目覚め
林田未結は、深い昏睡からゆっくりと意識を取り戻した。最初に視界に飛び込んできたのは、見慣れた桐生明の顔だった。ぼやけていた意識が徐々に鮮明になり、身体の感覚も急速に回復していく。
「目が覚めましたか」
桐生明は安堵した表情で、彼女に話しかけた。
「何かあったな…?」
林田未結は、掠れた声で問い返した。
「色々とありました。あなたが囚われて、関森由紀の両親と人質交換することにもなりました」
「まさか… 連中と、私を交換したって言うのか?」
林田未結は驚愕の表情を浮かべた。
「司令官のあなたがいなければ、俺たちだけでは、この状況を打開することができません」
桐生明は自嘲気味に肩を竦めた。
林田未結は軽く笑みを浮かべ
「どうしようもない時は、降りなさい。もう、アークを抜けたのだから、責任はないよ」
「しかし、このままアークを放置するわけにはいきません。生き延びたとしても、地獄が待っている。連中は、必ず俺たちを抹殺しようとします」
桐生明の表情は、暗く沈んでいた。
「それもそうね…」
林田未結は、彼の言葉に同意しかけたが、すぐにいつもの獰猛な笑みを浮かべた。
「まぁ、いいわ。しかし、よくもこの私を人質交換のダシにしたな。青島孝と関森由紀のあとを追うよ」
「だが、それは難しいと思います」
桐生明は、歯切れの悪い口調で言った。
「なぜだ?」
林田未結は、眉をひそめた。
「関森由紀のサイキック能力が、桁違いに向上しています。俺たちの動きは、すべて筒抜けです。あなたが強化人間で、異次元の地球から来たこと、そして、俺たちがアークを抜けたことまで、彼女はすべて知っていました。おそらく、今も遠くから、俺たちの動きを監視しているはずです」
「なに…? 化け物じみた能力じゃないか…」
林田未結の表情が、一瞬歪んだが、すぐにいつもの好戦的な笑みに変わった。
「構わないさ。その方がいい。返り討ちにするには、ちょうどいい」
「そういえば、青島孝が言っていました。『アークのことは、自分に任せておけ』と」
桐生明は、思い出したように言った。
「四石の力を手に入れて、アークをどうにかするつもりだろうか…」
林田未結は、遠くを見つめるような目で呟いた。「連中が、アークの何を知っているのか知らないが、簡単なことではない。だが… まあいい。好きにさせておこう」
彼女はそう言うと、勢いよくベッドから起き上がった。その動きは、先程まで衰弱していたとは思えないほど、力強かった。
「それより、青島孝と関森由紀がその後、どこへ行ったのかわかるか?」
「いや、それが… 全く消息が掴めません」
桐生明は、申し訳なさそうに首を横に振った。
「そうか…」
林田未結は、少し考え込んだ後、不敵な笑みを浮かべた。
「ならば、次の手段を考えるしかないな」
彼女の瞳には、新たな獲物を狙う獣のような、鋭い光が宿っていた。