6.皇女の反省、従者の牽制
「――で?」
重厚なオーク材の机が並ぶ、学園の職員室。
その一角で、鬼の形相をした生徒指導主任、ラインハルトが腕を組んで仁王立ちしていた。騎士団を辞してからは学園に籍を移し、未来の守護者たちを育成している、ゲオルギウスの覚えもめでたい元軍人である。
視線の先には、ちょこんと正座をする二人の新入生の姿があった。
一人は、無表情のままえぐえぐとべそをかいている美少女。
もう一人は、「不満があります」という顔を隠そうともしない貧相な少年である。
――今頃、講堂では入学式が行われているはずだ。だがこの二人、あまりにも危険。
教師たちの阿吽の呼吸によって、彼らは速やかに職員室へと連行されたのであった。
「申し開きがあるなら聞こう。入学初日、校門到着からわずか五分で『対城塞級』の魔力爆発を観測させた理由を」
ラインハルトの声は低く、地を這うような威圧感があった。アレクシアは上目遣いで、もじもじと指を合わせる。
「あの……あれは、その……感極まったといいますか……」
「新入生へのご挨拶代わりの祝砲でございます」
横からイースランが即答した。顔色は土気色だが、声だけはやたらとハキハキとしていた。
「祝砲」
「はい。我が国の輝ける未来を担う学友たちへ、殿下からのサプライズです」
「人が一人、空の彼方に飛んで行ったが?」
「打ち上げ花火の演出です」
「校門前の地面がクレーターになっていたが?」
「芸術は爆発だからです」
イースランの益体もない言い訳が炸裂した。
ラインハルトのこめかみに青筋がピキリと浮かぶ。
彼は大きなため息をつくと、雷のような大音声で怒鳴った。
「ふざけるなッ!! 生徒は騙せても、我々の目は誤魔化せんぞ!!」
「ひぃっ!!」
アレクシアはビクゥッ!と肩を震わせて縮こまった。最強の皇女も、生徒指導の先生の前ではただの一生徒に過ぎなかった。
ただしイースランは違う。今にも干し首をつなげた首飾りを作り出しそうな雰囲気を醸し出しながら、ふてぶてしい態度で横を向いている。当たり前と言えば当たり前だ。彼は帝国の至宝、まごう事なき筆頭魔術師、そしてもういい年の成人男性なのである。
いい年をした成人男性が校門前で魔力を暴発させるか……?という問いはさておこう。
「……ハァ。まあいい。ラファエルは幸い、イースラン、君が咄嗟に張った防壁のおかげで軽傷(?)で済んだようだ。校門の修復も君がやったそうだな」
「はあ。一瞬で直せますからね、あんなもんは」
嘯くイースランにラインハルトの沸点が臨界点を超えそうになる。
「普通、ラファエルの素性を聞いたりしないか?そこは」
「はあ。じゃあ、ラファエルってのは誰なんです」
「―― 紅玉クラス、二学年のホープだッ!天凛を得た誠の騎士と称される!それを!貴様らは!!花火もかくやと打ち上げて、怪我を負わせたのだ!!」
びりびりと大気が震えるようなラインハルトの叱責に、アレクシアが涙目で謝罪する。
「ラインハルト先生、申し訳ございませんでした!!わたくしの不徳の致すところで――……!」
「…………」
本当にそうなんだよなあ?とは、さしものラインハルトも言えなかった。
ごほごほ、と誤魔化すように咳ばらいをすると、がっくりと肩を落とす。
「今回は不問にする。だが次は無いぞ。……アレクシア様も、魔力の暴走にはくれぐれもお気をつけください。あなたの力は、規格外中の規格外なのです。常人には恐るべき力なのですよ。それをお忘れなきように」
「は、はいぃ……。ごめんなさい……」
しょんぼりと肩を落とすアレクシア。見た目から受ける印象とは真逆の姿に、ラインハルトは頭を抱えた。初日からこれだ。この先三年間、一体どれだけのハプニング(と書いて”厄災”と読む)が起こるのだろうか。そもそも、生きてこの戦乱を乗り切れるか。ラインハルトの戦いはまだ始まったばかりなのだ。
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