7.認識改変・祭典論理
時間を少し巻き戻そう。
ラファエルが星になり、アレクシアたちが絶叫した直後の校門前である。
呆然とする生徒たちの前で、イースランは覚醒した。このままでは「皇女が生徒を爆殺した」という事実が残り、アレクシアの学園生活(とイースランの平穏)が終わる。彼は残った魔力を総動員し、広範囲に術式を展開した。因果の異なる術式を、煉瓦のごとくに組み合わせる。一つ一つは単純な「命令」だ。
――だが。
タイミングをずらす。複数回続ける。是とした直後に否定する。
ありとあらゆる術式の組み合わせをスパークさせ、通常では起こりえない事象を手繰り寄せる!
『―― 認識改変・祭典論理!!』
瞬間、校門前が極彩色のイルミネーションに彩られる。その幻光を見た生徒たちの目が一瞬虚ろになり、直後に焦点が戻る。彼らの表情が次々に紅潮していく。
―― それは、広範囲の対象者の認識を「強引にめでたい方向へねじ曲げる」という、国宝級の隠蔽魔術の無駄遣いだった。咄嗟に術式を組み上げえて展開したイースランを魔塔の長が見たら、「ここに帝国の至宝は極まれり」と称賛したかもしれない。
ネーミングセンスだけは如何ともしがたかったが……。
「……あ、あれ? 今の爆発……」
「すげえ……今の、花火か?」
「皇女殿下が、僕らのために……?」
「なんて粋な演出なんだ! ラファエル君が飛んでいく演出もリアルだったな!」
飛んでいく演出ってなんだよ。
どこからか聞こえてくるツッコミもむなしく、生徒たちの脳内で、「凄惨な事故」が「ダイナミックな入学祝い」へと書き換えられていく。 イースランは膝から崩れ落ちそうになるのを堪え、脂汗を流しながら、荒い呼吸を整えた。
「……よし。なんとかなった……」
なっていない。だが、この場は一旦これでいい。 彼は震える足で、未だ茨の檻に囚われているピンク色の物体へと歩み寄った。
「おい。大丈夫か」
イースランが指を鳴らすと、茨がシュルシュルとほどけ、”物体”が解放された。その体は半透明な極彩色の粘膜に包まれており、ボカシの粗すぎる昭和のモザイクのようだった。加えて未だにしゅうしゅうと白い煙を上げている。彼女(…?)は腰が抜けて立てないようで、涙目でガタガタと震えている。
「あ、あ、あ……」
「怪我はないな? ……いいか、今のは花火だ。わかったな?」
イースランの必死な声に、物体?はコクコクと首を縦に振った。 そこへ、アレクシアが無表情で駆け寄ってくる。
「ごきげんよう! びっくりさせてごめんなさいね? 私の『花火』、いかがでしたか?」
悪魔の問いかけである。
物体?は引きつった笑いを絞り出し、蚊の鳴くような声で答えた。
「と、とてモ……綺麗デシタ……ハイ……」
こうして、校門前の惨劇は、筆頭魔術師の斜め上の出力によって、なんとか事なきを得たのである。得てはいないけど。これって哲学的だと思いませんか?(錯乱)
◇◇◇
放課後。ホームルームが終わるや否や、アレクシアはイースランにずい、と詰め寄った。
「イースラン!わたくし、ラファエル様に謝りにいかなければ!」
「……そうですね」
「先生のお話では、保健室に運ばれたとの事ですの。まさか、お怪我をされてしまったのでは……」
まさかじゃねえよ。
アレクシアは心配そうに眉を下げたが、イースランは遠い目をした。
まさかじゃねえんだよと言いたい。圧倒的重症と言いたい。物理的に吹き飛ばしてお空の星にしたのを、お前は忘れたのかと問い詰めたい。アレクシアであればケロっとしているだろうが、一般人は粉みじんになると激詰めしたい。
―― ラファエルが全治三日の全身打撲で済んだのは、イースランが咄嗟に防御結界を張ったからである。そうでなければ、彼は今頃星屑になって宇宙を漂っていたことだろう。
「……で、どうすんですか」
「お見舞いに行きますわ! 私のせいでお怪我をされたのなら、きちんと謝罪をして、誠意を見せなくては!」
アレクシアの瞳に『善意』の炎が燃え上がる。イースランは嫌な予感がした。彼女の『誠意』や『善意』が、ロクな結果を生んだためしがないのを彼は良く知っている。だが、ここで止めても彼女は勝手に行くだろう。ならば、監視役として同行し、被害を最小限に食い止めるしかない。
「……わかりました。行きましょう。ただし、手土産に変なものは持っていかないように」
「もちろんですわ! 私、とびっきりの『誠意』をご用意しますもの!
アレクシアは自信満々に胸を張った。その時のイースランは、まだ知らなかったのだ。 彼女の言う「誠意」が、一体何を意味しているのかを……。
こうして二人は、哀れな被害者が待つ保健室へと足を踏み入れることになる。
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