表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/18

プロローグ④


【暴かれた嘘・ヴェルト村・パンデモニウム邸】


 山を降りたゴール夫妻は、久方ぶりの村の異変に驚いていた。


 どの家も出入り口を閉め切り、外には人っ子一人歩いていない。これも何らかの悪魔の影響なのか?

「まさかゴーストタウンになった……のかい?」


「はっ、どうだかな。でも生きてる人間の気配は中からするぜ? もしかしたら悪魔野郎の思い付きで、村の人間共の精神もおかしくしたのかもな」


 村を闊歩する二人の姿は、いつもの作業着ではない。

 白銀の騎士鎧に身を包み、片手には銀色の槍を持っている。二人とも全身鎧で、その装備の各所には機力的機械装置が取り付けられ、このシュディアーでは異質の戦士となっていた。


 やがて二人の白銀騎士は、村長の住まう『屋敷』の前に辿り着く。

「は、田舎に似合わねー。何だぜこの悪趣味な金ぴか屋敷は」



 その建物だけ周囲の家々とは別世界のような、豪奢な金色の屋敷だった。

 所々に梟の装飾が施され、これが何者の趣向なのか頷ける。

 そして家の周りに飾られたオブジェに、ギデオーズは兜の内で冷や汗を垂らした。


「これが英雄の力を得た代償か……。ベネト少佐は悪魔の影響なのか、突然村人にこの豪邸を建てさせたり、貢物を要求したり、横暴になっていったらしいからね。


 最初は村の英雄だからといって従ってきた村人も、死人が出たことで手の平を返した。勇者を村から追い出す話になったそうだけど……彼に逆らう者達はこうなったわけだ」



 人間だった。金にされた人間達が置かれていたのだ。

 金の人形オブジェの表情は皆、恐怖や苦しみに引きつっている。


 こんな火葬か土葬でもない、死体その物を墓とした殺人では、死者は勿論残された生者達の魂もまた、休まるまい。


「下界のことを放っておいた罰なのかもしれない。逃げ延びた先で君と出逢い、一緒に狭い世界で生きていければ、それで良いと思っていた。


 しかし息子に選択肢を与えるべきだと学校に行かせ、あの子は心を閉ざし掛けてしまった……。僕がヴェルト村や少佐を、こうなる前に止めるべきだったんだ」


「お前さんだけで何とか出来ると考えんのは、傲慢ってヤツだぜ? 封印されし存在を解き放っちまったのが、間違いなのさ。


 どれだけ勇者鎧が強い兵器でも、こんな人の心を操っちまうモンを世に出すのは危ねーよ。龍と悪魔……どちらを危険視したかは、悪魔を封じた先人が証明してるぜ。自然の脅威より、得体の知れない悪意の方が怖いってな」



 後悔するギデオーズに冴虚が言葉を掛けてると、正面の屋敷の扉が開き始めた。


 中から現れるであろう敵に備えて、二人は武器を構える。


 血を滴らせながら歩み出たのは、強欲の勇者マモン=グリーズだ。今は黄金の鎧に赤の陰りを付けながら、血に染まった両刃槍を手にしている。


「……やはり駄目ですな〜。自由になりたいという『簡単な』欲望では、長続きしませんな。見切りが付きました。当方、降伏しますです、はい」


 夫婦が敵の異様な風体に面食らっていると、老人の音声がそんなことを言い出した。

 ギデオーズは冠に潜む悪魔に問う。


「久し振りにその声を聞いたな……。一体シナリーちゃんに何をさせた?」


「実験ですよ実験。ちょいと御嬢様の欲を引き出してみたのですが、大した黒い感情は生まれませんでした。

 なので御嬢様が欲するまま現環境の脱却の為に、御嬢様の人生を縛るベネト様を殺害したまでですよ」



「テメー! その子に親殺しをさせたってのか! あぁん?」

 ギデオーズは友人の死にショックを受け、冴虚は怒りに声を上げる。


 それに対し悪魔は、ただ淡々と己が望みを口にした。


「現在の問題を一気に解決する術が御座います。御嬢様は勇者を辞めたい、ワタクシメは質の高い欲望を供給してくれる御主人様が欲しい。

 ならばギデオーズ様、貴方がワタクシメの御主人様になって下されば良いのです」



 マモンは見抜いていた。

 今までベネトと共に戦ってきたギデオーズが偶に見せる、嫉妬と羨望の瞳。

 あれは勇者や頂上の力に焦がれる、男性特有の欲求。


 きっと錬金術に傾倒したのも、勇者になれなかった自分への代わりなのだろう。


 マモンは確信していた。条件を飲むと。

 ギデオーズ=ゴールもまた、勇者や英雄に焦がれる『少年』だった頃が有るのだと。



ΦΦΦ



 かくして夫婦と悪魔は対決せぬまま、銀騎士達は敗れてしまった。エルヴの女は死に、夫は失踪。


そしてこの事件を目撃して、狂った人間がもう一人居た。

 幼き少女は初恋の女性が死体に変わっていく毎に、悲鳴の合いの手。

 やがて冴虚が動かなくなると、悲劇から逃げるようにして、いずこかへ走り出した。

 体力が枯れる限り現実逃避を続けたシナリーは、村の入り口を出て、街道を駆け、行く当てもなくただヴェルト村から離れようとしたのである。


 その道中で出会ったのが、ヴェルト村へ向かう途中だったライデッカー神父だった。

 彼は夫婦の古い知り合いで、シナリーから事情を聞き、村への道を急ぐが、村が有ったはずの位置に何もなく、彼は結界の可能性に思い当たる。


 マモンが造らせたパンデモニウム邸から発生した強い結界で、村全体が外界から視覚的に隠され、侵入することが出来なくなってしまったのだ。

 ライデッカーは少女を連れ帰り、いずれ起こるかもしれない事態に備え始めるのであった。


 それからシナリーの脳は闇に染まる。

 いくらマモンに操られた可能性が有るとはいえ、母が父によって殺害されたなど、少年に伝えられようかと。

 そもそも自分が勇者を辞めたいなど言い出さなければ、あの一家を巻き込みさえしなければ。

 誰かに助けて欲しいと思わなければ、一家の幸せな家庭は破壊されないし、初恋の相手である冴虚も死なずに済んだ。


 全てこのシナリー=ハウピースの罪。勇者という己が不幸を、他人に肩代わりさせ、取り返しのつかない事態を引き起こした。

 罰せねば。害されねば。

 愛する人が死ぬ原因となった、自分自身に償わせねば。

 誰によって?

 それは…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ