21.爆誕!死霊の王
「……………」
イースランは立ったまま気絶しかけた。
怒りのあまり我を忘れていたが、彼は十五歳に擬態していたのだ。
気づいた時には後の祭りである。パーフェクト・アフター・フェスティバルだ。
(どいつもこいつも、見たことのねえような表情で固まってやがる。劇画調過ぎるだろ……)
イースランの誤算は、思ったよりも魔力を使用していたことだ。全てを隠匿するにはぎりぎり足りない程度の魔力量しかない。シグルドの目が輝く。
「何、お前。もしかして、誤魔化し方とか考えてなかったわけ?え?反射で戦ったって事?」
「―― 元はと言えばてめえの所為だろうがァァァッ!!」
「プークスクス!!八つ当たりしてんじゃねえよ、なァ?アレクシ――」
シグルドの口が、「ア」のまま固定された。瞬間、その目が驚愕に開かれる。
その視線の先。妙に大人しかったアレクシアが、何をしていたかと言うと。
術式を組んでいたのである。イースランはその術式をよく知っていた。そう、それは――
「アレックス!!やめ ―――― 」
「えいっ!!」
アレクシアが両手をかざした瞬間。
『ちゅどーん!』という、何かの冗談のような音が爆音で響き、リフレインしながら消えていく。砂埃が濛々と立ち込め、一同の姿を覆い隠した。
◇◇◇
さて、時は少しだけ遡る。
怪獣大決戦に度肝を抜かれていたラファエルだったが、はっと気が付いてアレクシアを見やる。だが、彼女は『いけ~~~~!!そこですわ~~~~!!』とエキサイティングしているばかりだった。
「ア、アレックス殿下、少々まずいのではないでしょうか?」
「え?まずい?何故ですの?」
「イースラン殿です。彼はその、殿下をお守りするために、仮の姿でいらっしゃるんですよね?」
「ええ、そうですわ。――はっ! そ、そうでしたわ!!」
超エキサイティングな世紀の戦いに見とれていたが、今の状況はイースランにとってはかなりまずいものである。
ラファエルは、先日剣を賜ったときに事情を聞かされていた。「お友達」であるならば、これからも行動を共にすることもある。ラファエルには教えておいた方がいいだろう、という判断だった。勿論、口外しないと信用してくれた事は、ラファエルにとってはこの上ない名誉でもあった。
だが、この状況は想定外だ。
「どっどっどっどうしましょう!?もう、皆さん、『この試合の事を毎晩夢に見て魘される』ぐらいのお顔をなさってますわ!!」
「そうですね…… この状況から入れる保険はもう無いかもしれないですね……」
「そんな……!!イースランと一緒にいられなくなってしまったら、わたくし、どうすれば……!! 」
その台詞にラファエルの胸はちくりと傷んだが、顎に指をあてて考え込む。
「…… その、俺を校門前で吹っ飛ばした時の事ですが」
「ひん……」
アレクシアが悲し気な空気を纏う。
「あ、いえ!殿下を責めている訳では!そうではなくて、隠蔽魔術というのを使用されたんですよね?」
「は、はい!」
「同じ術をお使いになられたりは…… できませんか?」
「ムムム……」
アレクシアは考え込んだ。あれは、「隠蔽魔術」という正式な術式がある訳ではなく、様々な術式を独自に組み合わせる事で事象が誘発されている、きわめて高度な魔術の技なのである。即興であれができるのはイースランぐらいなものだ。
ただ、イースランからは、どのように魔術を展開したのかという話だけは聞いていた。
魔術オタクのイースランである。帰りの馬車の中で話すには良い題材だったのだろう。
「や―― やってみますわ!なんとかしてみせます!イースランの為ですもの……!!」
アレクシアの両腕で、腕輪が仄かに光を帯びた。
アレクシアの魔力は、あまねく「魔術」に愛されている。世界の元型は、アレクシアの魔力に願われれば喜んで力を貸してしまう。だがしかし、それは、完璧とはいかずに斜め上の出力になってしまうのだ。力を行使する時にはきちんとした手順を踏む事。口を酸っぱくしてお母さんに言われていたことを、アレクシアは破ろうとしていた。
イースランが周りの気配に気づき、絶望している。
そして、それを笑いすぎて死にかけながらも煽り倒しているシグルド。
(イースラン、待っていてください…!ここはわたくしが、貴方を助けますわ……!!)
―― そして、アレクシアの善意が、どのような結果を生んだかと言うと。
◇◇◇
エマ・ワルツェンは侯爵令嬢である。ワルツェン侯爵領は絹が多く生産されるため、重要な商業地として注目されている家の一つだ。その高い家格で翡翠クラスに所属している彼女は、今日拝謁したシグルドの雄姿を、熱っぽくメイドに語っていた。
「あのような方はどこにもいらっしゃいませんわ。勇猛で、美しく、荒々しさもあって!でも、とても紳士的なのです。『映像』の中でアレクシア殿下を助け、死霊の王から救い出したところなんか、もう、わたくし……!」
「映像…でございますか?」
「そうなの。何でも、秘密裏に開発されている特別な魔道具をお貸しくださったそうよ。まるで、本当にそこにいるみたいに、幻が出現するの!高位の魔術かと思いましたけれど、炎の槍を出したり、シグルド様がそれを剣で切り払ったり!即席の魔術では、あそこまでの事はできないでしょうね。ストーリーがありましたもの」
「まあ!劇場を、そのまま持ってきたようですね」
「あら、お上手ね。確かにその通りですわ!」
「しかし、死霊の王とは恐ろしゅうございます」
「ええ」
エマは顔をしかめた。貴族令嬢らしからぬ表情ではあるが、それだけ恐怖が大きかったのである。
「はしたないことに、悲鳴を上げてしまいましたのよ。だって、お顔がもう…… 本当に恐ろしくて……!不思議と思い出せませんけれど、あれは死霊の王だったに違いありませんわ!」
激しく震えるエマは、学園でもその話を下位クラスの友人に広めた。
―― 結果としてイースランの秘密は守られた。
だが、『彼こそが死霊の王のモデルである』と言う、更なる不名誉な噂に晒されることになったのだ。
そう。アレクシアの不完全な隠匿魔術は、「イースランの役に立ちたい!」という彼女の願いとは微妙に異なる結果となった。最終的な願いはかなえられたが、その結果は不本意極まりないものという結果になったのである。
噂を聞いたシグルドが、呼吸困難で医療棟の世話になった事は、ラインハルトだけが知っている。
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