東京
その家は、三階建ての鉄筋コンクリート造りの邸宅だった。高い塀が周囲を取り囲み、重厚な門扉が閉ざされている。昼間でもひっそりとした雰囲気を漂わせ、近づく者を拒絶するかのような威圧感を放っていた。
少し前から、邸宅の近くに一台の白いセダンが静かに停まっていた。運転席には痩身の女性が、助手席にはがっしりとした体躯の男性が座り、邸宅をじっと見つめている。女性の名は林田未結、男性は桐生明。彼らは、関森誠から得た情報をもとに、青島孝と関森由紀を追ってきたのだ。
三階建の家は、青島孝の父が所有している家だ。
邸宅の中では、いつもよりも多くの警備員が配置され、緊張感が張り詰めていた。それは、尋常ならざる者の侵入に備えての態勢だった。
「油断するな。相手は人間の姿をした虎だと思え」
会長、すなわち青島孝の父は、警備員たちに何度も言い聞かせていた。孝から事情を聞いた当初は半信半疑だったが、関森由紀の驚異的な能力を目の当たりにし、彼は考えを改めた。並みの人間では太刀打ちできない敵が、すぐそこまで迫っているのだ。
夜中の二時。交代制で警備は続けられていたが、厳重な警戒態勢が敷かれてから、すでに三日が経過していた。何も起こらない時間が続くにつれて、警備員たちの緊張感も薄れ始めていた。「本当にこんな化け物が現れるのか…?」「もしかしたら、会長の勘違いだったのでは…?」そんな疑念が、彼らの心に静かに芽生え始めていた。
その時、一人の影が、邸宅の敷地内に侵入していた。林田未結は、巧みな身のこなしでセキュリティセンサーの網をくぐり抜け、音もなく屋内に潜入した。彼女の動きは、まるで獲物を狙う獣のように、静かで、そして速かった。
彼女は慎重に各部屋を調べ、やがて微かな話し声が聞こえる部屋を見つけた。しかし、その時だった。廊下の角を曲がって、三人の警備員がこちらに向かってくるのが見えた。距離はわずか十メートル。林田未結は動いた。