6連射を行うことができる。その威力は、対戦車兵器としても十分な破壊力を持つが、相手が人間である場合は、出力を調整して使用する。
「連射開始!」
三宅副支部長が冷酷な声で命じた。
レーザー砲がその威力を見せつけ始めた。光の筋が敵を正確に捉え、その体の一部を抉り取り、炭化させていく。悲鳴を上げる暇もなく、兵士たちは次々と倒れていった。
「オペレーター、次のターゲットを早く識別しろ! もたもたするな!」
三宅副支部長の怒号が響き渡る。
精鋭部隊と機動部隊は、アークの圧倒的な火力に押され、あっという間に戦闘能力を半減させられた。もはや、後退するしかない状況だった。
「次の発射は待て」
三宅副支部長は、突然そう命じた。
「奴らは、林の中に隠れた。木ごと撃ち抜くことも可能だが、無駄な破壊はしたくない。少しでも、環境への影響は抑えるべきだ」
その時、部屋に夏目が現れた。
「来たか。ちょうどいい。ここを任せる。私は今から出る。誤射だけは勘弁してくれ。いくら私でも、あのレーザー砲をまともに食らえば、ただでは済まないからな」
「承知しました」
夏目が冷静に答えると、三宅副支部長は足早に部屋を出て行った。
基地の外では、精鋭部隊と機動部隊の兵士たちが、次々と倒れていった。すでに撤退命令が出されており、彼らはアークから4km離れた本部を目指して、必死に後退していた。しかし、松原隊長の部隊だけは、なぜか本部に向かう道から外れていた。
「隊長、本部へ向かう道から外れていますが…?」
隊員の一人が、不安そうな表情で尋ねた。
「本部へは向かわん。嫌なら、勝手に本部へ行っても構わないぞ」
松原隊長は、そう言い放った。
「いえ、我々は隊長についていきます。今まで何度も、隊長の直感に救われてきました。危険回避の超能力があると、皆信じていますから」
他の隊員たちも、無言で頷いた。彼らは、松原隊長の不思議な力を、何度も目の当たりにしてきた。彼の直感は、常に彼らを安全な場所へと導いてきたのだ。
松原隊長の部隊は、本部の手前で90度左に折れ、深い山中へと姿を消した。