現場二.
現場に到着した中原諒二は、すぐに調査を開始した。彼の表情には、疲労の色が濃く出ていたが、それでも、この異常な事件を解決しなければならないという使命感が、彼を突き動かしていた。
まだ宵の口という時間帯にもかかわらず、現場はひっそりと静まり返っていた。あたりにいるのは、警察関係者ばかり。それでも、時間が経つにつれて、関係者の数は徐々に増え始め、中には警察犬を連れた者もいた。
中原諒二は首をひねっていた。残留思念を読むがなにがあったかまったく掴めない。一度に3000人も消失したのだ。誰かの思念がわかってもいいはずだ。ほんの一瞬で行われたものに違いない。考える暇もなかったのだ。どこに行ったのか、痕跡が掴めない。やったのは、アークの仕業ではないかと思うだけだ。
彼は、苛立ちと焦燥感を隠せないまま、近くに佇む神山室長に歩み寄った。
「申し訳ありません、室長… 消失した人たちが、どこへ行ったのか… 全く分かりません…アークに乗り込んだ方が手っ取り早いです」
中原諒二は無言で側に佇んでいた神山室長に進言した。
「そうか…もういい。休んでくれ」
神山は、彼の肩に手を置き、労わるように言った。
中原は、力なく頷くと、ふらつく足取りで現場を後にした。迎えの警官が、彼を待つ車へと案内し、宿泊予定のホテルまで送り届けた。
中原が去った後、30分ほどして神山明衣が現場に到着した。現場は小さな街で、こじんまりとした商店街があり、神山一輝はその一角に佇んでいた。
「早かったな」
神山明衣がやってくると、神山一輝は抑揚のない調子で話しかけた。
「安全運転で、すっ飛ばしてきたよ」
と、神山明衣はウインクしてみせた。
「お前の安全運転は、一般の人が見たら、危険運転だ。警察組織にいるんだ。謹んでくれ。ところで、何か掴んだか?」
神山明衣は軽く首を横に振った。
「透視してもこれといったものが見つからない」
「そうか、無駄だったか」
「これだけの事をやれるのはアークじゃないかな」
その時、近藤対策本部長がどこからともなく現われた。各部署からの報告と指示に忙しいのであろう。やつれた顔であった。その顔を見ながら神山一輝が尋ねた。
「どうです?何か分かりましたか?」
期待を込めた、言葉である。
「残念ながら、収穫はありません」
「そうですか…」
近藤対策本部長はがっくりと肩を落とし、低い声で、
「マスコミを抑えるのは今夜までが限界です。明日には、全国に報道されます」
「アークに乗り込むしかないようですね」
「それなら今頃、突入してます」
「えっ!それは危険です」
「大丈夫でしょう。選りすぐりの者達ですから」
「こんな事を言っては信じてもらえないかもしれませんが、アークには、人知を超える何かがあります」
「間もなく良い報告が入ると思います。心配無用です」