現場一.
神山一輝は、近藤対策本部長の案内で、消失事件の現場へと足を踏み入れた。
「今回の事件で最も奇妙なのは、消失範囲が4km四方に及ぶ広範囲であるにもかかわらず、消えたのは人間だけで、他の動植物など他の物質は無事だということです。そして、消失範囲の内と外が、まるで結界のように、はっきりと分かれている点です」
近藤は疲れた表情で、そう説明した。
「はっきり、ですか?」
神山は眉をひそめた。
「ええ。消失範囲の境界線上にいた者は、まるで何か鋭利な刃物で切断されたように、真っ二つになっているんです。外側には、その半分の遺体が残されています」
「なるほど…」
神山は、言葉少なに頷いた。
「遺体をご覧になりますか?」
近藤が尋ねると、神山は少し考えてから答えた。
「ええ、お願いします」
案内された場所には、ブルーシートで覆われた三つの遺体があった。シートを剥がすと、それは目を覆いたくなるような凄惨な光景だった。三体の遺体は、いずれも真っ二つに切断され、断面は信じられないほど滑らかだった。
神山は、しゃがみこんで、その断面をじっと見つめた。まるで、ミクロの刃で細胞一つ一つを切り離したかのような、完璧な切り口。彼はゆっくりと立ち上がり、眉を寄せ、何か納得できないといった表情を浮かべた。
「見事な切り口だ…」
彼は呟いた。
「まるで、一刀両断されたようだが、これは… 人間の業ではない。切り口が、あまりにも綺麗すぎる」
一方、その頃、中原諒二と神山明衣は、別行動で青島孝、関森由紀、そしてアークの動向を追っていた。そんな中、神山室長から至急合流するようにとの連絡が入った。
二人は連泊していたホテルに戻り、慌ただしく支度を済ませ、フロントでチェックアウトを済ませた。
外は次第に暮れかかっていた。中原は残念で仕方がなかった。アークの新しい基地を見つけ、中の状況を探っていたのだが、どうしても、指示命令を下す、責任者が分からなかったからだ。一人一人の思考を読み取っていったが、どうしても読めない者が二人いた。テレパシーのバリアを張っているわけではない。人間かどうかさえ自信がない。何かが違うのだ。そんな事を考えていたら、神山明衣の運転する車は、人里離れた山中に止まった。
中原だけが外に降り立つ。そして、手を振り別れを告げると、車は走り去った。
中原は精神を集中し、体の周りにバリアを張り冷たく吹きすさぶ、外気から身を守ると、空中浮遊を始めた。そして、方角を確認し、移動を始めた。
車で一緒に行っても良かったのだが、室長から急いで来るようにと言われていた。
中原は空中浮遊で移動している。そんなにスピードを出せるわけではない。それでも楽に時速250km位は出せる。もちろん車で移動するよりは早い。しかし、多くのエネルギーを消耗するのがいやだった。